2006年5月2日

「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」の総括と展望

核燃料サイクル国際評価パネル(ICRC)
 座長:吉岡 斉

目次

はじめに

1.「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」の活動

2.核燃料サイクル国際評価パネルの活動

3.再処理代替政策グループBEARの活動

4.研究継続と組織再編の必要性

5.第2次ICRCの概要

6.おわりに


はじめに

2006年4月25日に、この委託研究に委員、事務局、協力者として関与してきた人々に集まってもらい、下記のような総括と展望をまとめました。

この委託研究を新年度も継続するが、従来の研究・キャンペーン組織(ICRC,BEAR,政治的利用チームの三頭立て)を解体し、新たな研究組織(仮称:第2次ICRC)を立ち上げるというのが、展望の骨子です。

1.「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」の活動

この「市民科学アプローチ」プロジェクトの目的は、政府および電気事業者に対し、六ヶ所再処理工場の建設・運転を凍結させ、従来の政策・方針の見直しへ向けての検討を開始させることです。そのために上記「市民科学アプローチ」プロジェクトは、以下の3つのミッションに取り組んできました。
(1) 原子力長期計画改定の機会をとらえ、日本政府に対し、現在の核燃料サイクルバックエンド関連政策が合理的でないことを認識させ、政策の見直しを促すこと。
(2) ステイクホルダー(地方自治体等)に対し、核燃料再処理と、それにリンクしているプルサーマルについて、慎重に対処しつつ批判的な調査研究を進めるよう促すこと。
(3) 核燃料サイクルバックエンドに関連する、社会にとってより望ましい代替政策を提案すること。

2.核燃料サイクル国際評価パネルの活動

核燃料サイクル国際評価パネル(ICRC=International Critical Review Committee on the Long Term Nuclear Program)の主要ミッションは、上記(1)です。

ICRCは、政府の核燃料サイクルバックエンド関連政策を独立の専門家の立場から批判的に検討する研究組織として作られました。もちろん現行政策に批判的な市民の世論によって、ICRCが支援され、また評価されることを片時も忘れたことはありません。

(1) については、2005年3月から10月にかけて作業を進めました。その主たる成果は、長文の報告書(和文・英文各約70ページ)の出版です。それを2005年9月16日の第32回原子力委員会新計画策定会議において吉岡委員が配付し、その骨子の説明を行いました。また報告書がほぼ完成していた9月4日には、福島県主催国際シンポジウム「核燃料サイクル政策を考える」に9名の委員中7名が招聘され、研究成果を発表するとともに、それに関する討論を行いました。また10月23日には東京で成果報告会を行いました。

ICRCの批判活動を含む国内外の強い批判的世論を押し切って、2006年3月31日、日本原燃六ヶ所再処理工場はアクティブ試験を開始しました。これに抗議して4月1日、吉岡座長が日本側委員たちの意見を聞いた上で「六ヶ所再処理工場アクティブ試験実施についてのコメント」を発表しました。

また(2) については、ICRC日本側委員がワーキンググループを組織し、再処理又はプルサーマルの実施が予定されている都道府県および市町村に対するモデル提言書と、それに具体的な地域名を入れた地域別提言書を作成しました。その提言書を携えて、2005年12月17日に佐賀県唐津市で公開報告会「自治体政策からプルサーマルを考える」を、2006年2月5日に青森市で公開報告会「自治体政策から再処理を考える」を、それぞれ開催しました。また佐賀県、唐津市、青森県に対してそれぞれ申し入れを行い、提言書を手渡しました。

(2) はICRCの当初ミッションに入っておらず、むしろ後述のBEARの活動として行う予定でした。BEARが、代替長期政策にもとづく提言書をつくり、日本側のBEARサポートチームが、「政治的活用チーム」の補佐のもとに、地方自治体等のステイクホルダーにアプローチするという構想でした。しかしBEARの作業が遅れたために、日本側委員一同の了解を得た上で、これをICRCワーキンググループのミッションとしました。提言書作成に当たっては、代替長期政策が未完成の状態であることをふまえて、代替中期政策(無期凍結期間を設けて政策・方針を見直す)を軸とするものとしました。

3.再処理代替政策グループBEARの活動

最後に(3) については、ICRCの姉妹組織である再処理代替政策グループBEAR(Backend Policy Initiative Alternative to Reprocessing )が取り組んできました。そのミッションは、代替長期政策を作成し、「政治的活用チーム」の補佐のもとに、ステイクホルダーへの働きかけを行うことでした。代替長期政策は今後10年以上の時間間隔をカバーするもので、核燃料再処理事業の廃止を展望した政策とする予定です。それは再処理だけでなく、核燃料サイクルバックエンド関連事業全般に関する提言を含むものです。また原子力発電全体についても一定程度の提言を含むものとなる見込みです。 しかしBEARの作業は遅れており、核燃料サイクルバックエンドに関連して、代替長期政策をまとめるに到っていません。

4.研究継続と組織再編の必要性

前述のように2006年3月31日、日本原燃六ヶ所再処理工場はアクティブ試験を開始しました。「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」は、六ヶ所再処理工場アクティブ試験実施前に当初目的を実現することができませんでした。しかし目的の重要性はアクティブ試験開始後も些かも変わることはありません。それゆえこの新しい局面に対応して、再処理政策・方針の転換を実現するために、「市民科学アプローチ」プロジェクトを継続していく必要があります。幸いにも、当プロジェクトに対して、多数の市民科学サポーターの支援を得ることができたので、まだ若干の資金が残っています。それゆえ新たな財源を確保せずとも、当面はプロジェクトを継続できます。  ただし年度の交代に際し、今までの「市民科学アプローチ」活動の中核を担ってきたICRCおよびBEARの2つを一旦解散し、新たな組織体制を構築します。従来組織の解散の理由は、ICRCについては予定されていた活動を完了したことです。BEARについては、今の組織体制のままでは、効果的な活動を展開することが困難と思われるためです。とくに言語上の障壁は大きさは予想以上のものがありました。

5.第2次ICRCの概要

「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」の活動の中核をになう新組織として、第2次ICRC(International Critical Review Committee on the Backend Policy)(仮称)を設置します。第2次ICRCは日本の核燃料サイクルバックエンド関連政策に関する重要問題(イシュー)に対して、独立の専門家の立場から批判的に検討・評価し、タイムリーに見解表明を行う研究組織とします。見解表明の方法としては、公開イベント(研究会、報告会、ワークショップ等)開催や、記者会見等を想定しています。ICRCという名称を残す理由は、それがすでに一定の知名度を原子力関係者の間で獲得しているからです。

旧ICRCの日本側委員は、委員として留任し、また海外側委員についても、新組織のミッションを理解して頂いた上で留任を求めます。他に若干名の委員を補充する予定です。その事務局は、旧ICRCと同じく、環境エネルギー政策研究所(ISEP)がつとめます。また座長・事務局長その他若干名をメンバーとする「政治的活用チーム」を、存続させます。ただし社会的な流通性の高い名称を考える必要があります。

第2次ICRCの取り組む問題(イシュー)については、政府と電気事業者に六ヶ所再処理工場の運転を凍結させ、従来の政策・方針の見直しへ向けての検討を開始させることに役立つと考えられるあらゆる問題(イシュー)を取り上げ、政府と電気事業者の動きに機動的に対応していきたいと考えています。バックエンド関連事業に関して、どのような争点が今後重要となるかについては、不確定要素も小さくはありませんか、とくにアクティブ試験が始まり本格操業が近く予定されている現状においては、六ヶ所再処理工場稼働にともなう種々のリスクについての批判的検討は不可欠です。国内的には六ヶ所工場稼働による周辺地域の産業の損失や機会損失、国際的には説得的な利用計画を欠いた無用のプルトニウム抽出のもたらすグローバルな核軍縮・核不拡散への悪影響、の批判的検討が重要です。またプルトニウム利用に関する海外動向について、正確な実態とは異なる「明るい」情報が針小棒大に流されることが、日本の国内世論に一定の影響を及ぼしていることを考慮すれば、それに対する批判的検討を加えることも重要です。

また以下のようなケースにおいては、とりわけ機動的な対応が必要であり、そのための準備を怠らない必要があります。(1) 六ヶ所工場のアクティブ試験が終了し、本格操業へ向けての動きがはじまるとき(2007年夏以降)。(2) 六ヶ所工場アクティブ試験中の事故・事件(もんじゅと同様のケース)。(3) 環境放射能の異常値の観測。(4) プルサーマルなどプルトニウム利用に関わる事故・事件の勃発。(5) 国際世論・国内世論の重要な変化。  第2次ICRCには、必要に応じてワーキンググループを設置します。当面は、BEARの業務を引き継ぐワーキンググループ(BEARワーキンググループ)を設置し、フランスの核燃料サイクルバックエンド関連政策について、日本にも適用できるような教訓を抽出するために、レポートを作成します。(日本の政策について本格的な提言を出すには言語上の障壁が大き過ぎるので、フランスの教訓を抽出することに重点を置くこととしました)。なお旧BEARのミッションである代替長期政策の作成作業を引き継ぐワーキンググループを設置する具体的計画は、今のところありません。  第2次ICRCでは、引き続き国際的な連携を重視します。それはプルトニウム問題が国際的な広がりをもつ以上当然のことですが、日本の再処理の国際的な位置づけが六ヶ所再処理工場アクティブ試験開始によって変化したことも、国際連携の一層の強化を要請しています。世界の商業再処理工場の運転凍結と推進政策の見直しという世界共通の課題の一環として、日本の政策転換の課題を位置づけるという問題意識が、今まで以上に必要になってきたのです。

6.おわりに

「核燃料サイクル政策に関する市民科学アプローチ」は、今後も六ヶ所再処理工場の運転凍結と核燃料サイクルバックエンド関連政策の転換に向けて、第2次ICRCを中核組織として、活動を展開していきます。ご指導ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

以 上




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