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内分泌撹乱物質の法規制について 【研修先:イギリス Kent Law School, University of Kent at Canterbury】



グループ名 完了報告書[pdf254]
完了報告書[pdf254]
代表者氏名 松野 亮子 さん
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助成金額 50万円

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
 私が環境ホルモン問題に初めて遭遇したのは、日本消費者連盟で、合成洗剤追放運動にかかわっていた1993年である。  ひょんなことから手に入れたイギリスの新聞記事がきっかけとなり、非イオン系合成界面活性剤の一種にオスの魚をメス化させる作用がある、という論文を入手した。  この論文を元に、合成洗剤追放全国集会で発表をしたり、この問題を国会レベルで取り上げてもらえるよう議員に陳情しに行ったりしたものの、内分泌撹乱作用の複雑さのせいか、聞き手にはピンとこなかったようであった。  だがこの問題の将来の世代に対する影響の大きさは非常に深刻であり、この問題の抜本的な解決策を法的な側面から検証したいと考え、1996年秋に、イギリスのケント大学法学部の修士課程に入学した。  そこで「内分泌撹乱物質の水生生物に対する影響とその規制」をテーマに、修士論文を書いたが、半年という限られた時間内で書き上げるものには限界があるテーマだった。  当時、コルボーン博士の著書『奪われし未来』(1996年)が出版され、環境ホルモンによる精子の減少やオスのメス化が、一時的にマスコミでセンセーショナルに取り上げられたものの、この問題が一時見せた盛り上がりは根本的な解決策はなんらとられないまま、その後、すっかり鎮静化してしまった。  環境ホルモンは人や野生生物の大量死を引き起こすわけではなく、目に見えないところでひそかに進行している問題なので、なおさら、手遅れにならないうちに対策をとることが必要であるが、普通の一市民として、できることには限界がある。  したがって、まずは、もっと深くこの問題について、さらに現行の化学物質規制策について学び、将来はそれを政策レベルで反映できるような仕事につなげたいと思い、2002年に環境ホルモンの法律規制をテーマに同学部で博士課程を始めることになった。  従来の規制手段では、環境ホルモンを規制するのは困難である。  その理由として第一に、これまでは、動物実験で無影響濃度、最低影響濃度を求め、それを基準に規制値を算出するという方法がとられてきた。  環境ホルモンの場合、従来の毒性学では問題にならなかったほど微量の化学物質が、ヒトおよび野生生物の内分泌系を乱す可能性が指摘されているからである。  第二に、有害物質の規制の主要な手法として、工場の排水口などの特定の汚染源からの排出濃度を設定するという方法が取られてきたが、この手法にはいくつかの問題がある。  i)この手法では規制対象となる化学物質それぞれに規制値を設けるが、これでは規制値が設定されていない物質は規制できない。  規制対象となっている化学物質の数は、使用されている膨大な数の化学物質と比較すると氷山の一角に過ぎない。  ii)汚染源が特定できない(例、農地に散布される農薬等)物質も数多く、そのような非特定汚染源に関しては排出濃度の設定は不可能である。  iii)相乗作用が疑われているため、個々の化学物質の濃度を設定するだけでは、その影響を測ることができない。  iv)環境ホルモン作用が疑われている化学物質のほとんどが残留性が高く、生態濃縮されやすいため、排水口または環境中の濃度が低くても、食物連鎖などを通して生体の脂肪層などに蓄積され、体内濃度は高くなる可能性がある。  こうした現状を鑑み、現在、環境ホルモンをめぐってどのような規制策が取られているのか?現行の規制策で十分でないのなら、今後どうしたら環境ホルモンからヒトおよび野生生物の健康を守ることができるのか?を調査、研究するのが博士論文のねらいである。  現行の規制策については国際条約上、および、ヨーロッパとイギリスの法的枠組みに分けて考察を行うことにした。 【 この助成先は、2005年度にも同様のテーマで助成を受けています → 2005年度の助成事例 】

中間報告

中間報告から
調査研究・研修の概況  T.コルボーン博士の『奪われし未来』の出版をきっかけに、日常生活で多用されている化学物質に、生物のホルモンバランスを乱し、生殖機能、免疫系、神経系の発育などに大きく影響を及ぼす作用がある可能性があることが、広く知られるようになった。これらの物質には有害かつ難分解性で、環境中での残留性が高く、生物の体内に蓄積されやすい特徴を持つものが多く見られる。また、ごく微量で内分泌撹乱作用を持ち、胎児や子供は大人に比べ、特にそれらの化学物質の影響を受けやすいと考えられている。従来は化学物質の規制にあたり、動物実験で無影響濃度、最低影響濃度を求め、それを基準に規制値を算出していたが、内分泌撹乱物質は従来の毒性学では問題にならなかったほど微量の化学物質が、生命を脅かしうることを示した。よって、従来の方法では内分泌撹乱物質の危険性からヒトや野生生物を守ることができない可能性がある。これまで、欧州連合(EU)内及び英国内での取り組みを中心に研究を進めてきた。EUでは過去数年に化学物質に関する政策ならびにそれに基づく法規制の見直しが進められ、2003年10月に化学物質の登録、審査、認可に関する規制法(Regulation concerning the Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals, REACH)が、欧州委員会より提案された。この法律の枠組みの中で、内分泌撹乱物質対策を採ることになっているが、化学業界からの強い圧力のために、この法律の内容が当初の提案と比べ、かなり産業界に甘くなっていることが指摘されている。何故REACHでは内分泌撹乱物質の規制に不十分なのかを検討した。英国ではEnvironment Agencyが2000年に、内分泌撹乱物質に関する戦略(Endocrine-disrupting Substances in the Environment: the Environment Agency's Strategy)を発表した。この中でEnvironment Agencyは「汚染物質排出許可」(Discharge Consent)、「統合的汚染防止規制」(Integrated Pollution Control)、非特定汚染源の規制の3本柱で内分泌撹乱物質を規制していくこと明らかにした。その中で、まず、Discharge Consentと水質汚染の規制に焦点をあてて、研究を進めてきた。まず、イギリスの法律の中で環境汚染がどのように捉えられているかを考察し、現行の法律の中では内分泌撹乱物質による水質汚染は、汚染とは見なされないことをまとめた。Discharge Consentは汚染源が特定できる場合のみが対象となる。また、規制対象となる物質がすでに確立しており、科学的にある物質に内分泌撹乱作用も含めた毒性・有害性があることが新たにわかったとしてもそれが規制対象にすぐに反映されることは難しい。Discharge consentによる内分泌撹乱物質の規制の弱点を指摘し、その弱点を克服するための方法として、Direct Toxicity Assessmentについて調べ、まとめた。今後、短期的にはIntegrated Pollution Control、非特定汚染源の規制によりどこまで内分泌撹乱物質の規制が可能なのかを探っていく。その後には国際環境法における取り組みの考察、および環境汚染物質規制のさまざまな方策の比較を行い、内分泌撹乱物質を規制していくにはどのような手段が適しているかを検証し、今後の化学物質の規制のあり方について提言をする。

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の経過 2004年 4月 予防原則の適用 5月 EUの環境政策の基本原則(第5章 欧州連合における内分泌撹乱物質の規制策、終了) 6月 環境汚染防止におけるEnvironment Agency(EA)の一般的な役割 7月 内分泌撹乱物質による水質汚染が英国の水質汚染規制法の枠組みの中でどのように捉え られるか 8月 「汚染物質排出許可」(Discharge Consent)(工業排水および下水処理に関する法律の枠組みの 中で内分泌撹乱物質の規制が可能かどうか考察) 9月 Direct toxicity Assessment (化学物質の水中濃度を個別に測定する代わりに、特定の汚染源から の排水全体の毒性を測定し、生物に影響がある場合は排水全体を規制する) 10月 MPhilからPhDのUpgrading Seminarの準備、Upgrading Seminar用のペーパー、’Regulating -11月 Endocrine Disrupters: the Proposed Regulation under REACH’を執筆 12月 Integrated Pollution Control で内分泌かく乱物質の規制が可能か?(第6章 英国EAの内分泌撹乱物質規制戦略終了) 2005年 1月 様々な環境汚染物質規制手段(特定汚染源を中心に) 2月 同上 3月 Directive 2000/60 establishing a framework for Community Action in the field of water policy (Water Framework Directive)で内分泌撹乱物質の規制は可能か? 調査研究・研修の成果  昨年11月にUpgrading Seminarを行い、PhDをやるだけの実力があることが認められた。 昨年12月にEnvironment AgencyのEcosystem ManagerのDr. Geoff Brightyに会って、Environment Agencyの内分泌かく乱物質対策の話を聞くことができた。Brighty氏に会ったのがきっかけで、今年1月にグラスゴーで開催された「UK-Japan Cooperation on Research on Endocrine Disrupters in the Aquatic Environment」というワークショップにオブサーバーとして参加することができた。私が内分泌かく乱物質に関心を持つきっかけとなったのは、ジョン・サンプター教授による、合成界面活性剤のひとつであるAlkylphenol Ethoxylate(APE)による魚のメス化に関する論文を読んだのがきっかけであるが、このワークショップで、サンプター教授と話をすることもできた。そのほかにも、日本の井口泰泉氏など、この分野で活躍している日英の研究者や、日本で言えば、環境省に当たるDepartment for Environment and Rural Affairsの化学物質担当者、欧州委員会の内分泌かく乱物質担当者とも、話をする機会が持てた。 また、このワークショップの参加者の一人から、内分泌かく乱作用が疑われているビスフェノールA がラットに及ぼす影響に関する研究で有名なアメリカのフォン・サール教授の講演がロンドンであることを聞き出し、講演会に参加させてもらうことができた。講演会の終わりに、フォン・サール教授とも話をすることができ、人とのつながりをつくったという点では2004年度の後半はとても有意義だった。この人脈を論文のための、インタビューに役立てるだけでなく、将来の化学物質政策を変えていく上での基盤作りにつなげていけたらと考えている。

その他/備考

今後の展望
 とりあえずは、博士号取得に向けて、今後一年で、論文を仕上げ、来年中に口答試問を終えることを目標にしている。  博士号取得後、具体的にどうするかはまだ未定であるが、博士号取得の目的(現行の環境汚染物質の規制法の弱点を検証し、よりよい環境汚染防止法について提言を行うだけの実力を身につける)をまず果たし、それを最大限に活かし、実際に法改正に向けて活動を行い、内分泌撹乱物質を含めた様々な環境汚染物質のより厳しい規制に向けて尽力したい。  内分泌撹乱物質の問題は、今後、さらに重要性を増すと思われる。将来的には、POPs条約よりも拘束力のある国際条約を作り上げていく必用があると考えている。実際にそのような動きがあればそのプロセスにかかわり、効果的な法律が成立するよう力を尽くしたい。そのためにも市民科学の立場に立って研究を進めている科学者とネットワークを広げ、科学の世界で明らかになりつつある事象を法律に反映できるように、また、それを実現できるだけの実力と人脈を作るのを目標にしている。

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