玉山 ともよ さん | ||
37万円 |
2010年12月の助成申込書から
昨年度MASEで研修をさせていただき、その活動の中でも、近隣先住民族より「聖山」として崇められているテーラー山でのウラン鉱山開発に対しての取り組みについて、本年度は研修を発展させ、とりわけその問題をより深く学ぶことを重点的に行う。
研修先は引き続きMASEとし、2011年夏に約1ヶ月間、MASEのネットワークに参加する諸団体主催の活動に参加しながら、情報・資料収集、デモ参加、インタビューを通して、テーラー山のウラン鉱山開発の影響を調査する。
テーラー山はウラン資源の豊富なグランツミネラルベルト地域内にあり、アルバカーキ市より西に車で約2時間の場所にある。なぜこの山なのかと言うと、この山は近隣先住民族より「聖山」として崇められており、2009年にニューメキシコ州政府より文化財としての認定を受けた。その文化財区域内に、カナダのストラスモア・ミネラル社と住友商事による合同ベンチャー事業で、2007年以来鉱山操業を目指している「ロカ・ホンダ」ウラン鉱山が提起されている。ということで日本の関与があることが、テーマ選択のもとになっている。
テーラー山の文化財認定自体、ホピ、ズニ、アコマ、ラグナ、ナヴァホの先住民族の共同ノミネートによる、同山でのウラン鉱山再開発阻止を向けて取り組まれたものである。その認定過程で、高失業率に苦しむ地元自治体や商工会がウラン鉱山事業を歓迎し推進に回り、過去のウラン開発で放射能汚染の被害の爪跡が消えない先住民族側と大論争が起こった。開発計画が進行中のロカ・ホンダ鉱山を事例にフィールドワークを行い、開発に際しての社会影響評価研究に研修で取り組みたいと考えている。
2011年11月の中間報告書から
米国ニューメキシコ州「グランツ・ミネラルベルト」と呼ばれるウラン鉱山資源が豊富な地帯の中の、テーラー山麓にある「ロカ・ホンダ」という名の住友商事が出資しているウラン鉱山開発を、日本企業が関わっているからということで研修のメインターゲットに据えていました。
しかし今回、研修期間中の前半では同じグランツ・ミネラルベルト内のナヴァホ先住民族保留地内において、MASE (Multicultural Alliance for Safe Environment) に加盟している「レッドウォーターポンドロード(RWPR)」コミュニティーグループから、スリーマイル島事故が起こった同じ年(1979年)の7月16日に、ユナイテッド・ニュークリアー社(UNC)所有のチャーチロックウラン鉱さい池ダムが決壊し、大規模放射性物質流出事故の32周年記念行事をするので来ないかと誘っていただき、とりわけ今年はフクシマのことをリンクさせて行いたいのでということだったので参加させて頂きました。32年前のチャーチロックダム事故ではおよそ1,100トンもの精錬所からの放射性廃棄物を含む大量の廃液がプエルコ川に流れ込み、非常に広範囲にわたり流域を汚染しました。
RWPR コミュニティーは、1974年から85年まで旧カール・マギー社が操業していた二つのウラン鉱山に挟まれ、近くにはUNCが操業していたウラン鉱山と精錬所もあるところで、2007年になってようやく大規模な除染を経験しています。現在操業しているウラン鉱山や精錬所は近隣にはもうありませんが、いまだに低レベル放射能汚染の被害に苦しみ、彼らナヴァホ先住民族は環境修復や健康被害の補償問題が終わっていないにもかかわらず、また新たな源位置抽出法(In-situ Leach)によるウラン鉱山再開発の脅威に同地域で直面しています。
今後、来年3月に、もう一度アメリカへ行き、引き続き研修を行う予定です。
完了報告より
前年につづき、高木基金の助成を受けて、2回にわたりニューメキシコ州のMASE(Multicultural Alliance for Safe Environment:アメリカ南西部のウラン鉱山開発を憂慮する
市民のネットワーク)の活動に参加しました。いずれも1週間程度の短い滞在期間でしたが、密度の濃い内容で、多くのことを学ぶことができました。
2011年3月11日の福島第一原発事故がもたらした影響は大きく、7月の滞在で、MASEのイベントに参加した際には、当初予定していなかったことですが、自然災害後の人為的災害として、日本の状況に関しスピーチを行う機会を得ました(当時驚くほどアメリカ国内での福島報道が少なく、それが後に意図的であるとの確信を持ちました)。
2012年1月の滞在では、具体的にロカ・ホンダ鉱山に焦点をあて、採掘の現場となる場所をMASEの先住民族メンバーに案内していただき、またその翌日には実際の開発会社であるストラスモア社を訪れ、市民グループとの開発観の相違についてあらためて確認しました。
一連の研修を通じて、住友商事がJOGMEC((独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構)から受けた「海外ウラン探鉱支援助成金」について考察を重ねました。結論は、この補助金がなければリスクの高いロカ・ホンダ鉱山への出資はなかったであろうということで、言うなればウラン権益確保は国の補助金なしでは成り立たないということを再認識しました。しかしその補助金を出資している日本国民は、一切現地でどのような影響が起こっているのかを知る機会がありません。
この様に、国のエネルギー政策の末端まで情報公開が適切に行われていない状況を打破したいと考え、「脱原発世界会議」に出席する等して、問題をアピールしました。
テーラー山でのロカ・ホンダ鉱山開発というローカルなテーマを掘り下げれば掘り下げるほど、世界的なウランマーケットにおけるマネーフローの問題や、グローバルな核をめぐる利権構造の問題に行き着きます。MASEの活動を通じて、環境正義、あるいは最も影響を受ける人々との連帯について学ぶところが多く、高木基金が言う市民科学者的なスタンスの研究を今後も行っていきたいと考えています。
このような経験をもとに、「先住民族の10年市民連絡会」が発行する「先住民族の10 年ニュース」で、4回にわたり「北米先住民族と核」にかかわる様々なテーマについて連載しました。いずれもアメリカでの核開発や被曝の問題について、研修で得た知識をできるだけ福島の問題とリンクさせたかたちで伝えるように務めました。
経産省は、国内原発向けの燃料としてのウラン確保のためではなく、原発輸出の際のパッケージ宣伝材料として、海外でのウラン権益確保に補助金を投入し続け、その2012 年度概算要求が現政権によりそのまま承認されています。このあまり知られていない事実が、実は海外で非常にインパクトが大きいということについて、これからも訴えていきたいと思います。