高木仁三郎市民科学基金 研修の概要 (2005年度実施分)


   氏名:松野 亮子さん
研修テーマ:内分泌撹乱物質の法規制について
 助成金額: 60万円

研修の概要:2004年12月の助成申込書から
研修の成果:2006年4月の完了報告から

<参考>
これまでの研修:2004年度実施分

研修の概要 : 2004年12月の助成申込書から

私が環境ホルモン問題に初めて遭遇したのは、日本消費者連盟で、合成洗剤追放運動にかかわっていた1993年である。ひょんなことから手に入れたイギリスの新聞記事がきっかけとなり、非イオン系合成界面活性剤の一種にオスの魚をメス化させる作用がある、という論文を入手した。この論文を元に、合成洗剤追放全国集会で発表をしたり、この問題を国会レベルで取り上げてもらえるよう議員に陳情しに行ったりしたものの、内分泌撹乱作用の複雑さのせいか、聞き手にはピンとこなかったようであった。

だがこの問題の将来の世代に対する影響の大きさは非常に深刻であり、この問題の抜本的な解決策を法的な側面から検証したいと考え、1996年秋に、イギリスのケント大学法学部の修士課程に入学した。そこで「内分泌撹乱物質の水生生物に対する影響とその規制」をテーマに、修士論文を書いたが、半年という限られた時間内で書き上げるものには限界があるテーマだった。

当時、コルボーン博士の著書『奪われし未来』(1996年)が出版され、環境ホルモンによる精子の減少やオスのメス化が、一時的にマスコミでセンセーショナルに取り上げられたものの、この問題が一時見せた盛り上がりは根本的な解決策はなんらとられないまま、その後、すっかり鎮静化してしまった。環境ホルモンは人や野生生物の大量死を引き起こすわけではなく、目に見えないところでひそかに進行している問題なので、なおさら、手遅れにならないうちに対策をとることが必要であるが、普通の一市民として、できることには限界がある。したがって、まずは、もっと深くこの問題について、さらに現行の化学物質規制策について学び、将来はそれを政策レベルで反映できるような仕事につなげたいと思い、2002年に環境ホルモンの法律規制をテーマに同学部で博士課程を始めることになった。

従来の規制手段では、環境ホルモンを規制するのは困難である。その理由として第一に、これまでは、動物実験で無影響濃度、最低影響濃度を求め、それを基準に規制値を算出するという方法がとられてきた。環境ホルモンの場合、従来の毒性学では問題にならなかったほど微量の化学物質が、ヒトおよび野生生物の内分泌系を乱す可能性が指摘されているからである。第二に、有害物質の規制の主要な手法として、工場の排水口などの特定の汚染源からの排出濃度を設定するという方法が取られてきたが、この手法にはいくつかの問題がある。

i) この手法では規制対象となる化学物質それぞれに規制値を設けるが、これでは規制値が設定されていない物質は規制できない。規制対象となっている化学物質の数は、使用されている膨大な数の化学物質と比較すると氷山の一角に過ぎない。

ii) 汚染源が特定できない(例、農地に散布される農薬等)物質も数多く、そのような非特定汚染源に関しては排出濃度の設定は不可能である。

iii) 相乗作用が疑われているため、個々の化学物質の濃度を設定するだけでは、その影響を測ることができない。

iv) 環境ホルモン作用が疑われている化学物質のほとんどが残留性が高く、生態濃縮されやすいため、排水口または環境中の濃度が低くても、食物連鎖などを通して生体の脂肪層などに蓄積され、体内濃度は高くなる可能性がある。

こうした現状を鑑み、現在、環境ホルモンをめぐってどのような規制策が取られているのか?現行の規制策で十分でないのなら、今後どうしたら環境ホルモンからヒトおよび野生生物の健康を守ることができるのか?を調査、研究するのが博士論文のねらいである。現行の規制策については国際条約上、および、ヨーロッパとイギリスの法的枠組みに分けて考察を行うことにした。

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研修の成果:2006年4月の完了報告から

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