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越田 清和 さん | ||
30万円 |
2003年12月の助成申込書から
【経過・成果】
1970年から20年近く続いた伊達火力発電所反対運動について、文献・資料収集の後、現地、伊達市を訪ねるなどして、反対運動に関わった人などへのインタビューを行い、運動の特徴を以下のように明らかにした。
〜換颪帽がった反公害住民運動の一環として、「環境権」裁判などで、大きな役割を果たした。
◆岾発主義」への抵抗である。
それは「お上」(地域独占企業と行政)への抵抗であり、その背後にある「開発」という支配イデオロギーに対する「正義」の訴えであった。
「正義」の根底にあるのは、地域の中に根付いてきた自然と人間の関係、国家から自立して生きてきた自信など、「民衆的」思想である。
そこから生まれた思想表現として「海はだれのものでもない。
漁師だけのものでもない。
地球全体の生物のものである」(野呂儀男さんの最終弁論)などがある。
ぜ分たちの手による徹底した裁判闘争(24件の訴訟)。
とくに「環境権」を前面に出し、公害が出る前に建設を差し止める動きへのさきがけとなった。
ゲ侘枠電所の温排水や大気汚染、パイプラインによる影響を、漁民など住民の体験をもとにした調査を行ない、「民衆の科学」を実践し、開発推進にお墨付きを与える「御用学者」に対する批判を展開した。
Ε▲ぅ面餌欧良権運動へのインパクト。
1960年代後半から若い世代のアイヌを中心に広がったアイヌ民族の権利回復の動きと深いつながりを持っている。
このたたかいが、後の伊達市先住民族アイヌ慰霊碑の建設(1992年)やアイヌ共有財産裁判、伝統漁法の復活につながっていく。
オルタナティブの提案として住民主体の環境基本条例(1997年〜)につながっていった。
【今後の展望】
反対運動に関わった人たちへのインタビューが中心になり、北海道電力や伊達市への聴き取り調査ができなかったので、今年度の継続調査を行なうつもりである。
調査結果は、ブックレットなどの形で公表していく。
その第一弾として、反対運動の中心だった斉藤稔さんの話をもとにしたブックレットを計画している。
また、伊達市図書館にある「伊達火力発電所関連資料」が老朽化しているので、新しい資料目録の作成およびCD-ROM化などを、伊達市に働きかける。
中間報告から
伊達火力発電所が操業を解したのは、1978年7月、今から36年前のことだ。しかし、北海道だけでなく日本全国の住民運動に大きな影響をもった10年以上に及ぶ伊達火力反対運動について語る人は、今ほとんどいない。この調査では、1970年代の公害反対運動や住民運動の中で産まれた自然と人間の関係についての思想や環境権を、もう一度、たたかいに生きた人たちの生き方と重ねて考えようとしている。
2004年6月と7月に、予備調査のために、伊達市有珠地区を訪ね、反対運動の中心となった漁民に有珠の自然と歴史について話をうかがった。古くからアイヌ民族の住む地と知られる有珠の海と人のつながりを改めて知ることができた。また伊達市立図書館に所蔵されている反対運動関係資料の調査を行ない、環境権裁判の流れをつかんだ。8月と9月には、札幌で「伊達裁判に勝ってもらう会」の活動を担っていた人に、札幌での支援運動の様子と、その後の原発反対運動などへのつながりについて話を聞き、今後の聴き取り調査について助言をいただいた。
これからは、遅れていた伊達市での聴き取り調査を本格的に進める予定である。
伊達での聴き取り調査を8月に行なう予定だったが、札幌での調査を先に行ない、その後冬場の農業・漁業の忙しくない時期に伊達での調査を行なうことにした。
調査研究・研修の経過
2004年4月 文献や資料収集
2004年6月 伊達市有珠を訪れる(諏訪野楠蔵さんの案内で有珠を歩く)
2004年7月 伊達市有珠を訪れる(諏訪野楠蔵さんに短いインタビュー)
2004年8月 伊達市立図書館で資料調査
札幌市で伊達火力発電所建設反対運動に関わった人々にインタビュー
2004年10月 札幌学院大学林研究室で資料調査
2004年12月 旭川市で川村兼一さんにインタビュー(アイヌの運動について)
2004年2月から 伊達市と室蘭市で、当時の関係者にインタビュー、関係資料の調査
2004年3月 明治学院大学国際平和研究所のシンポジウムで報告
調査研究・研修の成果
「公害反対」や「大規模開発反対」などの住民運動が、日本各地で高まっていた1970年代前半から、すでに30年以上が経った。あの頃のような地域住民による直接的な抵抗運動は、日本社会の中ではきわめて少数派になっている。しかし運動のスタイルは変わっても、また担い手の世代交代があっても、住民運動の中で生まれた思想や実践、積み重ねられた経験は、地域の中に受け継がれているのではないか。とくに、地域の長い時間をかけてつくりあげられた自然と人間の営み(労働と生活)と、そこから生まれた考え方がどう今の地域自治や環境保全運動に受け継がれているか。あるいは何が受け継がれていないのか。そんなことを調べて、地域が「経済のグローバル化」に対する抵抗の場になるかどうかを考えるというのが、そもそもの問題意識だった。
1970年から20年近く続いた伊達火力発電所反対のたたかいには、次のような特徴がある。
1)全国に広がった反公害住民運動の一環として、「環境権」裁判などで、大きな役割を果たした。
2)「開発主義」(住民無視の決定・警察や金を使った住民の分断、行政と企業の一体化)への抵抗である。それは「お上」(地域独占企業と行政)への抵抗であり、その背後にある「開発」という支配イデオロギーに対する「正義」の訴えであった。「正義」の根底にあるのは、地域の中に根付いてきた自然と人間の関係、国家から自立して生きてきた自信など、「民衆的」思想である。
3)そこから生まれた思想表現として「海はだれのものでもない。漁師だけのものでもない。地球全体の生物のものである」(野呂儀男さんの最終弁論)などがある。これは、大分県豊前火力反対運動で松下竜一さんが提唱した「暗闇の思想」や海・土など「自然との約束」(前田俊彦)といった考えとも共通するものであり、自然と人間の公正な関係を考える時ための住民運動の大きな貢献である。
4)徹底した裁判闘争(24件の訴訟)・監査請求など、自分たちの手による裁判を追及した。とくに「環境権」(「健康で快適な生活を維持するに足りる良好な環境を享受する権利をもつ。この環境権は、憲法13条の幸福追求権、憲法25条の生存権に基礎を置く基本的人権である」)を前面に出し、公害が出る前に建設を差し止める動きへのさきがけとなった。
5)人々による環境調査を行なった。火力発電所の温排水や大気汚染、パイプラインによる影響を、漁民など住民の体験をもとにした調査を行ない、「民衆の科学」を実践し、開発推進にお墨付きを与える「御用学者」に対する批判を展開した。
6)アイヌ民族の復権運動へのインパクトである。この視点は、運動の集大成とも言える『伊達火力発電所反対闘争?住民は語った』(三一書房、1983年)でもふれられていない。しかし、1960年代後半から若い世代のアイヌを中心に広がったアイヌ民族の権利回復の動きと深いつながりを持っている。伊達市の有珠(ウス・ウシュ:湾・入り江という意味)には、1800年代から大きなコタンがあり、20世紀に入ってからは、バチェラー八重子・向井山雄(1946年「北海道アイヌ協会」の初代理事長)という二人に代表されるように、アイヌ民族の文化と政治をリードしてきた地でもある。1950年代から60年代にかけて「滅亡する民族」を前提とした政策やイデオロギーが強まる中で、アイヌ民族の運動はいったん静まるが、1968年の「北海道100年」、伊達町「開基100年」などアイヌの歴史を無視した祭をきっかけに、民族としての自覚と復権への動きが強くなる。伊達火力発電所反対闘争も、有珠コタンに住むアイヌ漁民を中心にした民族復権のたたかいと考えることができる。同時期に創刊された若いアイヌによる新聞「アヌタリ・アイヌ(われら人間)」(創刊1973年)が伊達の問題を大きくとりあげたことが示すように、アイヌ民族の中に大きな共感を呼んだたたかいだった。このたたかいが、後の伊達市先住民族アイヌ慰霊碑の建設(1992年)やアイヌ共有財産裁判、伝統漁法の復活につながっていく。
7)オルタナティブの提案として住民主体の環境基本条例(1997年?)につながっていく。反対闘争の中心であった環境権裁判で敗訴した後、運動の新しい方向性として、「環境権を地元で確立する」(斉藤稔)ことをめざし、行政と市民の関係を修復するために環境基本条例の制定作りに着手する。何よりもユニークなのは条例作成メンバーを公募にし、これまでの環境行政の責任をあいまいにしないというし基本方針を貫いたことである。
対外的な発表実績
1 研究発表「抵抗からオルタナティブへー北海道・伊達の事例から考える」(2005年3月11日・12日 明治学院大学国際平和研究所主催の国際シンポジウム『グローバリゼーションと『南』の農民?オルタナティブはすでに起っている』にて)
2 上記発表をもとにした論文を『PRIME』(明治学院大学国際平和研究所)22号(2005年8月発行予定)に寄稿
今後の展望
1 反対運動に関わった人たちへのインタビューが中心になり、北海道電力や伊達市への聴き取り調査ができなかったので、今年度の継続調査を行なうつもりである。調査結果は、ブックレットなどの形で公表していく。その第一弾として、反対運動の中心だった斉藤稔さんの話をもとにしたブックレットを計画している・
2 伊達市図書館にある「伊達火力発電所関連資料」が老朽化しているので、新しい資料目録の作成およびCD-ROM化などを、伊達市に働きかける。
3 伊達の経験を、グローバル化に対するオルタナティブを模索するアジアの人々と共有するために、2005年7月に中国で行なわれる「地域ガヴァナンス」の国際セミナーで発表する予定。