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アトピー性皮膚炎の成人患者支援スキームづくりのための基礎研究;患者の「困難」の構造的・歴史的理解と支援方針の検討のために



グループ名 助成研究の完了報告書[pdf39]
助成研究の完了報告書[pdf39]
助成研究の完了報告書[pdf39]
代表者氏名 安藤 直子 さん
URL http://homepage2.nifty.com/yamanekoworld/
助成金額 30万円

2007年6月の成果発表会にて

研究の概要

2005年12月の助成申込書から
 本研究は、アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatis;以下、ADと略す)の成人患者を対象に、彼(女)らが生きてきた/生きている「困難」を構造的-歴史的に検討し、彼(女)らに対する支援のスキームづくりのための基礎的作業を行うことを目的とするものである。  申請者たちは、成人AD患者の生きてきた/生きている「困難」を三重のものであると理解している。 1)現代社会にかかわる困難……AD患者は、しばしば就学や就労の機会を逸することになり、また就学や就労をしていても長期の休業を余儀なくされたり、退職・退学をせざるをえなくなることも多い。 2)現代家族にかかわる困難……AD患者は身体的・精神的・社会的な困難を何重にも背負い込むことによって、家族のなかでも多様な困難を抱え込むことが多い。 3)現代医療システムにかかわる困難……日本の皮膚科学は、ADに対して副腎皮質ホルモン(ステロイド)外用薬を中心とする「薬物治療」をベースとするガイドラインを設定しており、治療の現場においては患者側の治療法を選択する権利はほとんど認められていない。  以上の「困難」の具体的な様相を、アンケート調査とインタビュー調査とを併用するによって、とりわけ彼(女)らの生活史にまで遡って明らかにする。  そこから得られた知見から最も緊急と思われる支援方策についての提言を行うとともに、さらなる研究に向けての見取り図を描くことを最終目標とする。

中間報告

2006年10月の中間報告から
 今期は、調査研究計画のうち、主として「アンケート調査」と「アトピー・フォーラム」について準備し、順次実施した。 1)アンケート調査の準備・実施:共同研究者、患者、アトピー患者支援従事者、アトピー問題研究者との数回にわたる協議を経たうえで、「成人アトピー患者(16歳以上)の抱える困難について」(14頁)を作成した。  そのうえで、医師20名、湯快宿+ふれあいセンター(北海道天塩郡豊富温泉)、アトピー患者支援機関等の協力により、これまでに約1700通を配付し、9月10日現在で430通の回答を得ている。  現在、集計作業を行っているが、学業や就職において大きな困難があること;家庭内での困難を強く訴える患者も少なくないこと;際立つのは医療現場での困難であり、多くの患者が、自分の望む医療を受けられなかった経験があること、などが浮かびあがりつつある。 2)アトピー・フォーラムの準備・開催:アトピーや乾癬等の皮膚病患者の湯治場として知られている豊富温泉にて、「語り合おうアトピー!フォーラムin豊富2006」を9月16日(土)から18日(月・祝)にかけて実施した。  初めての試みであり、しかも北海道最北の地での開催とあって、参加者は17名と多くなかったが、成人患者、アトピーに悩む親子、患者主体のアトピー治療に取り組む医師、アトピー問題の研究者など、多様な層の参加を得、きわめて有意義な学び合いの場を持つことができた。  とりわけ、患者と医師とが一緒になってアトピー問題の現状と課題とを語り合う「アトピー・ワークショップ」、医師・保健師・研究者の三者によるミニ・シンポジウムは、成人アトピー問題の現状と支援スキームを考えていくうえで、きわめて有意義なものであった。

結果・成果

2007年4月の完了報告から
 本調査は、アトピー患者の抱える困難と有効な患者支援のあり方を探ることを目的として、量的調査(アンケート)・質的調査(インタビュー)及び患者を中心とする語り合い(アトピーフォーラム)の3つの形態を通して実施したものである。  いずれに調査においても、調査対象となった患者たちは、一般的なアトピー患者よりもやや重症度が高く、また、ステロイド外用剤を第一選択とする標準治療を断念せざるを得なくなった患者が多く含まれたことが特徴である。  アンケート調査は80問近い設問からなる長大なものであったが、当初の予定の2倍以上となる1072通の調査票を回収することができ、回収率は配布数の5割を超えた。  アンケート調査では、「社会における困難」「家庭における困難」「医療における困難」に分けて質問を行ったが、標準治療から外れた成人アトピー患者たちを対象とした大規模かつ体系的な実態調査は、おそらく初めての試みであろう。  また、インタビュー調査では、一人一人の患者による病歴の語りを記録し検討を行ったが、アンケート調査の結果と大きく一致するものでありながら、アンケート調査では見ることができなかった、個々の患者によって生きられている総体としての「アトピー経験」が浮き彫りになった。  さらに、アトピーフォーラム(豊富温泉)では、患者を中心とし、家族、医師といったアトピーを巡って立場を異にする人々が集まり、患者と彼ら彼女らを巡る関係者の語らいを通じて、相互理解と支援のあり方について議論がなされた。  本調査より、患者の実態として次のようなことが見いだされた。 1)患者たちの病態は、一般に知られるより遥かに悪化することがある。  そして極度の悪化は、ステロイド外用剤などの薬物治療からの離脱に伴って起こることが多い。 2)悪化に伴い、患者の社会生活は著しく阻害され、長期の引きこもりや退職経験、経済的困難に直結することも少なくない。 3)症状の悪化時には、患者たちは肉体的精神的支援を求めているものの、時にどのような支援が具体的に有効であるかが本人にもはっきりしていない。 4)患者たちは、症状の悪化がもたらす身体的苦痛もさることながら、それがいつまで続くのか、将来の予定をどう組み立てればよいのかわからず、医療現場でもはっきりした回答が得られないことに不安といらだちを感じている。 5)症状の最大の悪化要因にはストレスがあがり、コントロールできるようになった最大の理由には、「ステロイド外用剤の中止(=ステロイド外用剤からの離脱)」が挙げられた。  こういった患者の実態に対し、市民の立場でありうる支援の可能性を探った。  本調査では、患者たちが「自身の病に向き合い」「病を語る」ことができる一種のコミュニティの必要性が、強く示唆された。  そのコミュニティに、家族や友人、医療関係者が参加し、ともに支え合う形はさらに望ましいであろう。  そのあり方は、単なる情報の提供や啓蒙にとどまらないことが大切に感じられる。  現在、我々は、あとぴーフリーコムという団体の活動を始動させているが、本調査の結果を取り入れた支援活動を行っていきたいと考えている。  また、当然のことであるが、患者が何よりも必要としているのは、病の治癒そのものであろう。  ステロイド外用剤の使用を中断せざるを得なくなった患者たちは、新たな特効薬に対する期待よりも、ステロイド外用剤のもたらしうる副作用に強い関心を持ち、標準的な医療現場にその選択肢しかないことに強い失望感を感じている。  この点について、患者とアトピーの標準治療との間には大きなギャップが存在し、長期の重症患者に対するステロイド外用剤中心の治療の是非については、改めて大規模な調査が必要であると考えられる。

その他/備考


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