高木仁三郎市民科学基金 研修の概要 (2002年度実施分)





   氏名:朝野 賢司さん
研修テーマ:エネルギー市場再編下の
持続可能なエネルギー政策に関する研究
 助成金額:170万円
 研修期間:2002年6月〜2004年4月の22ヶ月間
  研修先:デンマーク

結果・成果:2003年5月の完了報告から
研修の経過
研修の成果
対外的な発表実績
今後の展望
高木基金への意見

研修の経過
2002年6月 日本地方財政学会発表「日本と欧州連合における地方環境エネルギー政策の比較研究」
7月 ザルツブルグ大学「再生可能エネルギー政策に関するサマースクール」参加
10月上旬 コペンハーゲン「欧州環境税ワークショップ」参加
2003年1月〜 デンマーク語の語学学校(初級者コース)に週2回行き始めました
2〜5月 デンマーク工科大のヨアン・ノルゴー教授の連続講義「省エネルギーと環境」受講
4月 「日本版RPS(再生可能エネルギー割当基準)に関する一考察 環境政策手段分析による再生可能エネルギー制度設計論」草稿完成
→03年9月環境経済・政策学会にて一時帰国し、発表予定
5月 「デンマークにおける消費者所有型電気事業の形成と展望 電力市場再編下における地方自治体レベルでの環境問題対応」草稿完成
→発表誌・方法は未定ですが、日本公共政策学会「公共政策」などへの投稿を予定
5〜6月 ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)のプロジェクト「欧州各国の電力市場自由化と再生可能エネルギー電力政策の変遷と現状」に参加、デンマークを担当。6月末までに30ページ程度のレポート提出。
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研修の成果

今回の研究にあたって、私の問題意識は、再生可能エネルギー普及政策が次の2つの現代的課題に直面しているというところにある。それは、エネルギー市場自由化(特に熱市場より先行している電力自由化) と各種地球温暖化対策と比較した費用効率性である。自由化されたエネルギー市場において、再生可能エネルギーは利点と欠点があるが、現時点では欠点にともなう影響が深刻である。それは単に化石燃料など他の電源との競争圧力の増加だけでなく、自然現象に大きく依存する再生可能エネルギーの不安定な発電による。一部の国では、この不安定性によって、事業として成立するような価格での売電契約が困難になっている。また地球温暖化対策とした費用効率性問題とは、次のようなことを意味する。1997年に先進国の温室効果ガス排出削減目標を定め合意された京都議定書では、京都メカニズムという排出量取引やクリーン開発メカニズムなどのいわゆる「柔軟性措置」が認められた。最近の研究では、再生可能エネルギーによる温室効果ガスの限界排出削減費用は、それらの政策手段と比較して、かなり割高となることが明らかになりつつある。したがって、例えばデンマークにおいて今年の2月に出された政策提案においても、再生可能エネルギー導入は費用非効率的として、導入を控える動きが出てきている。1990年代において、再生可能エネルギー普及の非常に大きな要因となった地球温暖化問題が、皮肉にも再生可能エネルギー普及根拠の再検討を促しているのである。

そこで私が今回の研究において対象としているのは、大きく次の4点である。
(1)エネルギー市場自由化とは何か、それが環境(特に再生可能エネルギー普及)に与える影響は何かを検討すること。エネルギーという財の「公益性」や「社会的共通資本」の観点から検証する。
(2)現実のエネルギー事業はどのように発展し、自由化を迎え、環境規制(特に再生可能エネルギー普及の観点)をどのように内包しているのか、ドイツ・デンマーク・日本の事例をみる。
(3)なぜ再生可能エネルギー普及が必要なのか、主に外部不経済論の観点から検討する。また制度選択・設計について、環境経済学の政策手段論をベースに展開する。
(4)再生可能エネルギー政策手段の実際を、ドイツ・デンマーク・日本の事例をみる。

2002年度の今回の報告は、申請した計画ではちょうど中間報告にあたる。論文提出の少なさなど予定通りに行かなかったところもあったが、2002年度の調査・文献収集は以下3点において2003年度につながりつつある。

第1は、デンマークエネルギー事業の形成と展開について、再生可能エネルギー政策の観点から、ある程度の調査がおこなえたことである(上記4つの研究対象の(1)と(2)の一部)。デンマークは、住民参加型の再生可能エネルギーが盛んであり、行政機構も極めて地方分権型構造であることはよく知られている。例えばサムソ島の「再生可能エネルギー100%アイランド」計画やその住民参加は日本でも有名だが、このような住民参加型の再生可能エネルギー利用がデンマークにおけるエネルギー体制との関連や、デンマーク全体の地方自治体レベルでの環境政策との関連で論じられることは皆無であった。そこで私はデンマークにおける電気事業の発展と電力自由化と歴史的な変遷を踏まえた上で、地方自治体レベルでの環境エネルギー政策がどのように展開されてきたのか、また展開しうるのか、理論と実際から検討した。

第2は、環境経済学において展開されてきた環境政策手段分析の観点から、再生可能エネルギー政策手段の研究が一区切りついたことである(上記4つの研究対象のBとC)。この分野ではこれまで欧州で多くの研究がされてきたが、その多くが単独の政策手段ごとに、費用効率性を比較するというものだった。確かに理論面での制度間の違いを定性的に比較することは非常に重要だが、それが実際に政策として実行される時に、なぜ乖離してしまうのか、乖離してしまったからと言ってそれが費用非効率と実際の政策を評価できるのかという問題が残っていた。それは環境経済学での環境税や排出許可証取引などの政策分析に際しても、最近までこのような傾向が非常に強かったこととも関連があると思われます。

そこでこの研究では、
1. 一定の評価基準(費用効率性だけでなく、電力自由化との整合性、再生可能エネルギー導入の確実性など)のもとに制度間の定性的比較をおこない、
2.特に政策当局が再生可能エネルギーの技術レベルを把握できていないなどの「不確実性」が存在する中で、制度設計はどのようにおこなうべきか、
3.それらを踏まえてドイツ、デンマーク、日本の制度比較をおこなう、というものである(論文については、現在指導教授からコメントを受けており、2003年度の環境・経済政策学会にて発表した後、高木基金事務局宛に提出いたします)。

第3は、ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)のプロジェクト「欧州各国の電力市場自由化と再生可能エネルギー電力政策の変遷と現状」に参加、私がデンマークを担当が決まったことである。6月末までに30ページ程度のレポート提出する。同大の博士課程に在籍する友人から依頼されたもの。この友人とは、中間報告でお知らせした2002年7月にザルツブルグ大で開催された「再生可能エネルギー政策サマースクール」で知り合った。論文というよりは、法律・経済政策・事業者や政治家など関連アクターなどを、1次資料に基づいて、丹念に追っていく。こちらで若手研究者と顔の見えるつながりをすることが目的だったので、非常に貴重な経験と考えている。

また、追加的だが何事にもかえ難い貴重な経験として、ヨアン・ノルゴー教授の「省エネルギーと環境」を聴講することができた。今年、古稀を迎える彼は退官となるため、これが最終講義シリーズとなる。彼の「知」の奥行きの広さと(「学際的」とはこのようなレベルの人のことだと痛感します)、20歳前後の学生に問題意識をもたせるように簡単に、網羅的に、かつストーリーのあるよう工夫した教科書には、毎回感嘆させられた。こうした機会にめぐり合えたことは嬉しい限りであり、高木基金の助成金を受けてこちらにやってきて、本当によかったと思っています。

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対外的な発表実績

2002年6月 日本地方財政学会
「日本と欧州連合における地方環境エネルギー政策の比較研究」

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今後の展望

前述したように、申請計画では2004年3月までを予定している。

今夏までにデンマークについてはある程度の調査・論文執筆が終わるので、もう一つの研究対象であるドイツについてすすめていきたい。

また、論文として学会・雑誌発表を精力的にすすめたい。具体的には、03年9月の環境経済・政策学会、03年度の公共政策学会誌、Energy Policy誌、04年春の日本地方財政学会などを予定している。発表後、高木基金事務局には順次お送りいたします。これらは04年度に提出する予定の博士論文において、中核をなす研究となります。

一方で、一般読者向けにデンマークのエネルギー事業と再生可能エネルギー政策について、出版できないか考えています。

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高木基金への意見

長期かつ多大な財政支援を受けることができ、非常にありがたく思っています。

海外の留学支援を受ける際には、生活費がつかないことが多かったり、複数年度が認められていなかったり、何かと不都合な基金が多いのですが、高木基金はこの点で非常に使いやすい基金であったように思います。

また、成果報告会はこの基金の特徴であり、「市民科学者」を育てるためにも欠かせない重要なものであると考えています。今年は帰国の都合がつかなかったので、参加できずに大変申し訳ありませんが、来年は多くの成果を携えて、のぞみたいと思います。

高木さんと最後にお会いした時、近い将来にデンマークに留学したいと話した時、「是非、がんばってくれよ」と握手をして別れたのを覚えています。帰国する2004年3月まで、あと10ヶ月。高木さんに、少しは頑張りましたと報告できるくらいの成果を残したいですね。

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