高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2007年度実施分)





グループ名:長島の自然を守る会
代表者氏名:高島 美登里さん
研究テーマ:上関原発詳細調査による自然環境・生態系への
ダメージの検証
 助成金額:120万円
研究の概要:2006年12月の助成申込書から
 途中経過:2007年 9月の中間報告から
結果・成果:2008年 4月の完了報告から

<参考>
助成先のウェブサイト:http://www2.ocn.ne.jp/~haguman/nagasima.htm
これまでの助成研究:2002年度実施分2004年度実施分
2005年度実施分2006年度実施分
その後の助成研究:2008年度実施分

研究の概要 : 2006年12月の助成申込書から

2005年4月に中国電力は上関原発の建設許可を得るための詳細調査を始めた。私たち長島の自然を守る会は、次のような決定的な場面において活動し、電力会社による環境破壊を防ぐ努力をかなりの程度の成功裏になしとげた。
@2000年;環境アセスメントの不備を告発し、レポートの完成を1年間延期させた。
A2004年;神社地売却に反対する署名運動をして神社本庁の決定に影響を与えようとした。
B2005年;陸でのボーリングからの排水を処理せず流していたことを見つけて、工事を3ヶ月中断させた。
C海でのボーリングの漏水を防ぐコンクリートが割れていることを見つけて公表した。
D2006年;共有地だから原発に利用させないことを主張する裁判で入会地としての利用があったことを証明する証拠を提出した。ボーリング装置が台風で海底環境を破壊したことを発見し、電力会社が希少なカクメイ科貝類を炉心予定地そばで確認したのにそれを隠していたことを追及している。

2006年度は、次の3つの分野で、電力会社の環境破壊と行政のチェックの不在を明かにする。
@地形・地質の調査で地盤が脆いことを明かにし、詳細調査に対抗するデータを提出する。
A四季を通じた生物多様性の調査を行う。その焦点は、次に述べる重要な生物種と環境への悪影響である。(@)カクメイ科貝類(A)カラスバト(B)海藻のスギモク(C)湧水調査によって明らかになるボーリング汚染水の地中浸透のメカニズムの解明。
Bこれから電力会社が実施する試掘孔調査や弾性波探査が生態系にさらなるダメージを与えることが危惧されるので、音波・震度計測の独立した調査を行う。これらの調査の目的は、最近よく知られるようになった、電力会社が得意とする測定データの改ざんや事故の隠蔽を許さないように、われわれ市民がチェックするためのものである。

山口県の地方政府は、国の政府が原子力を推進しているという現実に打ち負かされて、全く主体治的な選択をもたず、事業者の指導も形骸化している。司法ももはや独立ではなく、公判の日程や判決も政治状況に支配されていることを我々は危惧する。このような悪い状況にも関わらず、我々は事業者や行政の責任を強く追及するとともに、次のようなプログラムを通して、長島と瀬戸内海の自然の大切さを日本と世界の世論に訴える努力を強化する。@入会地としての里山の資源利用A市民参加の自然観察会B全国でのシンポジウム&パネル展など。

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 途中経過:2007年9月の中間報告から


上関原発原子炉設置許可のための詳細調査は、反対派住民の抵抗や長島の自然を守る会の摘発、自然条件等に阻まれ、当初予定より大幅に遅れています。中国電力は2006年度末までの終了予定を2007年11月末までに延長しましたが、8月3日現在、ボーリングは陸38/60本、海27/60本分を完了したのみで、音波探査・弾性波探査も遅れており、期限の再延長は必至です。

しかし、浅海部での鋼製櫓7機によるボーリング調査や陸域の伐採面積の拡大などにより、海岸部の地形変化や砂泥堆積など生態系へのダメージは日増しに深刻さを増しています。自然環境&生態系調査では浅海部ボーリング周辺でカメノテなど付着生物の死骸が増え、イボニシ等の貝類・スギモクなど海藻の減少傾向が顕著です。また、スナメリの目撃数もボーリング調査が実施されている田ノ浦湾周辺での減少が地元民から報告されています。



このような中、2007年6月10日に会員がクサフグ産卵シーンの撮影に成功し、マスコミで報道されました。また全国的に減少傾向にあるアカテガニの一斉放仔も確認されるなど長島の生態系の貴重さをあらたに検証しました。

また、研究者との共同調査での新しい分野として、今後の基礎資料となる山体地下水の計量測定やプランクトン調査なども手がけ始めています。


後期は従来の生態系調査に加え、地盤・地質など地震をテーマにした調査研究を手がけるとともに、司法の場における闘いを視野に入れた弁護士などとの連携や研究成果をまとめた書籍の出版にも力を注ぎたいと考えています。

また、一般市民への普及活動として、新たに参加したアースデイ出展(東京・気仙沼・光)等により、新しい支援の輪が広がりつつあることも今後の活動に展望を与えるものです。

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結果・成果:2008年4月の完了報告から

2007年4月〜2008年3月まで、四季にわたる自然環境・生態系調査を計21回、延べ218人の参加で行った。

その結果、これまでも、カラスバトやヤシマイシン近似種の生息確認など調査のたびに新たな知見を得てきたが、2007年度は特に以下の6点が成果として挙げられる。(@)海域ボーリング予定地点の直ぐ近くで、山口県光市では県の天然記念物に指定されているクサフグの産卵を確認した。(A)海域ボーリング予定地点の直ぐ近くで、最近では全国的に減少しているアカテガニの放仔の撮影に成功した。(B)山口県準絶滅危惧種オオコハズクを標識調査で確認した。(C)海藻・湧水など新たな研究チームの参加で、田ノ浦は雨量にして1日700mmにも達する豊富な湧水が湾内に還流し、瀬戸内海でもっとも豊かな魚類や希少な生物層の生息基盤となっていることが解明された。(D)新たに手がけたプランクトン調査によっても、カサシャミセンの幼生やウニ・ナマコなどの漁業資源の幼生が多いことが裏付けられた。(E)取水口予定地付近で、山口県準絶滅危惧種ヤマセミを確認した。

こうした成果を以って、中国電力の原子炉設置許可のための詳細調査による自然破壊が日々刻々と進む中、環境面からの追求の手を緩めず、中国電力に種種の追加調査をさせ、ホームページ上に自然環境調査結果を掲載させている。瀬戸内海では30年ぶりの確認となったスギモクが減少しているのを突き止め、申入れで陸域工事やボーリングの影響を指摘した。

これまで自然科学研究者との連携が主であったが、コモンズ学など社会科学研究者との連携も始まった。(’08.2.24.里山・里海シンポジウム開催)普及活動についても、新たな拡がりが生まれた。アースデイ出展(東京・山口)をはじめ、京都大学学園祭や広島県福山市など開催地の支援者が中心となり、シンポジウム&写真展を企画して貰える普及活動の拡がりができた。

今後の展望としては長島の生態系の新たな側面の解明や詳細調査によるダメージを検証するため、鳥類・哺乳類・海生生物・植生・海藻など四季にわたる調査をさらに継続強化する。特に@湧水・伏流水による“海の健康度”チェックの提案を行い、長島の生態系の豊かさを浮き彫りにする。ラムサール条約登録のための予備調査や自然の権利訴訟における立証のためのデータとして活用していく。

また、持続可能な自然と共生する事業の実験的試行 として@“祝島未来航海プロジェクト”との連携を図り、A金漆の再生研究―長島に多数生育しているカクレミノを利用した金漆の再生研究を行う。


08年3月 田ノ浦スギモク



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