高木仁三郎市民科学基金 研修の概要 (2002年度実施分)





   氏名:国沢 利奈子さん
研修テーマ:人口12億人の国、中国の貧困削減を
可能にするためのマイクロクレジット調査研究
 助成金額:65万円
 研修期間:2002年4月〜2003年3月の12ヶ月間
  研修先:中国社会科学院工業経済研究所

結果・成果:2003年5月の完了報告から
研修の経過
研修の成果
対外的な発表実績
今後の展望
高木基金への意見

研修の経過
2002年4月 北京へ引越し
5月 ハルピン−長春−大連の貧困地域の調査
上海での、アジア開発銀行総会に出席
VISAの種類変更のため、日本へ一時帰国
6月 山西省 貧困学生支援プログラムの参加
8月 中国社会科学院内のマイクロクレジットNGO,
Funding for the Poor Cooperativeの活動参加
9月 天津 貧困地域の調査研究
11月 ニューヨークシティでのマイクロクレジットサミット+5に出席、データ収集、マイクロクレジット団体ネットワーク作りに関する会議、事業事後評価と会計制度に関するトレーニング手法を学ぶ。
12月 重慶市でのUNDP主催 貧困削減の為のマイクロクレジットとITC会議出席
2003年1月 四川省マイクロクレジットプロジェクト調査研究
2月 雲南省少数民族のためのマイクロクレジットプロジェクト調査研究
天津市女性の失業者のためのマイクロクレジットプロジェクト調査研究
中国マイクロクレジット専門家会議 開催、実行委員
貧困削減の為のITC(Information Technology and Communication)専門家会議開催、実行委員
3月 中国社会科学院主催、中国マイクロクレジット会議出席
河北省・河南省のマイクロクレジットプロジェクト調査研究
マイクロクレジット専門家勉強グループを設立、勉強会を定期的に開催
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調査研究の成果

中国の貧困を金融を通して、科学的に実証検証し、日本のODA政策に反映させ、貧困削減に貢献する。そう張り切って、中国に乗り込んだものの、現実は厳しかった、というのが正直な感想です。

それでも、私なりに、出来る限りの情報・データを使って、調査研究を行い、一年間で共同でマイクロファイナンス(以下MF)のネットワークを築き、中国国内で、日本援助機関のみならず、各国援助機関と国際機関に対し政策提言と情報の提供を行いました。国内外のMF団体、専門家、援助団体、国際機関を対象にした勉強会を今では主催しています。

中国社会科学院の研修の一環として、もともと研究対象予定の国際的に唯一認知されている中国のMF団体の二つの調査は難なく終えることが出来たのですが、サンプル数が2だけでは、検証はできません。ところが、調査研究以前に明らかになったのが、どの団体がどこでどんなプロジェクトを行っているかというデータベースは、中国には存在しない、ということでした。広大な中国の土地で、すべてを網羅することは不可能なので、元来作成されていないという研究所の答えでした。

その上、中国の団体は、データの蓄積はほとんど行っていない、ということも分かりました。事後評価の為に、どういうデータの蓄積が必要か、といったことも、国内規定が存在せず、また訓練する人も居ないので、必要性が理解されていません。データが在ったとしても、それを広く公開するという概念は全くなく、情報は出来る限り機密に保持するものという考えが、永い共産主義社会で浸透しています。考えてみれば、非営利団体のみならず、商業団体・会社ですら、一部を除いて正確な会計記録を入手するのが難しい中国ですから、当然のことですが。

存在するかどうかも分からないデータや団体を探しながら良く考えていたのが、高木氏は、あの時代に公開されていなかった原子力のデータをどの様に集めていったのだろう、ということでした。そんな状況でも、非常に恵まれたことに、昨年夏ごろから中国のMFへ関心を持つ人々が世界中から北京に偶然に集まり始め、共同で調査を進めることができました。まず、私の目的であるMFの事後評価を行い、貧困削減への影響評価をするため、データベース構築から始めました。その過程で得られた情報の中から、7地域の農村部のMF事業のフィールド調査、様々な地域の20団体への訪問調査、在北京の10国際機関への調査を行いました。中国には、少なくとも200を超えるMFのプロジェクトが存在することが明らかになりました。農村部の女性に対する融資のみならず、都市部の失業者や少数民族に対するの融資も行われています。調査の結果、MF団体は得られる外部情報が乏しく、国内外のMF事業の情報を欲し、資金不足であり、また訓練を受けたがっていることが分かりました。調査を進めると共に、訓練も受けておらず、金融が自由かされていない中国のマイクロクレジット事業を、他のMF先進国と同じ手法を用いて事後評価し、事業が持続可能であるか、また貧困削減の影響が大きいかどうかを測るのは、公平ではないと、考えるようになりました。

一方、豊富な海外の情報と訓練マニュアルを持つ国際機関、援助団体の調査からは、彼らが中国内のMF事業のデータベースを必要としていることが分かりました。それが、日本を含めた海外から中国国内のMFへの支援が他の発展途上国に比べ、圧倒的に少ない理由であることも、明らかになりました。現在は、MF団体が適切な訓練と資金を受けれるよう、調査研究の結果を元にデータベース構築を調査結果を優先しています。そして、データを公表し、MF団体と国際機関の橋渡し役をすることに務めています。 

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対外的な発表実績
 PlaNet Finance のウェブサイト、Grameen Trustのウェブサイト、もしくは、中国国内の会議にて発表。
2003年4月 -Adopting Grameen Model into Chinese Microfinance Projects --- Problems and Effectiveness.
2003年3月 -Comparison of Urban Microfinance Projects for unemployed women between an international NGO and a local government organization.
2003年2月 -Introduction of Southern China Microfinance Projects with partnership of international NGOs and local governments.
2003年2月 -Translation of "Grameen II" into Japanese with asked by Dr. Yunus, the president of Grameen Bank; I was in charge of editing the whole sections and of translating the sections of "Pension Fund" to the end of the book.
2002年12月 -Report on Microcredit Summit 2003: What could Japanese government and agencies do more to reduce the poverty through Microfinance.

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今後の展望

中国国内に残留し、引き続き持続可能な発展のためのマイクロクレジットの研究を続けることになりました。4月から、北京市に事務所を持つ国際NGO、PlaNet Finance (www.pfchina.org) のアドバイザーとして、活動する機会を得ています。今後は、中国国内のNGO、国際機関、財団、政府機関と協力し、ネットワーク作りを行う予定です。

調査研究の結果から、農村部や地方で活動する団体は、情報に乏しく、外部との接触が非常に限定され、必要な訓練や資料、資金を得ることが困難であることが分かりました。

具体的には、マイクロクレジットを実施する団体、マイクロクレジットを今後活用しようと考えているNGO, 国連機関や世銀などの国際機関、マイクロクレジットに支援をしている財団、研究所、政府機関のバーチャルコミュニティを設置し、ウェブやメール上で、会議や訓練を行い、時に資金があれば、直に集合し、会議を開く、というものです。

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高木基金への意見

第一回目の助成ということで、事務局側も助成を受ける側も慣れないことが多かったと思います。半年に一度しか、高木基金の事務所から連絡が無い(そのときはニュースレターが無かった)ため、受領側の私としては、不安に感じることもありました。また、他の助成を受けた団体・人々の様子も全く分からなかったので、自分の市民科学者へ向かう方向性が合っているのかどうか、判断することが出来ませんでした。私なりの案を考えてみました。
1)助成を受けた方々のメーリングリストを作成し、事務所を通さなくても、自主的に意見交換できる場を作る。
2)毎月、1又は2団体(人)づつ、進行状況をニュースレターで報告する(形式は自由)。
3)高木基金のホームページに受領者各自のコーナーを設け、自己紹介や活動の内容を公表できるようにする。ホームページを既に持っている方は、リンクを貼る。などは、いかがでしょうか。


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