高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2006年度実施分) |
氏名:安藤 直子さん 研究テーマ:アトピー性皮膚炎の成人患者支援
スキームづくりのための基礎研究;
助成金額: 30万円患者の「困難」の構造的・歴史的理解と支援方針の検討のために 研究の概要:2005年12月の助成申込書から 途中経過:2006年10月の中間報告から 結果・成果:2007年4月の完了報告から <参考> 助成先のウェブサイト:http://homepage2.nifty.com/yamanekoworld/ |
2007年6月の成果発表会にて |
研究の概要 : 2005年12月の助成申込書から |
本研究は、アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatis;以下、ADと略す)の成人患者を対象に、彼(女)らが生きてきた/生きている「困難」を構造的-歴史的に検討し、彼(女)らに対する支援のスキームづくりのための基礎的作業を行うことを目的とするものである。申請者たちは、成人AD患者の生きてきた/生きている「困難」を三重のものであると理解している。
以上の「困難」の具体的な様相を、アンケート調査とインタビュー調査とを併用するによって、とりわけ彼(女)らの生活史にまで遡って明らかにする。そこから得られた知見から最も緊急と思われる支援方策についての提言を行うとともに、さらなる研究に向けての見取り図を描くことを最終目標とする。 |
途中経過:2006年10月の中間報告から |
今期は、調査研究計画のうち、主として「アンケート調査」と「アトピー・フォーラム」について準備し、順次実施した。
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結果・成果:2007年4月の完了報告から | |||||
本調査は、アトピー患者の抱える困難と有効な患者支援のあり方を探ることを目的として、量的調査(アンケート)・質的調査(インタビュー)及び患者を中心とする語り合い(アトピーフォーラム)の3つの形態を通して実施したものである。いずれに調査においても、調査対象となった患者たちは、一般的なアトピー患者よりもやや重症度が高く、また、ステロイド外用剤を第一選択とする標準治療を断念せざるを得なくなった患者が多く含まれたことが特徴である。 アンケート調査は80問近い設問からなる長大なものであったが、当初の予定の2倍以上となる1072通の調査票を回収することができ、回収率は配布数の5割を超えた。アンケート調査では、「社会における困難」「家庭における困難」「医療における困難」に分けて質問を行ったが、標準治療から外れた成人アトピー患者たちを対象とした大規模かつ体系的な実態調査は、おそらく初めての試みであろう。また、インタビュー調査では、一人一人の患者による病歴の語りを記録し検討を行ったが、アンケート調査の結果と大きく一致するものでありながら、アンケート調査では見ることができなかった、個々の患者によって生きられている総体としての「アトピー経験」が浮き彫りになった。さらに、アトピーフォーラム(豊富温泉)では、患者を中心とし、家族、医師といったアトピーを巡って立場を異にする人々が集まり、患者と彼ら彼女らを巡る関係者の語らいを通じて、相互理解と支援のあり方について議論がなされた。 本調査より、患者の実態として次のようなことが見いだされた。
1)患者たちの病態は、一般に知られるより遥かに悪化することがある。そして極度の悪化は、ステロイド外用剤などの薬物治療からの離脱に伴って起こることが多い。 2)悪化に伴い、患者の社会生活は著しく阻害され、長期の引きこもりや退職経験、経済的困難に直結することも少なくない。 3)症状の悪化時には、患者たちは肉体的精神的支援を求めているものの、時にどのような支援が具体的に有効であるかが本人にもはっきりしていない。 4)患者たちは、症状の悪化がもたらす身体的苦痛もさることながら、それがいつまで続くのか、将来の予定をどう組み立てればよいのかわからず、医療現場でもはっきりした回答が得られないことに不安といらだちを感じている。
5)症状の最大の悪化要因にはストレスがあがり、コントロールできるようになった最大の理由には、「ステロイド外用剤の中止(=ステロイド外用剤からの離脱)」が挙げられた。 こういった患者の実態に対し、市民の立場でありうる支援の可能性を探った。本調査では、患者たちが「自身の病に向き合い」「病を語る」ことができる一種のコミュニティの必要性が、強く示唆された。そのコミュニティに、家族や友人、医療関係者が参加し、ともに支え合う形はさらに望ましいであろう。そのあり方は、単なる情報の提供や啓蒙にとどまらないことが大切に感じられる。現在、我々は、あとぴーフリーコムという団体の活動を始動させているが、本調査の結果を取り入れた支援活動を行っていきたいと考えている。 また、当然のことであるが、患者が何よりも必要としているのは、病の治癒そのものであろう。ステロイド外用剤の使用を中断せざるを得なくなった患者たちは、新たな特効薬に対する期待よりも、ステロイド外用剤のもたらしうる副作用に強い関心を持ち、標準的な医療現場にその選択肢しかないことに強い失望感を感じている。この点について、患者とアトピーの標準治療との間には大きなギャップが存在し、長期の重症患者に対するステロイド外用剤中心の治療の是非については、改めて大規模な調査が必要であると考えられる。
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