高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2006年度実施分)


   氏名:西岡 政子さん
研究テーマ:児童生徒疾病調査をもとに
神奈川県全域の大気汚染を
検証する
 助成金額: 30万円

研究の概要:2005年12月の助成申込書から
 途中経過:2006年10月の中間報告から
結果・成果:2007年4月の完了報告から

2007年6月の成果発表会にて

研究の概要 : 2005年12月の助成申込書から

私の住んでいる横浜市栄区には、交通量の多い2車線の幹線道路が2本あるだけで、工場は大船近辺に数社あるだけです。一方、市内でも3番目に緑が多く、自然環境に恵まれた町です。ただし、周囲には一日あたりの焼却能力が1,500トンの栄工場と、同じく900トンの港南工場、150トンの今泉クリーンセンター(鎌倉市)の3つのごみ焼却場が周囲に立地しています。

平成13年1月に栄工場が停止したところ、風下にある2つの小学校のぜん息患者が、翌年はゼロになりました。1校ある中学校は3分の1に激減しました。

横浜市立小学校354校の中で、ぜん息児童数がゼロの学校はごく僅かです。

平成14年12月に今泉クリーンセンターが修理のために止りました。すると、1キロ北にある桂台小学校と2キロ北の本郷小学校の平成16年度の罹患率は、揃って3分に1に激減しました。3年連続で市内ワースト1だった5キロ風下の南舞岡小学校も、24%が17%まで下がりました。横浜市18区の中で栄区は常にトップか最上位だったのが、平成16年度は12位です。中学校も極めて似た傾向です。

これらの学校に通う子どもの住環境は、閑静な高台の第一種専用住宅地のため、学校やPTA,地域住民にこの事実を知らせたところ驚かない人はいませんでした。

他の疾病との関係を知るために心臓疾患など8項目についても調べました。

神奈川県下全域を対象に、ぜん息罹患率の高い学校とごみ焼却場、ぜん息の主原因と言われていると車の排気ガス(交通量多い道路)との関係について、是非とも調べてみたいと思います。

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 途中経過:2006年10月の中間報告から


1. ごみ焼却場とぜん息との相関関係を複数の事例から明らかにする。

@横浜市、川崎市、横須賀市、鎌倉市の各市立小中学校の学校保健(児童・生徒疾病等傾向)実態調査データを入手し、平成12年〜17年度、6年間の累積を分析し、9項目の元データを作成した。

疾病項目:ぜん息、心臓疾患、腎臓疾患、てんかん、アレルギー性鼻炎、その他の耳鼻咽喉疾患、アレルギー性結膜炎、その他の眼疾患、アレルギー性皮膚疾患

* 基礎データを入力後、迅速かつ精度の高い分析やマップ作成技術を習得するために、3回にわたりExcel等の技術習得の個人研修を受けた。

(確認事項)
 横浜市栄区を事例として、休止していた焼却場再開によるぜん息被患率の変化を検証したところ、稼動後半月で周辺小学校4校で患者数が1〜9人の増加を確認した。

A川崎市立小学校のぜん息被患率ワースト1の小学校を中心に王禅寺焼却工場周辺の現地調査を実施した。(7月26日 参加者数4人)

(確認事項)
 川崎市立小学校(114校)中で平成16年度ワースト1の東生田小学校の原因として、位置的に見て王禅寺焼却場による影響を否定できないことを実感した。更に周辺環境の詳細な調査の必要性を感じたため、再視察を計画中。調査に加わる地元の団体、個人を募集している。

B横浜の事例を発表
・プラステイック焼却はNO!世田谷区民集会(4月1日)
            主催:生活クラブ運動グループ世田谷地域協議会 他
・ごみ焼却を止めるとぜんそくが減る!?(5月27日)
            主催:東村山のごみを考える会
・燃やしていいのプラステイック!!(6月27日)
            主催:東京マイコープ
・第11回 東京とことん討論会(8月18日)
            主催:東京23区とことん討論会実行委員会

(確認事項)
 廃プラステイックを燃やしている横浜・川崎に比べ、東京都の小学校ぜん息被患率平均値はかなり低い。(平成16年度 横浜市9.1%、川崎市8.4%、東京都5.7%)

2. 自動車排気ガスとぜん息との相関関係を明らかにする事例に取組む。

昨年度までは神奈川県下各学校の健康調査電子データが、県教委より無償で提供されたが、今年度からは殆どの市町村に情報開示手続きをしなければ入手できなくなった。廃棄物焼却場や化学工場など、大気汚染の元凶と思われる汚染源が少なく、道路公害だけが予測できるローカルのデータ入手が困難のため苦慮している。引続き努力することで目的に適合した自治体をみつけ、現地調査を実施するところまでは実現したい。

(なお残された課題)

@ ぜん息被患率が恒常的に高順位にあった横浜市瀬谷区の二つ橋小学校と上川井小学校の過去数年の変動が大きい。周辺環境に何らかの変化が起きていないか、現地調査を実施して調べたい。
A 入手すみの平塚市、逗子市のデータの分析。

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結果・成果:2007年4月の完了報告から

周辺を3つのごみ焼却場に囲まれていた横浜市栄区の小学校ぜん息被患率は、2つの工場が停止した結果、18区の中でワースト1から、最も患者が少ない18位へ激烈な変化をとげました。

考えてみれば、焼却場さえなければ極めて環境が良い町ですから、1500トンと900トン(いずれも一日あたりの焼却能力)の工場から出ていた膨大な有害ガスが全くなくなれば、喘息の子どもが発作を起こさなくなることは想像に難くありません。しかし、実のところ私にも信じられないほどの顕著な変化です。

神奈川県全体の順位においても、横浜市は川崎市や鎌倉市にその座を譲って、前年度より1%も被患率をさげました。例年悪化の一途だったことがうそのようです。

30年間ごみ問題に関わってくる中で、脱焼却の運動が正しかった事が証明されたと言えるのではないでしょうか。

しかし、横浜市金沢区の臨海部に計画されている産廃焼却場(横浜金沢シンシアRCセンター)は撤退させることはできず、このほど事業認可が下りてしまいました。

反対運動が起こった当初、市民団体に私が提供したぜん息データは、彼らを驚かせそして怒らせました。01年に横浜市の金沢工場(1200トン)が竣工以来、小学校のぜん息は1%ずつ悪化し、過去8年間のワースト1は金沢区であることがわかったからです。アセス方法書では30%がぜん息等の健康に関する意見でした。アセスにおける意見陳述は8人中7人が反対意見。全区に配布したチラシは3回、計画地直近には10回以上、アセスに対する意見書はごみ問題では市始まって以来の数が寄せられるなど、1年間の抵抗運動は熾烈を極めました。

07年度、被患率を年々更新してきた金沢区が3%も下がって9位になっています。何らかの操作が行なわれたか検証する必要があります。

激減した学校について周辺環境との精査で検証が十分可能と思われます。

今後の活動としては、焼却場建設や廃プラ焼却をめざしている自治体の市民団体に、栄区の事例をデータを含めて提供し、同様の事例をもとめて更に活動を続けたいと思います。

◆  助成研究の完了報告書 PDF 27KB ◆  会計報告 PDF 5KB


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