長島の自然環境及び生態系調査研究・調査研究の成果
 2003年5月10日
★第10回自然の教室(3月31日)

● 観察会の結果は、9種もウミウシが見つかり、そのうち2種マツカサウミウシの未同定種とフジエラウミウシは山口県で初の発見だそうです。他はキヌハダウミウシ、マダラウミウシ、オカダウミウシ、アリモウミウシ、ヒロウミウシ、イソウミウシ近似種、アメフラシです。また、このうち5種は田浦での新しい発見で、結局、いままでになんとこの狭い田浦で、27種もウミウシが見つかったことになります。福田さんが希少な微小貝のイソコハクガイをまた1個見つけられました。
★長島の生物調査(春季)・自然の教室(5月5日〜6日)

<潜水班>指導:福田宏さん(岡山大学)
*新種と見られるウミウシのウミコチョウを発見。ナメクジウオも昨年同様確認された。
<植物班>指導:安渓貴子さん(山口大学)安渓遊地さん(山口県立大学)野間直彦さん(滋賀県立大学)加藤真さん(京都大学)
*植物班は25人が参加して神社用地に隣接する森を調べました。立派なタブノキなどがあり、絶滅危惧種に指定されている花も咲いていました。
<潮間帯班>指導:向井宏さん(北海道大学)西濱士郎さん、福田宏さん(岡山大学)
*埋め立て予定地のタイドプールでヤシマイシン近似種確認。同じ場所で同じく希少なイソコハクガイ・ナギツボも確認された。
<鳥類班>指導:山本尚佳さん、岡野友紀さん(日本野鳥の会)
*鼻繰島の2羽のハヤブサを確認。その他キビタキ・センダイムシクイ・ヤブサメを確認。
★IWC総会科学委員会小型鯨類分科会のスナメリ視察(2002年5月5日)

スナメリを5〜6群、約20数頭確認したほか、船上から生物調査の模様を視察した。参加した米デユーク大(ノースカロライナ州)のアンデイー・リード教授は「貴重な自然が残っている特別な場所」と感想を話した。
★第11回自然の学校(2002年6月2日)

● 粕谷俊雄(帝京科学大学)講演@スナメリの生態系A瀬戸内海のスナメリが最近20年間で激減しているB上関を含む周防灘西部は比較的に生息頭数が多いC中国電力の上関原発にかかるアセスメントでは他の海域にも生息しており、泳遊域が広範囲であるから、埋め立て・温排水の影響が少ないとしているが、他の海域のスナメリの生息条件も乱し、ひいては全体の生態系のバランスを崩すー等を学んだ。
● その後、参加者はスナメリの海上視察を行い、長島と牛島の間で数頭のスナメリを2〜3回ほとんどの人がみることができた。
★第12回自然の学校・夏季調査(2002年8月3日)

活動成果としてはコモンウミウシ・マダラウミウシ・ババガセ等希少海生生物を確認した。
コモンウミウシ(瀬戸内海新記録種?)マダラウミウシ
★第13回自然の学校・秋季調査

● 活動成果としては潮の条件が悪く、潮間帯の調査があまりできなかったが、専門家の指導により超微小貝類の観察方法などを学んだ。
● 野鳥班は、28種の野鳥、ヒヨドリの渡り、ミサゴを確認した。
★スナメリ網代漁取材(2003年3月23日)

● 文献資料では1807年、忠海村の浜岡栄作によりスナメリ網代漁が考案された。スナメリに追われるイカナゴを餌にしようと鯛が浮上してきた処に、仕掛けを入れ、捕獲する方法である。
● 聞き取り調査結果
* 日本では忠海村の10数家族のみが認可された非常に珍しい漁法である。
* 漁は2月〜5月にかけ行われ、産卵前のサクラ鯛は高く売れたことから、富をもたらしてくれる神様として、阿波島にスナメリを祀った祠を建て、漁の開始にあたってはお神酒を供え、参拝した。
* スナメリは最盛期に100〜150頭の群れで回遊していた。
* 1960年代、動力船が航行するようになってから、スナメリが激減し、この漁法も廃れた。現在、忠海町で経験者は2名のみであり、ビデオ取材は初の試みである。
* この海域は大正5年にスナメリ回遊天然記念水面に指定された。当時、鯨油業者がスナメリを銃で捕獲したことから、阿波島周辺海域1,5kmを天然記念回遊水面とし、スナメリ網代漁従事者の漁業権を守る目的で指定された。
* 加藤真(京都大学)氏はこの海域にはイカナゴが多く生息する州が多くあったが、1970年代からの海砂採取で海底の様相が激変したこともスナメリ激減の一因であろうと語った。
 
各分野の調査報告
★長島・田ノ浦での植生調査の結果の報告

長島・田ノ浦の植生

上関町の長島は、スダジイ、タブノキ、ヤブニッケイなどの常緑樹林と、コナラやアベマキの落葉樹林、モウソウチクをはじめとする竹林が分布する。集落は海岸付近にかたまってあり、水田と畑、耕作放棄地が点在する。海岸は岩場が多く、常緑樹の海岸林が直接海にせまり、天然の岩礁海岸が続く。コンクリート護岸は非常に少ない。
建設予定地の田ノ浦は、長さ約300mの長島には稀な砂浜があり、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、ハマナタマメ等のつる性草本、ハマツメクサ、ハマナデシコ、ツルナ、オカヒジキなど砂浜に特有な草本が見られる。スナビキソウにはアサギマダラが、ハマダイコンの群生地には、ビロウドツリアブやケブカハナバチが訪花する。海岸林が砂浜に接するところには、海側にヒゲスゲ、内陸側にアオスゲや、ヒトモトススキの群落が谷内坊主のように盛り上がって土と水を溜めている。ボタンボウフウやクサスギカズラ、イワタイゲキなどが生育していて後方の岩が多い立地の海岸林につづく。
田ノ浦の10年以上前に耕作が放棄された水田跡は、ヨシやヒメガマ、ハンゲショウの生育する湿地草原になり、トキワススキの群落も見える。護岸のない岩礁海岸にはトベラやハマヒサカキ、シャリンバイなどの海岸林がある。その奥には、もくもくとした樹冠の照葉樹林が水田あとを取り囲むように田ノ浦を抱いている。
予定地内の海岸が少し突き出た所にある小島とその対岸の崖には、天然のビャクシン群落がある。天然のビャクシン群落は、日本列島では現在、開発と乱獲によって、十分な生態系の調査・研究がおこなわれないまま著しく少なくなっている。我々の調査結果から、この小島はビャクシンの健全な年齢構成からなる群落であることがあきらかになった(野間・安渓、2001)。

田ノ浦の照葉樹林

山すそはかつての農地で、現在はトベラやアカメガシワ、ヤダケが密生した若い二次林である。その上部は常緑広葉樹林と、薪炭林の面影を残したアベマキ・コナラ林、稜線はアカマツ林からなっている。
常緑広葉樹林は樹冠が高く、成熟した森林の景観を示して中は暗くて林床植物が少ない。林床には、シュンラン、オオバノトンボソウ、ミヤマウズラなどのランの仲間や、ユリ科のコヤブラン、ナガバジャノヒゲなどが点々と落葉の間に分布する。所々にタヌキの溜め糞が山をなし、そこに木々の実生が密生している。
海に面した稜線の森は明るく乾燥していて樹高は3〜5mと低くなる。木本の種類が多く、潅木状になり密生しておいる。コナラやシャシャンボの葉が厚く丸くなり、潮風の影響がみられる。草本層に最近分布が減っているツクシママコナが群生している。
やや内陸にはアカマツ、コナラ、アベマキが生育するいわゆる里山の景観が続いている。人手が入らなくなって常緑樹が増えてきているが、キンラン、ギンランやヒトリシズカ、コバノタツナミソウなど、かつて郊外の山々を歩けばあたりまえに見られたが今は少なくなった草花が咲いている。また、分布が本来限られているヤマハコベやジュウニヒトエなどが道沿いに咲いていて、いずれも希少な分布地である。
タブノキの森

田ノ浦の水田跡の南側の谷は、神社用地をふくみ「地形改変区域」と名づけられ山が削られ埋め立てられる場所にあたっている。ここには直径50cm近い大きい木が多い。樹冠が高く、林内が暗くて下層木がすくなく、極相に近い常緑広葉樹林の景観をもっている。太いタブノキ、カゴノキやモチノキも見られる。
調査地と方法

2002年5月と7月の植生調査では、2001年に調査したクロキ、カゴノキ、ヤブニッケイからなる照葉樹林の北側にあるタブノキを中心とした森林に、25m×25mの方形区を設置した。
南向きで傾斜は平均して30度を越えている。高さ130cm以上の木本について、130cmの高さでの直径(胸高直径)と樹高を測った。また調査地内に1m×1mの方形区をおいて林床の植物についても出現種とその数を記録した。
調査結果については、現在とりまとめ中であるが、樹冠を覆うのはタブノキの他にクロキ、カゴノキ、ヤブニッケイ、ヒメユズリハなどの常緑樹であり、亜高木層には上記の樹種のほかに常緑樹のシロダモ、カクレミノなどが見られる。年中林床が暗いので低木や草本層が少ない。しかしヒサカキ、ネズミモチ、モッコク、またタブノキやヒメユズリハの稚樹や実生が多く見られる。各層にタブノキが出現していて、他地域いきのタブノキ林とは異なる特徴が見られる。
2001年度の調査結果から(安渓・野間、2001)、クロキ・カゴノキ・ヤブニッケイ・ヒメユズリハを主な構成樹種とする群落は、山口県ではタブノキ群落の極相林に近いものである(塩見ら、1994)ことが明らかになっていたが、今回、タブノキそのものを優占種とする林分が見つかったことで、その裏付けにもなった。
この田ノ浦の森は、人為が加えられた森林であったが、長年人手が入らなかった結果、極相林に近づきつつある森林と位置づけられよう。
上関町には山口県周防部の沿海地の極相林に近い樹林として、蒲井八幡宮が県の天然記念物に指定され(南、1988)、白井田八幡宮が、山口県の自然記念物に指定されている。これらは神社の杜として守られてきた群落である。
山口県ではこういった極相林に近いかろうじて残された社寺林を、たとえ小面積でも自然記念物として指定し、その保全をめざしている例が多い。ここ田ノ浦の照葉樹林はその質からも面積からも当然、指定されてしかるべきものであった(ただし、指定にあたっては関係市町村長の意見、縦覧とその後の住民及び利害関係人の意見書の提出、公聴会などの手続きが必要である)。
きわだって高い生物多様性をもつ田ノ浦の海は、それを取り巻く森と湿地の豊かな植生によって守られてきたといえよう。植生の回復から明らかなように、農薬や除草剤、生活廃水によっても守られてきたわけである。
引用文献


安渓貴子・野間直彦2001 長島・田ノ浦の海をはぐくんできた森 長島の自然(日本生態学会中国四国地区会報)59: 36-40
塩見隆行・多賀谷三枝子・松井茂生,1994秋吉台地獄台ブッシュの植生.山口生物,21:68
野間直彦・安渓貴子,2001長島の海岸崖地のビャクシン群落の構造,長島の自然(日本生態学会中国四国地区会報)59: 41-44
南敦,1988 上関町史第三章植物、上関町史, 上関町史編纂委員会編,

★野鳥班
● 調査場所
熊毛郡上関町四代 四代地区人口(本線分岐)から田浦海岸まで
● 調査方法
上記道路(ライン)上を一定のスピードで歩行し、出現鳥種を全てを記録。

調査自体が「自然観察会」を兼ねており、調査担当者が参加者に説明や解説をしりする時間も含まれ、厳密なラインセンサスになっていない。とはいえ、出現鳥については可能な限り厳密に記録した。
● 調査日時 2002年5月5日 (日)10:00〜13:15  天候   晴れ
● 調査者 山本尚佳、嶋田淑子
● 調査結果
13科17種 109羽を記録した。
種名を出現順に列挙すると、ウグイス、メジロ、ヒヨドリ、カワラヒワ、アオサギ、ホオジロ、ハシブトガラスシジュウガラ、トビ、キジバト、センダイムシクイ、キビタキ、ウミネコ、コゲラ、ヤマガラ、ヤプサメ、ハヤブサ
● 調査日時 2002年5月6日(月)8:30〜11:25
● 天候 曇り(時々小雨)
● 調査者 山本尚佳
● 調査結果
14科17種 138羽を記録した。
種名を出現順に列挙すると、ウグイス、シジュウガラ、トビ、ホオジロ、ウミネコ、ヒヨドリ、カラスsp、カワラヒワ、メジロ、ツバメ、コゲラ、キビタキ、キジバト、ヤブサメ、ヤマガラ、ハヤブサ、アオサギ
●調査概要
5月5日、カワラヒワの幼鳥を確認、近くで繁殖したものと思われる。また、シジュウカラが農道のカーブミラーのポールに出入り、巣材(コケ類)を運ぶのも目撃された。
5月6日には、ヒヨドリ(30+)の群れも観察され、春の渡りのコースになっているようである。
夏鳥のセンダイムシクイ、ヤブサメ、キビタキについては、例年この時期に観されるが、繁殖の可能性については不明。
* 参考までに、過去の記録から上記の記録種意外で同調査で同時期に観察された種を上げておく。
* 2000年5月5日
オオルリ、オオヨシキリ、クロサギ、キアシシギ、ハチクマ
* 2001年5月6日
*  ウミウ、ヒメウ、セグロカモメ、サシバ、イソヒヨドリ
● 調査日時 2002年10月12日(土)10:40〜12:15
● 天候
● 調査者 山本尚佳
● 調査結果
14科 18種 294羽を記録した。
種名を出現順に列挙すると
ヒヨドリ、メジロ、カラスsp、ノビタキ、ホオジロ、トビ、モズ、アオサギ、シジュウカラ、ツグミsp(シロハラ?)、キジバト、ウグイス、カワラヒワ、アオゲラ、ヤマガラ、コサメビタキ、タカsp(ハイタカ属)、ジョウビタキ
調査後、田ノ浦にて、ノスリ、ヒクイナ、ミサゴを記録。(計15科22種)
● 調査概要
季節的に渡りのシーズンであり、特にヒヨドリの個体数が206羽と多かった。
調査開始時間の問題や調査地の見通し具合などから大群は観察されなかったが、小群(20〜30羽)で海岸線を山伝いにひっきりなしに移動していくのが観察された。(なお、当日の集合場所の蒲井港では10時前後頃、上空を数百羽近い群れが幾群か観察された。)その他、渡り鳥ではノビタキ、コサメビタキは通過中(暫くは滞在)のもの、ツグミsp、ジョウビタキは冬鳥、タカsp、ノスリについては通過ないし冬鳥である。定番のハヤブサが観察されなかったのは残念であった。
● ハヤブサの繁殖状況について

鼻繰島をテリトリーにしているハヤブサの番いの繁殖活動は、毎年、交尾、抱卵までは行くものの、何らかの原因で中断し、再度繁殖活動に入るようだが、結局ヒナを孵すまでに至っていない。
繁殖がうまく行かない原因については、いろいろ言われているが、番いそのものの問題や環境汚染の影響とかは簡単に調べることが出来ないものの、外からの観察からは少なくとも繁殖場所に問題(巣の位置、カラスや釣り人の影響など)があるようで、それを打開しない限り、改善は見込めないだろう。情報を総合し、専門家の意見も聞き、積極的な保護策を県当局にも要望していく必要がある。