高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2007-08年度実施分)


グループ名:アジア太平洋資料センター
代表者氏名:内田 聖子さん
研究テーマ:アジアに向かう電子ごみ
――有害廃棄物の貿易の実態調査
と監視ネットワークの構築
 助成金額:30万円

研究の概要:2007年12月の助成申込書から
 途中経過:2008年 9月の中間報告から
<参考>
助成先のウェブサイト: http://www.parc-jp.org/

アジアに向かう電子ごみ写真
Basel Action Network(BAN)

研究の概要 : 2007年12月の助成申込書から

1)日本、米国、EU、ロシアなど先進国から途上国へ輸出される「有害廃棄物」の貿易の全容をとらえる。貿易産品や貿易量、移動ルートなどを、各種データに基づき把握する。

2)日本からアジア諸国へと輸出される「有害廃棄物」に関する詳細な調査を行なう。国内で再生資源や中古品が、誰によって、どのように収集され、どこへ輸出されているのかについて、テレビ、パソコン、携帯電話等の具体的な商品事例を調査する。特に、テレビ放送が全面的にデジタル化される2011年に向けて、日本でのテレビの廃棄量が激増することが予測されていることを受け、中古テレビの輸出入に関しては入念に調査する。

3)輸入国・地域での実態調査を行なう。輸入国に届いたテレビやパソコン等は、現地の労働者によって解体・販売・再廃棄されているが、その過程で環境汚染や労働災害、健康被害も生じている。本調査では、中国、インド、バングラデシュなどアジアでも有数の廃棄物貿易輸入国での労働者の実態を聞き取ることとする。また、現地で確立されている廃棄物ビジネスの構造、市場の実態を把握する。

4)輸入国側のNGO、市民団体、専門家らと、循環資源貿易の実態についての情報や被害実態などを共有するためのネットワークを形成し、共通のウェブサイトを構築する。「輸出する側」と「輸入する側」の市民社会が協力して各国政府への政策提言・運動を展開することで、アジア地域全体での取り組みをめざす。




中国一の「電子ごみ」の集約場グイユウ写真
Basel Action Network(BAN)



日本からアジア諸国への輸出

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 途中経過:2008年9月の中間報告から

経済のグローバリゼーションが世界の隅々まで浸透する現在、モノやサービスは国際的な貿易システムの下で国境を越えている。そうした中で、近年、米国やEU、日本など先進国で生じた「循環資源」もまた、国境を越えて売り買いされるようになった。「循環資源」とは、再生資源および中古品を指し、具体的には、古紙・廃プラスチック、鉄スクラップ、銅スクラップ等の再生資源、中古自動車・中古家電等の中古品である。特にこの数年で、アジア地域での循環資源の貿易は拡大の一途をたどっている。

これら「循環資源」は、輸入国側で有効利用されている側面もある一方で、解体・リサイクル処理の過程で、現地の環境を汚染し、解体する労働者の健康被害などを引き起こすなど深刻な問題を生じさせている。「リサイクル可能な再生資源」という名目で、リサイクル不可能な廃棄物が輸出されたり、「非有害再生資源」という名目で、有害廃棄物が輸出され、輸入国側で不適切に処理・処分されているからである。

2005年より先行研究に基づき、文献・資料調査を進めたり、メールによって海外のNGO、研究者とも問題意識を共有することに努めた。また当センターの発行する雑誌『オルタ』にて、特集を組むなどしつつ、問題への認識を深めてきた。

上記をふまえ、2008年9月17日〜23日の1週間、中国・広東省および香港調査を実施した。広東省は日本からの中古品が最も多く流れる場所であり、また省内の村ではそれらの解体作業と集約・販売が行われている(中国政府は中古品の輸入を禁止しているにもかかわらず、大量の中古品が運ばれている)。

調査を行った汕頭市Guiyuでは、約15万人の住民の6-8割が電子廃棄物処理業者で働いている他、周辺地域からの出稼ぎ労働者も約10万人近くいるといわれる。2005年以降、米国のバーゼルアクションネットワーク(BAN)や、グリーンピース中国などのNGO団体や、省内の大学の研究者などが、Guiyuでの電子廃棄物処理が住民や環境に被害を与えているという事実を調査、広く発信した。これによって問題が広く認識された一方で、地元では外部に対する警戒感が高まり、また解体の現場もGuiyuよりさらに奥まった農村へと分散・多極化し、全体像が把握できにくくなっている事実がわかった。海外とのネットワークという意味では、Guiyuでの住民の健康被害調査を行った汕頭大学医学院の教授や学生と、またグリーンピース中国の担当者などと問題を共有できたことは大きな成果であった。今後も中国のケースを中心的にフォローすると同時に、インド、フィリピンなどのケースを調べ、アジア全体の電子廃棄物問題の状況を深めたい。

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