高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2004年度実施分)


   氏名:真野 京子さん
研究テーマ:放射線照射による不妊化の科学社会史的研究
 助成金額: 30万円

研究の概要:2003年12月の助成申込書から
研究の成果:2005年4月の完了報告から


研究の概要 : 2003年12月の助成申込書から

【背景】 1996年に、放射線照射による不妊化を受けた佐々木千津子さんの話を聞き、2002年からこの問題を調べてきた。佐々木さんは生まれてすぐに脳性マヒになり、体が不自由だが、37年前、施設に入る前にコバルト60による放射線照射を受けるように言われ、不妊にされた。放射線照射は、検査や診断、悪性腫瘍の治療等にも用いられているが、放射線障害を起こすおそれがあり、十分な注意が求められている。しかし、1910年代から30年代にかけては、その有用性のみを求めて様々な部位への照射が行われていた。中でも放射線照射による生殖器の不妊化が実施されていたことは、放射線防護の視点からは驚きであるが、その事実は忘れられ、現在の教科書では全く触れられていない。

【経過】 1910年代以降の雑誌論文、書籍等の資料を収集し、放射線照射による不妊化について書かれた論文を36本、生殖器への放射線照射(治療目的のものを除く)に関する論文79本を確認した。また、3人の医師(産婦人科と内科、内科医師は放射線被曝の専門家)にインタビューした。

【成果】 1970年代までは、放射線照射による不妊化が続けられていた可能性が高まった。また、調査の過程で次の事実が明らかになった。生殖医療において、戦前、放射線照射は中心課題の一つであったが、1950年代以降、急速に関心が薄れ、変わって不妊治療に関心が集まっていく。
二つの技術に共通するのは、@新規に開発された技術であること、Aその応用に際して、患者や社会の十分な理解や安全性の確認が得られていないこと、B医師の関心は、その成果に置かれ、患者側の事情や影響には向けられていないこと、C当面の成果に関心が集まり、将来的な影響があまり考慮されていないこと、D操作の対象は専ら女性であること、E優生思想の影響を受けていること、である。

【今後の展望】 江戸時代以降の日本の生殖医療の社会史的研究を続けてきたが、@からDの背後には近代化以降の日本の生殖医療の持つ構造的な問題があると考える。本研究と並行して不妊治療の調査にも携わっており、今後とも、障害者や女性のグループと交流を続けながら、「障害や病気(少数者)を排除しない」科学・「全体とともにある」科学、「権力差のない」科学を求めていきたい。

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研究の成果:2005年4月の完了報告から
◆ 完了報告書PDF 359KB ◆ 会計報告 PDF 53KB
◆ 研究レポート
『「忘れてほしゅうない」強制不妊手術に使われたX線照射 』 PDF 1,396KB
<助成報告集Vol.2,2005掲載>


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