高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2005年度実施分)


   氏名:国府田 諭さん
研究テーマ:首都圏ディーゼル車規制の効果と実態
および今後あるべき自動車環境対策についての研究
 助成金額: 30万円

研究の概要:2004年12月の助成申込書から
研究の成果:2006年4月の完了報告から

研究の概要 : 2004年12月の助成申込書から

1) 「首都圏ディーゼル車規制の効果」について、「規制」「効果」それぞれが意味する内容を改めて検討した。その結果、「規制」と一言でいっても論者や立場によって意味するところは異なり、一連の施策のどこを指すか、どこに力点を置くかによって違いがあることが分かった。

それはすなわち、一連の施策に様々な要素と変遷が含まれていることの反映であった。過去にさかのぼって施策の経過をたどることにより、こうした「規制」内容の精査と分類を行なうことができた。

「効果」の内容・定義についても同様であり、マスメディアの報道など、ともすれば大気汚染が「全体として」改善されるかという問題設定が多く見受けられたが、いかなる物質で、どのような指標(値の取り方)を判断基準にするかによって、結論はかなり異なる。検討の結果、少なくとも政策効果の検証に際しては現行の「環境基準の達成率」が適当な効果指標とは言えないことが明らかとなった。

2) 1) によって検討の前提を明確にした上で、関連する統計を可能な限り収集し、統計を仲立ちとして施策と大気汚染濃度との関係を四つのグループに分けて検討する枠組みを考案した。四つとは、

A) 当該の施策の直接的な影響が統計に現われ、大気汚染濃度の変化が当然考えられるもの。車種構成の変化(排出量がより少ない車両への代替)など。

B) 当該の施策も一定の関わりを持つが、他の施策・要因によっても同様の影響あり、大気汚染濃度の変化が考えられるもの。交通量の減少、貨物需要の減少など。

C) 当該の施策とは関係ない変化が外部からもたらされ、大気汚染濃度に変化を与えるもの。自動車以外の汚染発生源(小型焼却炉など)の規制、気象・自然要因など。

D) 当該の施策が直接・関接に関わる変化だが、大気汚染濃度に影響しないもの。(副作用)

3) 以上の検討の結果、「狭義のディーゼル車規制」(首都圏一都三県が、2003年10月を起点として独自の基準以下の車両の通行を禁止し、旧式のディーゼル車にはDPF装着を条件として通行を認めた)それ自体による大気汚染の低減効果は見出せないが、1990年代後半以降に貨物車の「脱ディーゼル化」が進展し、それに「広義のディーゼル車規制」(1999年8月からの東京都ディーゼル車NO作戦と、それが影響を与えた国・自治体・業界の様々な動き)が拍車を掛け、また大型ディーゼル車の低排出量への代替、貨物走行需要そのもの減少が進んだことによって、全国的に近年の大気汚染の低減がもたらされていることが確認できた。

4) この検討結果は、都知事が強調する国との対決姿勢(「国がやらないから都がやる」等)や規制を実施した首都圏で特に汚染が改善している(「規制のない大阪は汚染がひどい」等)との主張は必ずしも現実を反映したものでなく、むしろ制度上の齟齬はありつつも事実上の「国と自治体の一致した脱ディーゼル化・低排出車両への代替政策」が実現しており、その意義は大きいことを明らかにするものである。さらに、東京都のような専ら国との政策の差異を強調する姿勢がなぜ生まれるのか、その原因と弊害について考察し、東京都がディーゼル車NO作戦の開始時に持っていた国との明確な差異である「健康被害の重視」「市民との連携」「道路交通政策全般の転換への波及」が現在は事実上放棄されており、それが「国との偽りの差異」を強調せざるをえない歪みを生んでいると結論づけた。

5) 一方、こうした規制による政策効果は確かに認められるものの、それが「現状の汚染濃度なら問題ない」ことを意味するものでは全くなく、近年の汚染低減の傾向と、本来あるべき大気環境の目標は別個の問題として議論すべきであること、その際に現在の環境基準(=行政内部での努力目標にすぎない)を議論の軸とする必要性は希薄であり、市民の生活実感と地域に対する将来像を中心にした環境交通政策こそ必要であることも明らかとなった。

6) 研究過程で得た多様な情報(自動車と環境に関する「統計・指標」と「政策・計画・動き」)を整理し、地図上に分かりやすく表示するウェブシステムを構築した(公開は5月中を予定)。これを発展させることで、地域の環境に関心を持つ市民が多様な角度から自動車と環境について知り、政策や生活のあり方を考えるきっかけとなる。

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研究の成果:2006年4月の完了報告から

◆  調査研究の概要 PDF 26KB ◆  会計報告 PDF 14KB
◆ 研究レポート
『首都圏ディーゼル車規制の効果と実態
 および今後あるべき自動車環境対策についての研究』
PDF 363KB
<助成報告集Vol.3,2006掲載>


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