高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2006年度実施分)


グループ名:長島の自然を守る会
代表者氏名:高島 美登里さん
研究テーマ:上関原発詳細調査による自然環境
・生態系へのダメージの検証
 助成金額:100万円

研究の概要:2005年12月の助成申込書から
 途中経過:2006年10月の中間報告から
結果・成果:2007年4月の完了報告から

2007年6月の成果発表会にて
<参考>
助成先のウェブサイト:http://www2.ocn.ne.jp/~haguman/nagasima.htm
これまでの助成研究:2002年度実施分2004年度実施分2005年度実施分
その後の助成研究:2007年度実施分

研究の概要 : 2005年12月の助成申込書から

長島の自然環境・生態系は世界遺産に匹敵する価値を有しており、あらゆる人工的改変を加えず手つかずのまま保存すべきでものである。長島の自然を守る会(以後守る会と省略)は1999年9月より同地の自然環境・生態系に着目し、生態学会等と調査を重ねてきた。

上関原発をめぐる情勢は中国電力が2005年4月から原子炉設置許可申請に必要な詳細調査に着手し、早くも7月から海岸部に異変を察知した。原因究明の過程で陸域ボーリングの濁水垂れ流しを発見し、県および中国電力を追及し、9月16日より調査中断に追い込んだ。

さらに10月調査で発見した海域ボーリングの漏水防止コンクリートの崩落を追及したが、山口県は海域異変の原因究明を見逃したまま、調査再開を認め、12月2日より中国電力は調査を再開した。また、10月調査で国の天然記念物であるカラスバトの生息を確認し、中国電力は通年調査をせざるを得なくなった。

現在も、生態系のダメージは深刻さを増しているが、中国電力も行政もその事実を否認しており、ダメージの実態調査およびその検証をめぐる攻防が熾烈さを極めている。

生態系調査の頻度を高め、砂質粒度・海水汚濁度・汚染度など従来実施してきた以上の科学的分析を、多方面にわたり行う。カラスバトの生息調査および把握を精力的に行い、陸域ボーリング中止のための科学的データ蓄積も急務を要する。さらに詳細調査の不断の監視体制も必要不可欠である。これらの成果を武器に1日も早く詳細調査を中止させる。

上関原発計を白紙撤回させ、自然と共生する町作りを目指し、世界遺産登録を目指す。

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 途中経過:2006年10月の中間報告から

上関原発詳細調査はボーリング海陸各々60ヶ所のうち、陸域11ヶ所、海域19ヶ所が完了し、現在実施中のものが陸域4ヶ所、海域2ヶ所という進捗状況である。昨年、われわれが告発した海陸ボーリング濁水垂れ流しによる約3ヶ月の中断や、現地祝島を中心とする大型ボーリング台船搬入阻止・仮桟橋設置阻止行動により、調査は大幅に遅れており、当初予定の2006年度末終了は危ぶまれている。 長島の自然を守る会は、詳細調査のダメージに対する監視・点検のため、2006年4月から計7回(4/8、4/29〜30、5/6〜7、5/13、7/22、8/13、9/10)の調査を実施した。田ノ浦海岸岩礫部の汚泥は昨年7〜9月に比較すると少ないが、海水透明度は春夏とも昨年より悪かった。ケガキやカメノテの死殻割合の変異を追跡する為の定量調査も実施や、10/8〜9に新たに湧水調査も行う。

一方、5月調査で田ノ浦湾内の浅海部で、日本海由来の海藻スギモクの群落を確認した。世界では、朝鮮半島沿岸と日本海に分布し、瀬戸内海ではわずかに大分県姫島で確認されているだけで、今回みつかったスギモク群落は、日本海に最も遠い生息地として注目される。また、環境影響評価書で事業者に追加調査を指示しているヤシマイシン近似種の卵塊数の倍増を確認し、埋め立て予定地のタイドプール(潮溜り)が繁殖地であることも証明された。近く、行政・事業者に保全のための再調査と詳細調査中止を申し入れる。

また、長島の生態系の素晴らしさと直面している危機を普及させるため、DVD&ビデオ「瀬戸内の原風景 長島」を作成し、6/25広島シンポジウム、8/5原水禁世界大会、10/14東京シンポジウムなどを開催し、上関原発中止の世論喚起に努めている。

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結果・成果:2007年4月の完了報告から

中国電力の原子炉設置許可のための詳細調査による自然破壊が日々刻々と進む中、詳細調査を中止に至らせることができなかったのは非常に残念である。しかし、詳細調査は2006年度末終了予定であったのが、5月30日現在陸域29本、海域24本(予定は海陸各60本)と全体の半分しか終了していない。これは、地元祝島を中心とする実力阻止闘争や私たちの告発の成果とも言える。

2006年度の調査研究の主な成果は
@国の天然記念物であるカラスバトの鳴き声の録音に成功し、テレビで報道されたり、瀬戸内海では貴重なスギモク群落を発見するなど、自然環境・生態系の新たな解明をして、事業者や行政を追及したこと
Aヤシマイシン近似種調査の不備追及で事業者に1号機炉心部分での生息確認を公表せざるを得なくさせたこと
B湧水・地質など新たな研究チームの参加で、現在進行している詳細調査によるダメージを検証する新しい分野が得られ、また詳細調査のデータ改ざんを監視する役割も果たせるようになったこと
C神社地が入会地として利用されてきたことを植生調査によって明らかにし、弁護団が物的証拠として提出するデータを提供したこと
D生態学会地区会報No.60の発刊・学会発表・シンポジウム開催や原水禁‘ひろば’・アースデイへの出展などで上関原発の現状と詳細調査による自然破壊の告発の普及に寄与したこと
などである。

一方、詳細調査による現地の自然環境・生態系の破壊は日々刻々と進んでおり、また、詳細調査終了のめどが立った時点で中国電力は埋め立て許可申請に入ると予想され、予断は許さない。

そんな折、あらたな鋼製櫓を設置した海域で、2007年6月10日、会員の現地調査でクサフグの産卵シーンの撮影に成功した。その影響か中国電力は6月12日に予定していた2機めの鋼製櫓設置を急遽延期している。山口県では光市室積海岸が県の天然記念物に指定されており、産卵地が海域ボーリング調査予定地の真っ只中であることから、緊急に中国電力・山口県に海域ボーリング調査中止を申し入れる。

2007年度は地元祝島と連携したあらたな局面での闘いを計画しており、そのため
@基礎データの収集・集約作業を行う。
Aあらたな知見による詳細調査のダメージを検証し、告発・中止への圧力をかける。
B海水汚濁度・自然放射線測定など、埋め立てという最悪の事態も予測し、すでに埋め立て予定地周辺の基礎データを収集しているが、今後もより広範囲に予備調査を行う。
Cビデオ・パネル写真に続く広範な普及活動に活用できる書籍の刊行―などを準備中である。

◆  助成研究の完了報告書 PDF 40KB ◆  会計報告 PDF 8KB
◆ 研究レポート
『「究極の楽園 長島」に日々刻々迫りつつある自然環境破壊を告発する!!

―上関原発詳細調査による自然環境・生態系へのダメージの検証―』 PDF 1,054KB
<助成報告集Vol.4,2007掲載>



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