高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2007-08年度実施分)


   氏名:澤田 慎一郎さん
研究テーマ:大阪・泉南地域の石綿被害実態と石綿公害問題の検証
 助成金額:10万円

研究の概要:2007年12月の助成申込書から
 途中経過:2008年 9月の中間報告から

研究の概要 : 2007年12月の助成申込書から

本研究は、大阪府泉南地域(泉南市、阪南市が主要地域)における石綿被害規模の特定とその被害実態、及び石綿被害の社会・地域的被害構造の解明を試みるものである。

泉南地域では20世紀前半から石綿紡績業が興り、日本の一大生産地にもなった。日本社会が石綿被害に関心を寄せるきっかけともなった2005年6月のクボタ・ショック後、2006年3月27日には「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、救済新法)が施行され、石綿被害者の救済に大きく動き出した。しかし、救済新法には問題点も多い。たとえば、救済新法では中皮腫と肺がんのみしか救済対象疾病に指定されていないことがその一例である。

泉南地域では青・茶石綿と比較すれば、上のような顕著な疾病が出にくい白石綿を多く扱っていた。小規模作業所が多かったこと、石綿を扱っていた作業所の多くが廃業していることから泉南地域の被害実態については解明されていない点が多い。労働者の特定が困難な現状や石綿暴露から顕著な健康障害の発生までのタイムラグ(20〜40年)によって、多くの被害者が将来の健康被害に気づいていないことも考えられる。

以上のような問題解決の糸口とするのが本研究のねらいである。調査は石綿関連事業の元経営者や元労働者、工場周辺に住んでいたために被害を受けた住民の方などを対象に、泉南地域での聞き取り調査を中心に被害実態を探っていく。本研究によって、泉南地域の石綿被害者の救済と今後の世界的な石綿被害防止には何が求められているのかを提言する。


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 途中経過:2008年9月の中間報告から

調査計画の提出時からの聞き取り調査を中心に据えるといった方法は変わっていないが、目標としていた調査人数は少なくなっている。そのことが問題という認識はなく、むしろ、より深くインタビューをする必要がある方々が出てきたと捉えた結果によるものである。加害責任の論点整理も比較的進み、問題をみる視点が変わってきた。

本研究は戦前からアスベスト紡織産業が興り、戦後もアスベスト紡織産業の一大生産地であった大阪府泉南地域(本研究では泉南市・阪南市を指す)をフィールドに調査をしている。調査は元アスベスト工場の経営者や従業員を対象とした聞き取り調査を中心としている。助成開始前の2008年2月からはじめた調査ではこれまでに数十人に聞き取り調査をおこなった。また、三菱マテリアル建材大阪(泉南)工場へ出稼ぎに来ていた労働者が比較的多い、隠岐島にも調査の足を伸ばした。本研究ではアスベスト被害を受けた当事者やその家族・遺族に着眼し、彼らの語りから当時の泉南石綿産業の実態を鮮明にさせることを目標にしている。そこに先行研究の視点を折り込むことによって被害の実態をリアルに描くと同時に、問題の本質を突き詰めていけると考えている。

これまで調査をして浮かび挙がった課題は、第一に被害者の掘り起こしを早期にしなければならない、ということだ。調査にいった隠岐島では「(アスベスト工場で働いていたが)どうしてよいかわからず、お医者さんにも相談できなかった」という方がいた。第二に、インタビューで得た情報をどのような形でアウトプットし、訴訟への支援、被害者への救済につなげていくかということだ。

旧石綿工場見学

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