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「沈黙の干潟」:私たちは何を食べるのか? −ハマグリを通して見る日本と韓国の食と海の未来−



グループ名 日韓共同干潟調査団ハマグリプロジェクトチーム 調査研究の概況[pdf591kb]
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代表者氏名 山下 博由 さん
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助成金額 30万円

日本周辺のハマグリ属 3 種

ハマグリMeretrix lusoria の生息分布の現状

韓国における調査地点とハマグリ類の分布パターン

国産ハマグリ(Meretrix lusoria)の漁獲量(上図)と有明海・不知火海(=熊本県)のハマグリ漁獲量の年次変化(下図)

日本発のハマグリ恐慌

研究の概要

2002年12月の助成申込書から
 生物としてのハマグリ類と、食材としての「蛤」の両面を、生物学的・文化人類学的手法を駆使して解明するなかで、生活者の視点から現在の海洋環境の荒廃と産業社会構造の矛盾を明らかし、市民に干潟保全の重要性を訴える。  この研究は、人類の生存にとって最も基本的な与件である「食」を通して、現代社会のあり方を直接的に問い、海洋生態系の保全の必要性を広く認識させるものである。

中間報告

中間報告から
 日韓共同干潟調査団ハマグリプロジェクトチームでは、ハマグリ類(Meretrix spp.)の生物学的・文化人類学的な調査を通して、日本や韓国の干潟環境や食文化の現状や問題点を探っています。日本のハマグリ(Meretrix lusoria)は干潟環境の荒廃によって著しく減少し、現在は絶滅危惧種の仲間入りをしています。今日も日本人は大量のハマグリを食用として消費していますが、その殆どは中国大陸・朝鮮半島から輸入されているシナハマグリ(M. petechialis)です。  このような状況の中で、我々は現在、ハマグリ・シナハマグリの生息分布・漁労・流通を中心に調査を行なっています。2003年4月〜8月までの期間に、国内では宮城・福岡・佐賀・熊本・大分・沖縄での調査を行ないました。唐津湾・有明海筑後川河口・八代海沿岸でハマグリの生息が確認されましたが、これらの産地はこれまで明確に知られていなっかたものです。沖縄県西表島トゥドゥマリ浜には小型のハマグリが生息しています。これはタイワンハマグリの1型と考えられてきましたが、チョウセンハマグリ(M. lamarckii)の1型であることが明かになりました。4月22日〜5月7日にかけては、韓国の南海岸・西海岸を調査しました。ハマグリは南海岸の釜山〜康津に分布し、シナハマグリは西海岸の務安郡以北に分布することが確認されました。朝鮮半島でのハマグリ・シナハマグリの生息分布域が日本人によって詳細に調査されたのは初めてです。韓国南海岸のハマグリ個体群は局所的に分断され規模も小さく、絶滅の危機が高まっています。西海岸のセマングム地域では干拓工事により、韓国最大のシナハマグリ生息地が消滅の危機に瀕しています。

結果・成果

完了報告から
*日本での生息分布状況:文献・Web・現地調査によって、国内での生息分布状況は、かなり明らかになりました。宮城県・福岡県・大分県・熊本県・沖縄県の各地で現地調査を行い、詳細な情報が収集されました。このうち、福岡県筑後川河口、熊本県白川・大野川・氷川河口での生息情報は特に重要です。熊本県本渡市本渡干潟では過去に比して、ハマグリが大きく減少傾向にあることが分かりました。熊本市緑川河口ではシナハマグリの生息が確認されましたが、これは移入個体群の存在確認記録として重要です。沖縄県西表島トゥドゥマリ浜に生息するチョウセンハマグリ近似種(トゥドゥマリハマグリ)は琉球列島唯一の現存するハマグリ個体群であり、リゾート開発の影響により絶滅が危惧されます。調査を通して、日本のハマグリ類は、比較的多くの場所に個体群が残っていることが判明しましたが、いずれの個体群も規模が小さく、また漁獲圧や開発の影響によって個体群の存続は危機的な状況にあると考えられました。幼貝の漁獲や過剰な漁獲が成されている場所もあるため、漁業資源として持続可能な利用をするためには、生物学的な視点からの個体群・資源管理が必要であると指摘されます。 *韓国での生息分布状況:韓国の南海岸では、釜山・巨済・泗川・南海・光陽・康津でハマグリを確認しましたが、生息が確認されたのは釜山・泗川・康津のみであり、韓国南海岸でも日本と同様にハマグリは絶滅の危機に瀕していると考えられました。康津は韓国南海岸におけるハマグリ生息地の西限であると考えられます。韓国の西南岸、珍島・木浦・務安郡などにはハマグリ類は現在は分布しておらず、務安郡でハマグリ類の古い殻が確認されました。韓国西南岸のこれらの地域はハマグリ属の分布空白地になっています。靈光郡以北の韓国西岸黄海沿岸にはシナハマグリが生息しています。韓国のハマグリ属の生息分布状況が、本研究によって非常に明確に把握されました。これは極めて重要な業績であります。 *韓国セマングム地域での調査活動:韓国のセマングム地域では約4万haと言う広大な干拓工事が進行中です。2003年6月に、ついに潮受け堤防の北側半分が締め切られました。セマングム地域は、韓国最大のシナハマグリ産地ですが、急激な環境変化と底生生物への影響が懸念されるため、7月に緊急に調査を行ないました。聞き取り調査の結果では、セマングム地域では今も150隻程度の漁船がシナハマグリ漁を行っていますが、北側海域ではシナハマグリが成長しなくなったために、現在では潮受け堤防が閉じていない南側の海域で漁を行っているとのことでした。しかし、南側の海域でも全体的に貝殻が目立つようになったと言うことだったので、やはり貝類の死滅がすでに始まっているものと思われました。ここでは、網の目のサイズを大きなものに変えるなど、貝の獲りすぎを抑えるための自主規制を始めたとの話も聞きました。9月には追跡調査を行ないました。セマングム干拓予定地内の3地点の干潟で干潮時の塩分を調べたところ、17-30‰程度の値が得られ、まだ海生生物が生息できるレベルの塩分であることを確認しました。底生生物の定量調査においても、昨年同様の個体密度を維持していることが確認されました。また、界火地区において、干潟でのクゥレ(漁具名)を使ったハマグリ漁の状況を調査しました。 *ハマグリ類の殻形態の比較研究:2003年9月までに採集した韓国産ハマグリ類標本について、殻高・殻長・殻幅などを計測して、個体成長に伴うプロポーションの変化および各地域個体群間の形態変異などを解析しています。これまでのところ、韓国西南部カンジン産ハマグリ類について、目で見ると「ハマグリ」と「シナハマグリ」の2つの形態タイプに分けることができるものの、計測値を比較するとカンジン産ハマグリ類はすべてサッチョン産ハマグリと同様のプロポーションを示し、ペクス産シナハマグリとは異なることが明らかになりました。 *生態系保全への取り組み:次項(4)に示したように、様々な機会において、ハマグリの危機的な状況と、生態系保全についてアピールを行なってきました。

その他/備考

対外的な発表実績、今後の展望
2003年8月2日:シンポジウム「周防灘讃 in 中津 ――干潟保全と貝類学の役割」(山口貝類研究談話会2003年度大会、大分県中津市) 口頭発表・講演資料集への寄稿:「中津干潟の貝類相とその社会的価値」(山下) 9月1日:日本湿地ネットワーク機関誌「JAWAN通信」に本年7月に実施したセマングム緊急調査の結果報告記事を寄稿(佐藤) 9月14日:公開シンポジウム「浦内川の自然と人々の暮らし」(浦内川流域研究会主催、沖縄県 竹富町西表島浦内) 口頭発表:「貝が語る浦内川」(山下) 11月8日:ワークショップ「ハマグリの文化誌からみた干潟の現在」(生き物文化誌学会 鳥羽大会、三重県鳥羽市)コーディネーター=池口 報告:「ハマグリ恐慌:ハマグリの生物学と現代社会」(山下)、「国境なきハマグリ流通―日本の食習慣を支える海外産地と畜養―」(山本)、「韓国におけるハマグリ漁労」(長田) 11月15日:公開シンポジウム「西表リゾート開発問題を考える」(「西表の未来を創る会・東京」主催、東京都港区明治学院大学) 口頭発表:「西表島浦内川流域の貝類相」(山下) シンポジウム資料集「西表リゾート開発問題を考える」への寄稿:「西表島浦内川流域の貝類相」(山下・名和純) 12月1日:韓国環境運動連合(KFEM)の機関紙に寄稿(佐藤・長田・水間) 12月15日:沖縄県竹富町西表島浦内川河口・トゥドゥマリ浜のハマグリを含む貝類調査結果が「西表島リゾート開発差止訴訟」のホームページで公開される(山下) http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2032/new_019.html 12月:沖縄県竹富町西表島トゥドゥマリ浜のハマグリと生息地の写真をWebで公開(水間) http://jp.y42.photos.yahoo.co.jp/bc/todomari_photo/lst?.dir 2004年1月25日:公開シンポジウム「干潟の自然,その過去と現在」(日本古生物学会例会,熊本県御所浦町) シンポジウムの企画・主催:佐藤 口頭発表・要旨集への寄稿:佐藤・山下 1月29日:インターネット新聞JANJANに西表島トゥドゥマリ浜のハマグリの保全に関する報告を発表(山下) http://www.janjan.jp/special/0401/040126554/1.php  今後も主に以下の研究を継続していきます。生息分布調査(化石を含む)、分類学的検討(ハマグリ類の殻形態の比較研究、DNAの解析)、漁業・市場統計調査、漁労活動の調査、流通構造の調査、ハマグリ標本・文献のデータベース作成。これらの知見を統合し、ハマグリから見えてくる現代社会のあり方を検討し、食文化・流通構造の見直し、生態系保全への取り組みを行ないます。7月には、これまでの研究結果をまとめた「ハマグリレポート 2004」を出版する予定です。

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