高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2005年度実施分)


   氏名:竹峰 誠一郎さん
研究テーマ:米国のヒバクシャへの対応:マーシャル諸島にみる
 助成金額: 60万円

研究の概要:2004年12月の助成申込書から
研究の成果:2006年4月の完了報告から

<参考>
これまでの助成研究:2002年度実施分

研究の概要 : 2004年12月の助成申込書から

1.米国による補償範囲の線引き、核被災範囲認定の問題性

『隠されたヒバクシャ―検証 裁きなきビキニ水爆被災』(凱風社)を上梓し、日ごろの研究成果の一端を出版という形で広く社会に伝えることができた。

この中で、爆心地から南東525キロ離れたアイルック環礁を中心にあつかった。同地域は、これまで実相解明の対象として重視されず、かつアメリカ政府も核被災地として認めてこなかった地域である。こうしたこれまでほとんど顧みられてこなかった地域のヒバクシャの存在を浮き彫りにすることを通じて、放射性降下物の降灰に対する米公式見解と絶対視されてきた公式被災地図を問い直し、ビキニ水爆被災像を塗り変えていくことをねらいとした。

アメリカ政府は1954年の水爆実験直後からアイルックなどへの核被災の広がりを認識し、住民避難まで検討していた。さらに70年代後半から80年代初頭にかけて健康管理事業などの措置を予算見積もりまで出していた。にもかかわらず80年代の核実験補償交渉の際に、アメリカ政府は核被災範囲を4環礁に限定する態度をとり、核被災の広がりは封印されたまま、1億5千万ドルの支払いで「完全決着」とされた。以上のことが、米公文書や住民の証言のなかで裏付けられた。

被害の全容が公になる前に一定の金銭を支払って「完全決着」とする、そのやり方は福竜丸の被災問題をめぐる政治決着とも重なる。ビキニ水爆被災の問題は、日本でもマーシャル諸島でも加害者であるアメリカ政府に対して、その責任を問えない、あるいは問い難いしくみがつくられているのである。

マーシャル諸島では今も核実験の影が、健康・暮らし・文化・こころにおよんでいる。現在マーシャル諸島政府側からアメリカ議会へ核実験追加補償請願が出されている。同請願に対し、ブッシュ政権は2004年11月否定的な見解を発表した。そこでも「完全決着」という文言が繰り返されていた。2006年4月核実験場とされたビキニとエニウェトクは、個別に核実験被害の賠償請求を求め米連邦裁に提訴した。今後も核実験追加補償問題はフォローしていく。

2.ビキニ初訪問・ロンゲラップ再定住計画住民説明会参加

2006年2月から3月にかけてマーシャル諸島にて現地調査をおこなった。2006年は核実験のためビキニ住民が自らの土地を明けわたしてから60年である。ビキニは、米国から「安全宣言」と「帰島勧告」がだされ、1973年から78年まで一部住民が帰島していた時期がある。しかし78年ビキニは再び閉鎖された。いまも住民たちは帰島していない。そのようななかビキニ市長とかけあい、元核実験場とされたビキニを初めて訪れる機会を得た。米エネルギー省(DOE)によるビキニ環境特別調査が、地元自治体の要請によって実施される時期と重なり、4泊5日DOE調査に直接同行した。

首都マジュロに戻ってからは、ビキニの風下にあり、自分たちの島々を奪われているロンゲラップの再定住計画にかんする住民説明会に参加した。「ロンゲラップは安全だ。帰島できる」というDOEや独科学者の見解に対して、住民側から懐疑的な意見や質問が相次いだ。今後も住民帰島問題やDOEによる残留放射線調査についてフォローしていく。

3.マーシャル諸島核実験と広島・長崎原爆をつなぐもの―ABCC

米公文書調査をつうじて、原爆傷害調査委員会(ABCC)とマーシャル諸島核実験をつなぐ糸が少しずつみえてきた。いくつか例を挙げたい。1954年3月水爆ブラボー実験をおこなう際、米国政府は既に放射性降下物の飛散状態を地球規模で把握するため世界各地に観測所を構築していた。広島・長崎にも観測地がおかれ、影響調査のためABCCの研究者も協力し、日本からも人骨の提供がおこなわれていた。

1954年のビキニ水爆被災後、マーシャル諸島ではコナード医師が中心になり、一部のマーシャル諸島住民を対象に医学的追跡調査がなされたことは周知のことである。今回の調査で、同医師は広島のABCCに訪れるなど、ABCCとマーシャル諸島調査の連携強化をはかっていたことがわかった。

今後もABCCとマーシャル諸島の核実験問題の接点を洗い出していきたい。これは広島・長崎とマーシャル諸島をつなぎ、かつ両者の「人体実験疑惑」の解明に寄与する重要問題だとみている。

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研究の成果:2006年4月の完了報告から

◆  調査研究の概要 PDF 26KB ◆  会計報告 PDF 5KB




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