研修の概況[pdf261] 研修の概況[pdf261] 研修の概況[pdf261] |
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立澤 史郎 さん | ||
http://ecol.zool.kyoto-u.ac.jp/homepage/serow/serow.html | ||
50万円 |
2002年12月の助成申込書から
地域の市民が主体となって科学的実態把握と民主的意志決定を行い、自身の生活環境・文化環境である地域の生態系や野生生物を保全してゆくためには、科学者および科学者コミュニティーは、単なる科学研究だけでなく、少なくとも研究情報の開示とアドバイザリー活動を本気で実践して、市民が科学および科学的保全の主体となるための助力をしてゆかねばならないと考えられる。
このような問題意識のもと、先駆的な研究と事業活動を進めている北欧のプロジェクトの主体機関などにおいて研修を受け、その成果を日本の保全問題の現場において、NGO・科学者コミュニティー・行政への提言および実践として還元することを目指す。
中間報告から
市民やNGO、行政、研究者の3者が、独立した存在でありつつ相互に協力し連携しあう、そういう歴史と風土が北欧にはあります。本研修では、生態系保全に関わりの深いシカ類とその生息地の保護と管理にテーマを絞り、特に研究者組織がどのような問題認識をし、どのように解決しようとしているかという点について、現状や歴史を学ぶ機会を得ました。
研修・訪問先は、主要受け入れ先である北欧トナカイ研究機構(NOR)のほか、国際北極圏有蹄類会議、フィンランド魚類野生生物研究所、SIIDAサーミ博物館、トロムソ大学、オスロ大学自然史博物館、ヘルシンキ大学自然史博物館などで、各所において、研究員や事務局員へのインタビュー、ミーティングの傍聴、情報収集や議論などを行いました。
具体的には、チェルノブイリ原発事故後のトナカイやその生息地の放射能汚染、風力発電推進と野生動物保護のジレンマ、先住民であるサーミのトナカイ牧畜権の擁護・資源開発・生態系保全のトリレンマなどの課題にアプローチする研究内容、それらの研究を進める仕組みとしての博物館活動や学生研究支援システム、などの事例について実情を学びました。
今後はこれらの資料や記録を整理し、参考となる仕組みや発想を雑誌等で紹介すると共に、大学などの教育研究機関や研究者コミュニティが市民との関係を変えてゆくような提言・活動を行ってゆきたいと考えています。
完了報告から
市民やNGO、行政、研究者の3者が、独立した存在でありつつ相互に協力し連携しあう、そういう歴史と風土が北欧にはあります。本研修では、生態系保全に関わりの深いシカ類とその生息地の保護と管理にテーマを絞り、特に研究者組織がどのような問題認識をし、どのように解決しようとしているかという点について、現状や歴史を学ぶ機会を得ました。
研修・訪問先は、主要受け入れ先である北欧トナカイ研究機構(NOR)のほか、国際北極圏有蹄類会議、フィンランド魚類野生生物研究所、SIIDAサーメ博物館、トロムソ大学、オスロ大学自然史博物館、ヘルシンキ大学自然史博物館などで、各所において、ゼミやミーティングへの参加、研究員や事務局員へのインタビュー、資料や情報の収集などを行いました。
なかでも感銘を受けたものに、北欧トナカイ研究機構(Nordic Organization of Reindeer and reindeer husbandry)やAUS (Arctic Ungulate Society) によって培われてきた、国境を越えた合同研究体制と、それをベースとしたCAES (Circumpolar PhD network in Arctic environmental studies )に代表される合同教育体制や大学院生の民間インターンシッププログラムがあります。これらの機関やプログラムの職員や参加者に対しては、できる限りの聞き取りや帰国後の追加インタビューなどを行い、現在もメーリングリストなどを通じて議論や活動をフォローしています。
同機構は、成り立ちそのものが、人とトナカイと北欧の自然との関わりを国境を越え、また自然科学と人文社会科学の垣根を超えて研究し、その成果を社会へ還元することにあります。そしてその象徴的といえる活動が、チェルノブイリ原発事故後のトナカイやその生息地の放射能汚染に関する長期にわたる研究活動で、これは野生トナカイ集団の消滅など自然科学的研究から、トナカイ遊牧の衰退によるサーミ社会の急速な変容まで、幅広く、しかも社会に対してインパクトの大きい多くの研究を生み出しています。
特にここ数年は、定住的になり近代化と伝統保全との狭間で揺れているサーメ社会との連繋を強め、国境を越えて活動するサーメ議会にも対応したCAESの拡充、サーメ人学生や社会科学者の積極的受け入れなど、先住民族による環境ガバナンスを重視・支援する方向へ活動目的をシフトさせつつあります。
ほかにも、風力発電推進と野生動物保護のジレンマ、トナカイ牧畜権の擁護・資源開発・生態系保全のトリレンマなど、象牙の塔にこもったり研究分野の枠にとらわれていては扱えない課題への取り組みが、このようないくつもの壁を超えた体制によって可能になっている現実を知りました。
その他、トロムソ大学を中心とする民学連繋の研究機構における科学水族館の運営システムやそこでの環境学習プログラムの展開(特に、捕鯨産業と独立した形での研究・教育システムのあり方)、オスロ大学自然史博物館やヘルシンキ大学自然史博物館における市民に解放された博物管理運営や大学およびNGOとの連繋など、市民と研究者が問題意識と研究成果を共有するための長期間にわたる努力がまちづくりや生態系保全に成果となって現れている事例を体験することができました。
今後はこれらの資料や記録をさらに整理し、参考となる仕組みや発想を雑誌等で紹介すると共に、大学などの教育研究機関や研究者コミュニティが市民との関係を変えてゆくための具体的な提言・活動を行ってゆきたいと考えています。
対外的な発表実績、今後の展望
1)国際北極圏有蹄類会議にて研究発表(2003年8月26日サーリセルカ市)
タイトル「Habitat segregation prompts population regulation in islander sika deer」
2)日本哺乳類学会保護管理委員会にて事例報告(2003年10月7日岩手大学農学部)
3)「熊毛の自然と文化を守るシンポジウム」にて事例発表および提言(2003年11月 地球環境基金・ヤクタネゴヨウ調査隊主催,屋久島)
4)第3回国際野生生物管理学会議にて事例発表および分科会参加(2003年12月3日ニュージーランド国クライストチャーチ市)
テーマ「地域社会が主体となった野生動物の保全管理のあり方」
5)日本生態学会和文誌に事例報告を掲載予定(2004年12月見込み)
今後の展望
現在、北欧トナカイ研究機構およびAUSの課題として、旧ソビエト連邦地域および極東地域における野生トナカイとトナカイ牧畜の実態調査の実施と、それを元にした生態系および伝統的社会保全の提言があり、その活動の一部としての、ロシア・サハ州での北欧以外で初のAUS会議の開催、および極東地域でのトナカイ実態調査体制実現のための現地予備調査の実現にむけて、情報交換を行っている。
また、北方四島におけるトナカイ実態調査についても、別途北方四島の環境保全調査を進めているNGO他と、NORおよびAUSとの仲介をすべく、ミーティング・シンポジウムを企画している。
さらに、CAESへの極東地域からの参加を進めるべく、その前提である研究機関の参加登録を効果的に進めるための諸学会呼びかけ準備を行っている。