高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2006年度実施分)


グループ名:水俣病センター相思社
代表者氏名:遠藤 邦夫さん
研究テーマ:水俣市の廃棄物最終処分場建設予定
地周辺の水環境に関する調査研究―
建設反対のための科学的データの収集と分析
 助成金額: 50万円

研究の概要:2005年12月の助成申込書から
 途中経過:2006年10月の中間報告から
結果・成果:2007年4月の完了報告から

<参考>
助成先のウェブサイト: http://www.soshisha.org
その後の助成研究:2007年度実施分2008年度実施分

2007年6月の成果発表会にて
(発表者は高嶋由紀子さん)

研究の概要 : 2005年12月の助成申込書から

水俣市の水源である湯出川上流に民間業者によって204万m3の管理型産業廃棄物最終処分場の建設が計画されている。

予定地は豊かな自然に恵まれた水俣市の水源であり、処分場建設による環境破壊、特に水源の汚染が危惧される。水俣市はこの10年来、水俣病の教訓を生かし、環境再生のために資源ごみの分別収集や水源涵養などに積極的に取り組んできたが、水源地への処分場建設は、水俣市の環境再生の取り組みを無にするものである。

また一方で、水の問題は、しばしば企業の論理において「安全性」の問題に矮小化される。しかし、飲料水の安全が確保されれば良いのであろうか。古来より、水俣の人々は水と共生しながら、豊かな生活文化を築き、地域社会を守り育ててきた。産廃処分場はそのような地域の生活環境をも破壊する。

多くの市民が処分場建設反対の声を上げているが、市民の安全を守るべき水俣市長は産廃処分場建設に反対を表明せず曖昧な態度を取っており、熊本県も、法律の基準を満たせば許可せざるを得ないとしている。

本研究のねらいは、産廃処分場建設予定地周辺およびその下流域における水質と水利用の実態を調査し、処分場建設がもたらす環境影響を正しく予測することである。調査結果は、報告書作成・データベース化・報告会開催などを通して市民に還元する。また、調査結果を元に、業者には処分場建設断念を、熊本県には設置許可を出さないよう、水俣市には処分場建設に反対の立場をとるよう政策転換を求める。

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 途中経過:2006年10月の中間報告から

水俣市の水源である湯出川の上流に、民間の廃棄物処理業者により204万・3という民間施設としては日本最大規模の管理型産業廃棄物最終処分場の建設が計画され、現在、熊本県の条例による環境影響評価の準備書手続きが進行中であると業者は述べている。

予定地の真下に位置する大森地区には20数箇所の湧水があり、地区住民の飲み水となっているほか、7キロ下流には市内の上水道の取水口がある。

今年2月の水俣市長選挙で処分場建設反対の市長が当選したことにより、住民の産廃処分場建設反対の意思は明確に示された。4月に市役所に産廃対策室が設けられ、6月末には「産廃反対!水俣市民会議」が市内52団体の参加のもと結成され、全市をあげての反対体制が整った。住民の産廃反対のアピールに加え、水俣病公式確認50年の年に水俣への関心が高まったことにより、水俣の産廃処分場計画は全国的にも認知されるようになってきた。7月には、業者がすでに買収を終えていたとされる予定地内に、国有地が存在することが明らかになり、水俣市に払い下げを受ける方法が模索されている。

業者は昨年11月には2006年度中に準備書を提出すると述べていたが、その後「8月までに」「夏じゅうに」と二転三転している。住民にとっては対応を進める準備期間ができたともいえるが、一方で、業者の動きが見えないことで市民の関心が薄まることが懸念される。

私たちは、市民の立場から、処分場建設がもたらす水環境への影響を正しく予測するため、産廃処分場予定地下流の湯出川・鹿谷川の河川水の水質調査を行った。6月に鹿谷川および湯出川下流の2ヶ所で採水し、株式会社ニチゴー九州に38項目の分析を依頼した。結果は、予想通りではあるが、おおむね国の環境基準を大きく下回り、鹿谷川、湯出川とも非常に良好な環境であることが数値的に証明された。

7月には「水俣に産廃はいらない!みんなの会」との共催で、久留米大学医学部教授の河内俊英さんを講師に招き「市民による環境調査の考え方と方法〜久留米市の処分場反対運動から学ぶ」と題して講演会を行い、久留米市の住民による環境調査の事例を学んだ。これらの成果は、市民団体の会合などで配布したほか、相思社の機関紙「ごんずい」95号(7月発行、約3000部)にて市民の一部や全国の会員に報告した。

高木基金助成金を受けての調査活動のうち主なものは前期で終了した。今後は市民団体や水俣市の産廃対策室および地元の専門家と協力し、引き続き学習会活動や可能な調査を行い、それらの成果も含めて、アセスメント準備書への住民意見書に活用するほか、漫画等の分かりやすいツールにして市民に伝える。また、年度末または適切な時期に報告会を開く予定である。

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結果・成果:2007年4月の完了報告から

2006年6月1日、排出水を放流する鹿谷川、および下流の湯出川で河川水の採水(参加者7名)を行い、(株)ニチゴー九州に分析を依頼した。目的は現状で汚染がないことを確認することであったが、当然ながら、湯出川・鹿谷川とも水質に問題なく、環境基準のAランクを満たす結果であった。また、カドミウム、シアン、水銀等の重金属や、PCB ・トリクロロエチレン等も基準値を大きく下回るか、検出されなかった。

7月に久留米大学助教授の河内俊英さんの講演会を行い、久留米での取り組みから市民調査のあり方について学んだ。11月に行った地質についての現地学習会では、水俣高校の長峰智先生の案内で、現地の特徴的な地質の状況を歩きながら学習した。板状節理の発達した安山岩からなる予定地の台地は、透水性が高く、豊富な地下水をはぐくみ、湧水の恵みをもたらしてくれることが分かった。

研究の成果は機関紙「ごんずい」上で逐次報告したほか、報告書にまとめ、市民に配布した。成果の一部は分かりやすく漫画にして配布し好評であった。それとともに、2007年2月12日、水俣病センター相思社にて成果報告会を開催した。

2月22日より環境影響評価準備書が縦覧となっている。調査を通して得た知識が、地下水・湧水や排水処理・地質等の項目において、事業者側の調査の不備や矛盾点を見つけ出すことに役立った。3月11日には準備書に関する事業者説明会が開かれ、特に湧水をめぐって事業者側と住民が激しく対立した。私たちは事業者の調査の不備を追及し、湧水の再調査・ボーリングコア・柱状図の公開と、説明会の再開催を約束させた。4月9日に湧水調査を行い、5月13日にやり直しの説明会を開催することになっている。私たちは、そこでも引き続き事業者の環境影響評価の問題点を厳しく追及していきたい。

2007年度は、2006年度の成果を踏まえて、詳細な地質踏査を行い、基本的な地層の重なりを把握し、湧水箇所・断層・崩落危険箇所等の存在を明らかにする予定である。

その他、産廃反対の市民団体・市の産廃対策室などと協力して湧水量調査・交通量・騒音振動調査を行う予定である。 また、市民からは、産廃ができるとどういうことが起こるのか、もっと平易に分かりやすく伝えてほしいという要望もあった。市民向けに広く分かりやすい広報活動を、市や各市民団体と協力しながら行いたい。

◆  助成研究の完了報告書 PDF 22KB ◆  会計報告 PDF 6KB
◆ 研究レポート
『水俣市の廃棄物最終処分場建設予定地周辺の水環境に関する調査研究

―建設反対のための科学的データの収集と分析―』 PDF 610KB
<助成報告集Vol.4,2007掲載>



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