高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2005年度実施分)


   氏名:つる 詳子さん
研究テーマ:漁業者の聞き取りから八代海異変の経緯を検証する
 助成金額: 30万円

研究の概要:2004年12月の助成申込書から
研究の成果:2006年4月の完了報告から


研究の概要 : 2004年12月の助成申込書から

球磨川は八代海という閉鎖性水域に流れ込む唯一の1級河川であり、聞き取りからも川と海の関係が見えてくると思い始めた。特に、過去の聞き取りから、川や海の変化をダム・堰の建設や、干潟の埋め立てによる影響が強いと感じている市民や漁業者が多いことが分かっていたので、その河川環境変化の前後の漁の違いに主点において聞いている。仕事の都合上、1ヶ月に数人も進まないのが、悩みの種であったが、現在、球磨川及び八代海で漁に携わっている人を直接20名、電話による聞き取りを13名について実施。まだ、聞き取り地域にバラつきがあり、成果として纏めるには不十分な人数であるので、今後も進めていく予定としている。

八代海の漁業者についての聞き取り項目は、@干潟、藻場の変遷について、A魚介類の種や漁獲量、魚場の変化について、B生産力の低下についての考え方、C赤潮発生など海の異変について、Dダム放流による影響について、などの質問を主に行っている。

球磨川については、すでに専業漁師はいないことから、何年も漁師としてやって来たものがいないこと、また川への関わり方にかなりなバラつきがあるので、副業として漁業に従事しているもの、及び遊漁者からの聞き取りとなった。これまでの話により、ダム建設により球磨川が一変したことを皆口にしていることから、主にダム建設前後で、川の様子や魚種、漁獲量がどのように変化があったかを聞いた。

球磨川河口地先を主な漁場としている八代漁協は、組合設立当時は、880名の正組合員がいたが現在は3分の1以下の約240名である。一方、内水面漁協である球磨川漁協は、現在組合員約2400名であるが、専業漁師は1〜4名。副業もしくは小遣い稼ぎで刺し網や投網、友釣りなどで鮎漁をやっているものが多い。しかし建設に伴い補償金を目当てにするものや、それを阻止しようとする一般市民が加入しているところに球磨川の問題点がある。

漁業の係り方や従事年数には相当なバラツキがあるが、証言は殆ど一致していることが多いことが分かった。川の漁師はダムによる影響を建設早々から感じていたが、海の漁師は、その時その時のダム放流による影響や、砂干潟や藻場の減少を皆感じながらも、八代海全体の漁が低迷した一因がダムにあるのではと思うまでに相当な年月がかかっている。

八代海においては、漁の対象となっている魚種は、76種あるが、その殆どが減少している。全く捕れなくなっているものも多い。現在は小型定置網、刺し網による漁や青海苔の養殖が多い。「漁師の数が3分の1なら、取れる魚種も3分の1、1匹1匹の大きさも3分の1。漁獲量も3分の1。値段も下がって、収入も3分の1」と嘆く。昭和55年のクルマエビの種苗生産開始を皮切りに、ガザミ、ヒラメ、アサリなどの育苗・放流事業に頼るようになっているが、それでもクルマエビ、アサリの漁獲量減少は食い止められていない。昔は数年のサイクルで漁獲量の変化があったが、近年はすべてが減少の一途である。また、毎年毎年、なんらかの異常現象がある(ホトトギスガイの異常発生であったり、クラゲの大量発生、また南方系のカニの大量発生など、年によって違う)。

球磨川については、ダム建設(荒瀬ダム昭和30年、瀬戸石ダム昭和33年、市房ダム35年建設)前は、流域どこでもウナギ、ドンコ、鮎、モクズガニなどが取れていたが、建設後は全く取れなくなった。100分の1以下である。川の漁師がダムの影響をすぐ感じるのは、魚種の遡上をダムが阻害するからである。聞き取った殆どの人が、小学校の頃より、自分の学費や小遣いは、鮎やウナギを捕って、充てていたという。また、父親は3ヶ月の鮎漁で、1年の生活費を稼ぎ、6〜7人の家族を支えるだけの漁獲量があったという話は平均している。どれほどの魚がいたかの例として、@水が飲めるほどの澄んだ川底が鮎で真っ黒で見えなかった、A水面を棒でたたけば、鮎がぷかぷか数匹浮いてきた。B夜川に行って、水に手をあてたら、そこに鮎がいた、Cウナギを踏まずに川を渡れなかった、という話を皆が口を揃えることからも、オーバーではないようである。また、売り上げについても、「一晩で20〜30万分稼いだことも」「1晩で37kgの鮎が取れた」「一網(投網)で、40〜50cmの鮎が40〜50尾入ることもザラ」など、今からは想像もつかない話ばかりである。

現在の川や海の状態を、皆嘆く一方で、5年後に控えた荒瀬ダム撤去への期待が大変大きい。実際、撤去にともなうゲート開放により、青海苔の生育が良くなった年もあるが、今年は悪いなど、まだまだ聞き取りからも見えてこないことが多い。

今後も聞き取りを人数・地点ともに増やし、荒瀬ダム撤去に伴う下流や不知火海の環境変化に対する漁業者の情報も加えて、説得力ある報告書として纏めたいと考えている。

このページの先頭に戻る
研究の成果:2006年4月の完了報告から

◆  調査研究の概要 PDF 14KB ◆  会計報告 PDF 5KB




>> 高木基金のトップページへ
>> 第4回助成の一覧へ