高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2007年度実施分)





グループ名:国土問題研究会 千曲川土砂堆積・水害調査団
代表者氏名:中沢 勇さん
研究テーマ:千曲川における河床土砂堆積と水害に関する
調査研究
 助成金額:50万円
研究の概要:2006年12月の助成申込書から
 途中経過:2007年 9月の中間報告から
結果・成果:2008年 4月の完了報告から

<参考>助成先のウェブサイト:
      http://ha2.seikyou.ne.jp/home/kokudo/
これまでの助成研究:2004年度実施分

研究の概要 : 2006年12月の助成申込書から

飯山盆地・長野盆地内では、土砂堆積により千曲川の河床が上がっており、千曲川本川の洪水時水位が年々高くなって溢水・氾濫の危険性が増大している。すなわち、飯山盆地では、昭和57年・58年の洪水時に連続して破堤するという事態が起こっており、水位が上がると堤防からの漏水もある。また、長野盆地では昭和58年には洪水流は盆地下流端の立ヶ花橋上を越流した。千曲川に流入する浅川では洪水のたびに合流点付近で深刻な内水災害が発生している。立ヶ花橋の水位観測所では洪水流量が同じであっても水位が高くなる傾向が認められる。これは、低水路はそれほど変化していないものの、高水敷での河床上昇が著しく、結果的に洪水時水位が上がっているためと考えられるが、国交省はむしろ河床は低下していると主張している。

長野盆地・飯山盆地における千曲川の河床上昇は堤防高さの相対的な低下を意味し、将来深刻な水害をもたらすと予想される。このような問題をはらむ河床上昇の実態と発生のメカニズムを正確に把握し、千曲川の治水対策に何らかの寄与をしようとすることが本調査研究の目的である。

本調査研究では、以下の3つの観点から調査研究を進める。すなわち、第1に、長野県・新潟県境から約13km上流に位置する西大滝ダム(発電目的)や河道内に設置された建造物がそれより上流部の河床上昇ひいては洪水時水位上昇に重大な影響を及ぼしているのではないかということ。第2に、千曲川では盆地部と狭窄部とが交互に連続しており、そのために土砂堆積は発生しやすく、また水害は独特の発生メカニズムをもつこと。そして第3に、千曲川流域はフォッサマグナ地域や火山地域を含み、それだけに流域からの土砂供給が膨大であること、である。

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 途中経過:2007年9月の中間報告から

飯山盆地・長野盆地では千曲川の河床が上がっており、また洪水時の流量が同じでも水位は高くなってきており、水害のポテンシャルが上昇している。本調査研究はその原因とメカニズムを3つの観点から解明しようとするものである。すなわち、@千曲川の流域特性から、A盆地と狭窄部が交互に現れる河道地形特性から、B下流の西大滝ダムの影響から、である。以下に、現在までに判明したことをごくかいつまんで述べる。

西大滝ダムによる堆砂現象により戸狩狭窄部河道では河床がダム建設以前よりおよそ2m上昇していると見なされる。さらに、ダム堤体によりダム地点における洪水の疎通が妨げられ、そこでの水位が高められる。これらの原因で、洪水時における戸狩狭窄部河道での水位はダム建設以前より2m前後上昇していると見なされる。これにより洪水時には飯山盆地の水位は高くなり、盆地全体がダム湖のようになり、そのため、高水敷に浮流砂が堆積する。とくに中央橋下流部の河川幅が急拡しているあたりで(そこは飯山盆地における「河川の節」と見なされる)、水裏にあたるところではとりわけ堆積が進んでいるようであり、堆積量は大きなところでは10年間で1mに達することが確かめられた。

つぎに、長野盆地の洪水時水位が上がっていることの主原因については、上記「河川の節」における堆積進行によることと、さらに綱切橋・古牧橋の間で昭和58年災害後堤防建設により河道が人工的に狭窄化されたことと考えられる。さらに、立ヶ花狭窄部河道での土砂堆積の影響についても検討する必要がある。




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結果・成果:2008年4月の完了報告から

千曲川では同じ洪水流量でも最近の洪水ほど水位が高くなるなど、水害ポテンシャルが上昇している。本調査研究はその原因とメカニズムを解明し水害対策に寄与しようとするものである。調査は本年10月完了の予定であるが、現段階における主原因は、河川改修により氾濫原がなくなったことと一部で川幅が減少したことと考えられる。調査研究は以下の3つの観点から推進しようとしている。第一は、西大滝ダムやその他の人工構造物が河床変動と水位上昇にどのような影響を与えているかということ、第二に、盆地部と狭窄部が交互に配置された千曲川の特徴的な地形が洪水流下にどのような影響を与えているかということ、そして第三に、千曲川流域はフォッサマグナ地域や火山地域を含み、地殻変動のはげしい地域であるがそれが水害特性にどのような影響を与えているかということである。

第一の観点からの調査成果としては、県に河川管理が委託されている指定区間(西大滝ダムを含む千曲川最下流部の22kmの区間)では、河床高さは大洪水により低下し、洪水がない年は上昇するという変動を繰り返しており、既往最高河床高と最低との間に数mの差があることが示された。ただダム設置後20年間ほどのダム堆砂にともなう河床変動が大きかったと考えられるが当時の河床高さに関する資料がまだ得られていない。また、西大滝ダムの高さは15m以上あり、河川法上のダムに相当するにもかかわらず、現実には河川法44条の規定(従前の機能維持の義務づけ)の適用を免れているのではないかという問題が提起された。

第二の観点、千曲川の巨視的な地形特性から千曲川の洪水流下特性をみてみると、盆地部が洪水ピーク流量の減衰に大きな役割を果たしていること、しかし、同じ洪水流量でも最近水位は高くなっていることが洪水の水位流量データから示された。また高水敷河道における土砂堆積が顕著であることが懸念されたが、飯山盆地内では低水路河道での河床低下が著しく河道横断面積が土砂堆積により減少したとは言えないことがわかった。ただし、飯山盆地上流部の綱切橋〜中央橋あたりで土砂堆積が顕著であり、これは洪水時に盆地部河道がダム湖のような挙動をするためであると言える。このような現象が生じるメカニズムとその上流への影響についてはさらに検討をつめたい。また、飯山盆地の高水敷で堆積土層の剥ぎ取りサンプリングを実施したが、その結果が過去の洪水履歴と明瞭に対比できることがわかった。

第三の観点からの調査としては、第四紀更新世〜完新世における立ヶ花狭窄部周辺の丘陵部の隆起あるいは延徳低地の沈降は100年あたり100mm程度であり、人工的改修にともなうあるいは自然の土砂堆積による河床変動に比べて無視しうる量であることが示された。また、河道狭窄部に生じる「自然の堰」や崩壊の場所は褶曲軸や断層が千曲川を横断する個所と一致しており、それらの成因には地盤変動が関わっていることを示した。このような特性は、立ヶ花狭窄部河道で顕著であり、市川狭窄部では支川からの土石流供給も関連がありそうである。「自然の堰」がどれほど洪水流下を阻害しているかについてはさらに検討を要する。


千曲川高水敷でピットを掘り、さらにスライスサンプラーを打ち込んで
土砂堆積層の状況をサンプリングした。(2007年5月29日)

同上(5月30日)

掘削したピットの状況(5月30日)

スライスサンプラーで採取された土砂堆積層のサンプル(5月30日)



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