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高木仁三郎市民科学基金 第23期(2024年度)国内枠助成先
調査研究計画の概要(受付番号順)


(下記は、それぞれの助成先の助成申込書から概要のみを転載したものです。)

応募者名 日野 行介さん 助成金額 50万円
テ ー マ 隠された行政プロセスの公文書開示による原発避難計画の実態解明
概  要

 東京電力福島第一事故での避難の混乱を受けて、政府は原発30`圏内の自治体に避難計画の策定を求める方針に転換した。1か所の対象人口は数十万人(最多は日本原子力発電東海第二原発の92万人)と膨大で、計画の実効性に対しては「絵に描いた餅」「机上の空論」と、当初から国民の疑いの目が向けられてきた。
 2024年1月1日に発生した能登半島地震では北陸電力志賀原発30`圏内で多数の家屋が倒壊し、道路は崩落。モニタリングポストは通信が途絶えた。UPZ(5〜30`圏)の屋内退避、自家用車による避難、実測値に基づく判断――という、原子力規制委員会が定めた原発避難計画の基本原則が複合災害(地震など自然災害による原発事故)では機能しない現実を示した。それでも規制委は改める姿勢を見せない。原発避難計画が木片を組み上げたジェンガタワーのようなもので、少し動かすと全てが崩れる虚構≠ナあり、安全審査の対象外のため策定プロセスがブラックボックスで基本的な資料さえ公表されておらず、技術的な検証は無いに等しいためだ。つまり政府は「変えられない」し、「変えなくても済む」のだ。そんな無意味な計画を作らせる理由は、事故によって停止した原発の再稼働を正当化する以外にはない。
 長年の原発調査報道で培った情報公開請求の技術によって、事故直後までさかのぼって国と自治体による非公開の会議や調査などの公文書を入手し、壮大な虚構の詳細および全容と、隠された政府の真意を立証する。入手した公文書は住民訴訟の原告団などに提供するとともに、整理して書籍化し、広く一般に伝える。


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グループ名
代表者名
世界の核被害者と連帯する作業部会
川野 ゆきよさん・井上 まりさん
助成金額 100万円
テ ー マ 第3回核兵器禁止条約締約国会議と広島・長崎被爆80周年に向けて、世界核被害者の声を反映する救済政策の実現を目指す行動計画
概  要

 世界核被害者のための救済政策の実現に向けて、2024年 8月以降オンラインで少なくとも2回、 2025年3月の2つの国連会議に合わせてニューヨークで2回フォーラムを開催し、2025年8月以降に開催予定の国際フォーラムの準備を進める。
 2025年3月の第3回核兵器禁止条約締約国会議及び、広島・長崎原爆80周年に向けて、(1)世界各地でウラン活動から、原子力や劣化ウランを含むあらゆる核開発、汚染水問題を含む核廃棄物処理までの、各段階で生み出される核被災地の深刻な実態を核被害者の証言から明らかにし、(2)被ばく問題に詳しい専門家の知見を集め、(3)核利用の廃絶と、核被害者の声を反映させた核被害者救済を目的とする政策提言を幅広い層の参加者と議論し、(4)世界の核被害者との国際的連帯を実現する。(5)2015年広島市で開催された「世界核被害者フォーラム」による「世界放射線被害者人権憲章」を検証し、核被害者の現状と声を反映した改訂版作成に向けて話合いの場を作る。(6)2025年3月にニューヨークの国連本部で開催される核兵器禁止条約締約国会議と女性の地位委員会に合わせ、フォーラムや反核集会を企画し、核の根本的な廃絶と核被害者救済を目的とする政策提言を国際社会に訴える。(7)2025年8月以降に広島市での開催を希望している核被害者と専門家による国際会議実現に向けて、より多くの世界の核被害者や核問題に詳しい専門家や市民社会と交流し、国際会議開催の基盤を固める。
【フォーラムのテーマ】
(1)被ばくの影響、(2)ウラン活動、原爆、核実験、原発、劣化ウラン、その他の核施設や核廃棄物処理からの汚染の影響、(3)核被害者訴訟の動き、(4)世界核被害者救済と汚染地域の環境修復を目的とする政策、(5)核被害者の実態と声、(6)核被害と女性の権利。
【フォーラム招聘・交流対象】
ウラン活動被害(印・米・アフリカ)、被爆者、核実験被害(マーシャル諸島、高知など)、原発事故被災者(福島)、核施設からの汚染被害を受けた地域の活動家(米・ロ)、汚染水放出問題に取り組む地域住民(福島・太平洋諸国)、医科学・歴史専門家、法律家、国際NGO団体、反核・反原発運動団体、若者、一般参加者。


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グループ名
代表者名
熊本の環境を考える会
西村 澄子さん
助成金額 50万円
テ ー マ 半導体工場の立地操業に伴うリスク要因分析
概  要

 世界的な大手半導体企業であるTSMC(台湾積体電路製造)及びその子会社であるJASMの半導体製造工場の第1工場と第2工場が熊本県菊陽町に建設され、2024年12月から出荷が開始され、2027年以降に本格操業の予定とされている。この半導体工場では、大量の地下水の汲み上げ使用と電力の多消費が計画されており、また、数多くの有害化学物質や危険な有害ガスを使用するため、その製造工程で爆発・火災などの災害リスクとともに、工場内労災・職業病の発生と合わせて、工場外の地域環境の大気、水、土壌などの環境汚染と、産業廃棄物の排出等による多種多様なリスクの発生が予測されることから、まずはそのリスク要因分析を行うことによって、公災害の発生の未然防止に資するための調査研究を行なう。また、この調査研究の一環として、TSMCの本社工場がある台湾の新竹市をはじめとする台湾の西海岸の都市に所在するハイテクパークの視察見学(台湾における半導体工場を見て、知って、理解し、学ぶツアー)と、関係行政機関に対するヒアリング及び環境NGO団体との交流を行なうことで、既設半導体工場における諸問題に関する情報収集を行なうことにより、リスク要因分析作業の一助とする。


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グループ名
代表者名
避難計画を案ずる関西連絡会
島田 清子さん
助成金額 50万円
テ ー マ 関西電力が計画する使用済核燃料サイト内乾式貯蔵施設の建設に関わる30km圏内関西住民への戸別訪問調査
概  要

 関西電力の若狭の3つの原発(高浜、大飯、美浜)の使用済燃料プールは満杯に近づいている。3〜5年程で満杯になり、原発の運転継続ができなくなる。そのために、敷地内に新たに乾式貯蔵施設を建設しようとしている。4月から規制委員会での審査が始まっている。
 2月福井県議会や福井県民、関西市民から反対する陳情等の多くの声があったにもかかわらず、知事は住民説明会を開くこともなかった。他方、滋賀県は私たちの要請内容を踏まえて、乾式貯蔵の期間が決まっていないことや安全性に懸念があるという内容で、3月22日に安全協定を基に関電に意見書を出した。
 乾式貯蔵は老朽原発の運転継続を狙ったものである。また、乾式貯蔵の期間も、乾式貯蔵後の搬出先も決まっておらず、地元が核のゴミ捨て場になる危険がある。関電の「個別格納方式」は、土砂災害等で給気口が塞がれれば自然対流はできなくなる危険もある。
 乾式貯蔵の最初の計画は高浜原発敷地内につくるもので、来年2025年に工事を開始し、2027年には運用を開始しようとしている。工事開始の前には、福井県知事等の事前了解が必要になる。
 住民への説明もなく、一方的に進められている乾式貯蔵の問題について、関西の30km圏内で戸別訪問を行いアンケート等で近隣住民の意識を可視化できることを目指す。
 住民不在の原子力の推進のあり方にも、広く問題提起していく。


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グループ名
代表者名
木質バイオマス発電チェック市民会議
川端 眞由美さん
助成金額 20万円
テ ー マ 木質バイオマス発電による放射能汚染の拡散調査
概  要

 長野県東御市は、工業団地に誘致した信州ウッドパワー鰍フ木質バイオマス発電の焼却灰放射能濃度を毎月測定して市のホームページで公開してきた。
 2023年5月までの3年間はデータを見る限り100Bq/sを超えることは無かったが、6月末に132Bq/sと初めて100Bq/sのクリアランスレベルを超えた。市は8月から測定を毎月2回に増やした。10月は391Bq/s、12月は535.9Bq/sと放射能濃度が上昇しセシウム134も検出されたため12月27日、市は覚書に基づき信州ウッドパワー鰍ノ協議を申し入れた。2024年1月の焼却灰放射能濃度は810.1Bq/sだったため、市は2月16日信州ウッドパワー(株)に「焼却灰の放射能濃度の上昇原因を把握し、数値の下降に務めること」等申し入れした。
 木質バイオマス発電チェック市民会議は信州ウッドパワー鰍フ木質バイオマス発電による放射能汚染を監視する為、2019年秋からリネン吸着法検査を行ってきた。ちくりん舎から届いた昨年11月〜2024年2月の測定結果は、「1ヶ所で微量のセシウム137を検出、もう1ヶ所は検出下限値以下のため定量化はできないがピークあり」との判定だった。市の焼却灰データと照合すると、信州ウッドパワー鰍フ木質バイオマス発電の燃焼で放射能が周辺地域に拡散していることが明らかになったと言える。
 5月のリネン設置は木質バイオマス発電所のばい煙が流れる南の八重原台地で1箇所追加し、測定期間を9月まで延長して定量下限値を下げて実施する予定だ。ちくりん舎青木氏の5年ぶりの学習講演会も予定している。
 今後も市による焼却灰放射能濃度測定と公表を継続させると共に、リネン吸着法検査をより効果的に行ない、放射能汚染地域の燃料材の搬入や燃焼による新たな放射能汚染をさせない取り組みを行っていきたい。


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グループ名
代表者名
アンパルの自然を守る会
井上 志保里さん
助成金額 50万円
テ ー マ 琉球列島最大規模の湿地帯、樽舞湿原の生態系価値の評価
概  要

与那国島は日本最西端に位置する国境の島で、最も近い西表島からも83km離れており、渡り鳥の経由地や固有種が多く生息する独自の生態系を有する。その中でも比川集落にある樽舞湿原は沖縄県に残されている最大級の湿地帯であり、「生物多様性の観点から重要度の高い湿地500」に選定されている。
しかし、樽舞湿原は与那国町が政府に提出した「比川港湾」計画による開発の危機にある。この計画は軍事利用を前提としており、地域の市民は開発により、この湿地の消失を危惧している。
 与那国島のアクセスの困難さから、樽舞湿原についての具体的な調査はほとんど行われておらず、特に水生昆虫や淡水魚に関する情報はほとんどない。そのため、地域の市民による調査が重要であり、これを通じて研究者の関心を喚起する必要がある。
樽舞湿原の開発が迫る中、生態系の基礎データや動物の調査報告が不足している。調査研究の手法として、地形や水質の基礎データの収集や、生物調査を通じて固有種の発見を目指す。
 調査研究の目的は、専門家が樽舞湿原を調査地として関心を持つためのデータを獲得することである。基礎データの収集と新種・固有種が存在する可能性を通じて、湿地の保全と生物多様性の維持を目指す。


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グループ名
代表者名
福島老朽原発を考える会
青木 一政さん
助成金額 70万円
テ ー マ リネン吸着法の吸着メカニズム解析と絶対値評価
概  要

 福島原発事故の影響により汚染土壌の再浮遊や、汚染ごみ焼却炉排ガスの拡散など、大気中の放射性セシウムを含む微小粉塵濃度測定のニーズが巾広く存在している。セシウム等放射性物質を含む微小粉塵(PM2・5)は吸入すると肺の奥の肺胞に滞留し長時間排泄されず内部被ばくによる健康リスクが大きい。汚染地域住民にとってこの影響懸念は大きく、このニーズは今後も長期に渡って続くと予想される。
 我々は2016年頃から、リネン吸着法を開発して各地で測定して来た。特に大崎市における農林業系汚染ごみ一斉焼却においては、リネン吸着法が焼却炉からのセシウム微小粉塵漏れを立証する大きな役割を果たした。
 リネン吸着法はセシウムの時間当たり・面積当たりの吸着率(Bq/m2・h)で数値評価できるが、相対評価であり、大気中の放射能粉塵濃度を評価する一般的な指標(Bq/m3)ではない。また、これまでの文献調査や測定結果から、リネン吸着法は微小粉塵(PM2・5)を効率的かつ安定に捕捉していると考えられるが実証データはない。そこで、今回、文献調査や理論的解析、実験、フィールドテスト等により、リネンへの微小粉塵吸着メカニズムを明らかにする。また吸着率(Bq/m2・h)を大気中粉塵濃度(Bq/m3)へ変換する変換式や係数を明らかにすることを目指す。また上記作業を通してリネン設置の制約条件を経験的なものから科学的に基礎づけられたものにする。


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応募者名原田 浩二さん 助成金額 50万円
テ ー マ 市民によるPFAS調査のための化学分析基盤の構築(第2期)
概  要

 フッ素原子を含む有機化合物のうち、難分解性を示すフッ素化アルキル化合物PFASによる環境汚染、ヒト曝露について近年、注目が高まっている。泡消火剤の使用があった在日米軍基地、自衛隊、空港周辺地域、またフッ素樹脂製造工場の近隣で地下水汚染を引き起こし、その結果、飲料水や農作物の汚染から地域住民の人体へ蓄積が見られており、健康リスクが示唆される濃度で検出されている。沖縄県、東京都多摩地域、大阪府摂津市が代表的な事例となる。しかしながら、まだ上記の地域においてしか血液検査などは実施されていない。PFASは全国的に使用されてきており、汚染の実態が明らかにされていない地域が数多く残されている。地域ごとで汚染の原因、状況は多彩であり、広域での定点観測では汚染を同定することは困難であり、地域で生活する市民の視点での調査が求められる。
 PFASの化学分析は一定の方法が確立してきているが、実施できる機関は限られており、営利検査機関への委託費用も1件数万円以上と高額である。市民自らPFASの実態を明らかにするためにはPFAS分析を低廉で行うことができる機関を増やすことである。申請者は従来の液体クロマトグラフィー質量分析計による方法に代わり、汎用のガスクロマトグラフィー質量分析計でもPFAS分析が実施できることを発表しており、この方法で簡便、低廉に分析ができることを示している。この調査研究では市民が主導するPFAS汚染が懸念される地域での血液検査、水質検査を支援し、また営利を目的としない機関へのPFAS分析法の技術移転を進め、国内のネットワークで調査、分析の経験を共有する仕組みを目指す。


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グループ名
代表者名
みんなのデータサイト
藤田 康元さん
助成金額 50万円
テ ー マ 実践・市民放射能測定室の作り方
〜市民が培った確かな測定技術の継承を目指して〜
概  要

 福島原発事故の後、市民による空間線量測定がすぐに始まった。引き続いて、食品や住環境の汚染の実態を知るため、様々なバックグラウンドを持つ人々が集まり、放射能測定に必要な機器の選定調達・測定技術の習得を経て、日本全国で市民測定室が立ち上がった。放射能測定の対象が公的測定マニュアルに記載のない身の周りのあらゆるものに及んだため、試料調整・測定方法を工夫し正確な測定結果を得るため試行錯誤を経てノウハウを蓄積する必要があった。この貴重な測定室立ち上げと測定のノウハウは、市民が広く共有できるものとしてまとめられていない。特に市民が培った確かな測定技術の継承は市民測定室の活動の維持・向上を図る上で重要であるだけでなく、次の重大事故に際して市民が迅速に測定体制を立ち上げるためにも不可欠である。以前より、測定室の作り方を教えて欲しいという海外からの要望も来ている。本調査研究はこの課題に応えるものであり、市民科学としての重要性は明らかだと言える。本調査研究の一年目には、市民測定室を対象に立ち上げ時から現在までの諸課題について尋ねる質問票調査とインタビュー調査ととりまとめを行った。二年目は、インタビュー調査の対象を支援者・協力者に広げて、調査結果を総合的に分析する。この分析を踏まえ、測定技術のノウハウを網羅した測定ガイドをまとめる。


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グループ名
代表者名
外環振動・低周波音調査会
上田 昌文さん
助成金額 50万円
テ ー マ 外環道大深度工事で発生した振動・騒音・低周波音による被害の実態把握とそれへの対策に関する調査
概  要

 2020年10月18日に調布市で起こった東京外環道トンネル工事に伴う陥没事故を機に、周辺地域では被害と補償をめぐって、さらにはトンネル工事の継続や地盤改良工事の実施の可否やそのリスクをめぐって、事業者(国土交通省、NEXCO東日本、NEXCO中日本)が、これまでに住民が納得できる調査や情報提供を行ってこなかったことからくる様々な問題が噴出している。2021年及び2022年の高木基金の助成を受けて、市民科学研究室が被害者住民らと共同で「外環振動・低周波音調査会」を立ち上げ、地盤・地質、振動・騒音、そして環境センシングの分野の専門家の協力を取り付けつつ、振動・低周波音による健康被害(2021年12月11日に報告会)ならびに建物損壊(2022年7月に第一次、2023年5月に第二次報告会)の実態調査を実施した。これらと並行して、地下工事から発生する振動を常時モニタリングする必要を痛感し、簡易な振動計(既存の振動加速度センサーのアプリケーションを改良して中古iPhoneに装備したもの)を用いてデータを自動記録するシステムを開発し、シールドマシンによる掘進が進行・再開されているエリア(外環道の練馬、三鷹、世田谷エリア、横浜環状南線エリア、リニア中央新幹線エリア)で計測を続けている。さらに、調布エリアで2023年夏から開始された地盤改良工事、ならびに、上記各エリアでの地下掘進での、振動・騒音・低周波音に起因する種々の被害を、各エリアの住民と連携しつつ未然に防ぐために、事業者へ種々の質問状の提出と直接交渉、地元での学習会や見学会の実施を重ねている。これまで3年間に蓄積した地盤や工法やモニタリングなどに関する知見と本調査で示した市民科学的手法を、広く全国の住民に提供するために、最新の情報を提供するウェブサイトを構築し、問題の全体を概説する書籍を刊行する。


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グループ名
代表者名
原子力資料情報室
高野 聡さん
助成金額 40万円
テ ー マ 地域分断の阻止と文献調査拒否を勝ち取った長崎県対馬市の住民運動の研究
概  要

 本研究は2023年に文献調査応募に揺れた長崎県対馬市における住民運動を扱う。具体的には、住民運動を担った住民へのインタビューを通して、対馬市長による調査受け入れ拒否を勝ち取った住民運動の実態を明らかにする。その際、3つの点を明らかにしたいと思っている。
 第一に、住民運動の戦略だ。地域の合意形成を軽視した文献調査推進により、住民間で地域分断の危機に陥った。そんな中、対馬の住民運動には、明確に反対を掲げながらも分断を悪化させないことも考慮したグループや、あえて調査の賛否を明らかにせず住民間の対話を重視したグループなどが存在した。住民運動の様々なフレーミングや戦略を把握したい。
 第二に、住民主体の町づくりへの考えと実践だ。文献調査応募を推進した住民グループは交付金による地域経済の復興を画策した。それに対抗する形で真の住民自治を模索した運動の一側面を明らかにしたい。
 第三に、地層処分事業者の原子力発電環境整備機構(NUMO)による対馬住民への懐柔工作だ。この間、NUMOによる地層処分関連施設への視察旅行や戸別訪問による説得など、透明で公正な議論による意思決定を阻害するような工作があったという証言が住民から出ている。地域で文献調査の受け入れを狙うNUMOが住民に対し、具体的に水面下でどのような働きかけを行っているのか解明したい。  第四に現在の文献調査推進の方法に対する改善策だ。NUMOによる懐柔工作を跳ね返し、調査受け入れ拒否を勝ち取った住民は、経済産業省やNUMOに対して最終処分政策の改善を望んでいることが予想される。運動の中で住民が経験した調査推進の問題点とそれに対する改善策を提示したい。


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グループ名
代表者名
原子力規制を監視する市民の会
阪上 武さん
助成金額 50万円
テ ー マ 能登半島地震により浮かび上がった複合災害時の避難及び救援に関する諸問題についての調査研究
概  要

 能登半島地震により、重大な自然災害と原発重大事故の複合災害に際して、現状の原子力防災・避難計画では対応できないことが以下のように明らかになった。
・PAZ(5km圏)では、放射能放出前に避難完了となっているが、道路が寸断されるなどして避難ができないおそれがある。
・PAZ(5km圏)において、避難が困難な方のために放射能を低減する陽圧化設備を施した施設があるが、地震により機能しないおそれがある。また、一般の方がそこに避難するには収容人数が圧倒的に足りない。
・UPZ(30km圏)では屋内退避、線量によって避難・一時移転となっているが、家屋倒壊や道路の寸断などにより、屋内退避も避難もできないおそれがある。
・全国から消防、警察、自衛隊、公務員、民間団体が緊急にかけつけ、人命救助、消火、道路啓開などにあたったが、放射能が放出された場合、救援要請はどこまでできるのか、被ばく管理は誰がどうするのか明らかでない。
 現状の原子力災害対策指針や「緊急時対応」は見直しが図られて当然だが、原子力規制委員会は、複合災害時には自然災害への対応を優先するので見直しの必要はないとしている。「緊急時対応」についても既存のものも含めてすべてを見直す必要があるがその動きはない。
 本研究では、能登半島地震の実情調査を実施し、東日本で再稼働が問題になっている東海第二、柏崎刈羽、女川原発の実情調査と避難計画の検証を市民科学の立場で行う。調査結果に基づき、行政に対して抜本的な見直しを求めていく。


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グループ名
代表者名
FoE Japan
柳井 真結子さん
助成金額 80万円
テ ー マ リニア中央新幹線工事の残土処分の影響調査
概  要

 リニア中央新幹線のトンネル掘削からは膨大な残土が発生します。環境影響評価には、残土置き場はほとんど含まれておらず、現在、JR東海はトンネル掘削と併行して残土の処分先を探しています。候補地となる場所には、土砂災害のリスクの増加、森林や湿地の破壊、生態系への影響、そして、有害な重金属を含む「要対策土」による汚染などが懸念される場所もあります。しかし、リスクの高い残土置き場や要対策土処分地の周辺住民でも、十分な情報を提供されていません。限られた情報の中での受け入れ判断や対応が迫られています。
 本調査研究では、まず、沿線全体の残土処分状況、処分先が決っている残土量の把握を行います。次に、土砂災害や要対策土による汚染リスクのある個別案件を調査し、具体的なリスクや問題点を明らかにしていきます。また、住民参加型環境調査を実施し、要対策土置き場候補地の水質や生態系の基礎データを得て、将来の汚染リスクに備えます。この活動は、残土置き場周辺の住民にできる環境調査の先例として、他の地域の住民にも共有します。さらに、調査研究活動全体を通して、各地の市民団体や住民、さらにメディアのリニア残土の問題への関心、理解と、監視能力を高め、地方自治体やJR東海に適正な処理を行わせる圧力となることを期待できます。また、残土問題を通して、リニア事業の計画性の欠陥、杜撰さ、環境や地域住民を蔑ろにする姿勢を明らかにしていきます。


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