2006年11月6日

核燃料サイクル国際評価パネルの活動状況

核燃料サイクル国際評価パネル(ICRC)
 座長:吉岡 斉

核燃料サイクル国際評価パネル(ICRC)は、高木基金委託研究「核燃料サイクルに関する市民的アプローチ」の中核的プロジェクトとして2005年3月に発足し、以下の2つのミッションに取り組みました。

第1は、内閣府原子力委員会の原子力長期計画改定の機会をとらえ、日本の核燃料サイクルバックエンド関連政策の抜本的な見直しを実現し、それによって民間事業者の六ヶ所再処理工場の建設を中止又は凍結させることです。

第2は、この問題の主要なステイクホルダーである地方自治体に、核燃料再処理と、それにリンクしているプルサーマルについて、実施受け入れ凍結を決断させ、批判的な調査研究を組織させることです。

第1の目標実現のためにICRCは長文の報告書(和文・英文各約70ページ)を作成し、それを政策に反映させるための一連のキャンペーンを行いましたが、その活動は実らず、2005年10月に従来方針を踏襲する原子力政策大綱が閣議決定されました。そして3月末日に六ヶ所工場アクティブ試験が始まりました。

第2の目標実現のためにICRCは、日本側委員によるワーキンググループを組織し、再処理又はプルサーマルの実施が予定されている地方自治体に対するモデル提言書を作成し、各地で公開報告会を開催し、それと連動して当地の自治体に申し入れを行いましたが方針転換に踏み切った地方自治体は今のところ皆無です。

このようにICRCの活動は今のところ、政府・業界に一定の脅威を及ぼし、世論形成に一定のインパクトを与えたとはいえ、ミッション自体に関しては目立った成果をあげていません。しかし日本の核燃料サイクルバックエンド関連政策に対して、独立の専門家の立場から批判的に検討する国際的研究組織が存在し続けることは、政策改革の芽を育てるために必要なことです。

それゆえ本年4月に関係者が集まり、ICRCの後継組織として、第2次核燃料サイクル国際評価パネル(第2次ICRC)を立ち上げました。ICRCという名称を残す理由は、それがすでに一定の知名度を原子力関係者の間で獲得しているからです。前回と同じく座長は吉岡斉(九州大学)、事務局長は飯田哲也(環境エネルギー政策研究所ISEP所長)がつとめ、事務局はISEPに設置します。

核燃料サイクル政策見直しの可能性を擁する具体的な場が存在しない現状においては、第2次ICRCは基礎的な調査研究を継続しつつ、そうした具体的な場が再び出現する機会に備えて、待機するのが賢明であると考えられます。

第2次ICRCは、本年5月15日に最初の打合会を開き、月1回のペースで打合会を重ねてきました。そこでは核燃料サイクルに関連する政策・事業の動向や、その他の社会情勢について議論することにより、情報や認識の共有化をはかってきました。また基礎的な調査研究を進めるべきテーマとして、次の2つを設定し、少しずつ作業を進めてきました。

第1のテーマは、六ヶ所再処理工場稼働にともなって追加される安全・環境リスクについての分析・評価です。これについてはイギリスやフランスのような、再処理工場運転実績をもつ諸国の情報・データを収集・整理し、それを参考にして日本のケースについて分析・評価を行ないます。

第2のテーマは、青森県および六ヶ所村を主要な分析対象とした、核燃料サイクル事業が地域社会にもたらす「機会損失」の調査研究です。金額の大きさと安全・環境リスクの大きさからみて、再処理工場が中心的な分析対象となります。「機会損失」とは、別の地域発展シナリオと比べた損失です。

本年11月12日に、科学技術社会論学会第5回年次大会が札幌で開かれますが、そこにおいて第2次ICRCは「核燃料サイクル国際評価パネル」と題するワークショップを開催します。そこではICRCおよび第2次ICRCの活動経過の説明が行なわれ、その「パラダイム」(模範的な実施例)としての意義について分析が加えられます。さらに第2次ICRCの2つの主要テーマについて、調査研究の戦略が語られます。

第2次ICRCは11月後半以降も、六ヶ所再処理工場の運転凍結と核燃料サイクルバックエンド関連政策の転換に向けて、地道な調査研究を継続し、その成果を皆様に還元していきます。ご指導ご支援のほど、よろしくお願いいたします。

以 上




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