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森林の治水機能の向上による「緑のダム」効果―吉野川流域における治水ダム(可動堰)への代替案としての森林整備―



グループ名 特定非営利活動法人 吉野川みんなの会
代表者氏名 姫野 雅義 さん
URL http://www.daiju.ne.jp/
助成金額 100万円

研究の概要


吉野川流域の森林の65%を占めるスギ、ヒノキの人工林を広葉樹林などに転換し、豊かな森の保水力を利用して洪水を防ぐ「緑のダム」をめざし、日本で初めての本格的な研究をおこないます。

中間報告

中間報告から
1.モデル調査区における流域調査 2002年6月〜12月 1)雨水の土壌浸透能調査では、現在10ヶ所の選定と、10ヶ所の調査を終えました(昨年度19ヶ所について実施済)。 2)土壌貯水力調査では、12ヶ所48地点での調査を終えました。 3)地形、地質調査では、国土数値情報、地質図のデジタルデータを取得しました。  これを11ヶ所のダム流域単位で整理を終えました。 4)植生調査は、間伐の程度及び間伐後の下生え植生の動態を調べるため、現在16ヶ所での調査を終えました。 2.集水域調査  吉野川全体のデータベース作成 (11ヶ所のダムに対応する流域) 2002年6月〜2003年2月 1)自然林(広葉樹林、アカマツ林)、人工林(スギ、ヒノキ)の面積やその率、齢級の時系列的な変遷(1970、1980、1990、2000年)をまとめました。 2)人工林の間伐実施率を各県単位で把握し、現時点の間伐率を推定し、これを間伐率のデータとしてまとめました。 3)1985年以降の土地利用形態の変遷については、人工衛星ランドサットTMデータを利用して、植生データを取得・解析しました。 4)流域の雨量、ダムの流出、流入、水位データについて国土交通省以外に四国電力、住友共同電力が管理しているものについて取得しました(しかし、一部欠測があります)。  これらのデータの生データを業者に委託してまとめました。 2002年6月◎第3回川辺川ダム住民討論集会で「球磨川・川辺川ダム流域における緑のダム構想」提案。  これを機に国交省側と市民団体側の森林のもつ治水機能についての論争がはじまりました。 2002年11月◎水郷水都全国会議長野大町大会「緑のダム」分科会をみんなの会が担当。 2003年5月◎国土交通省青山事務次官が「固定堰より可動堰が安全なのは自明」と発言。  「可動堰は選択肢から排除する用意がある」という飯泉徳島県知事の発言に対して。

結果・成果

完了報告から
〜2002年度調査結果〜 モデル調査区における流域調査 1)吉野川の最上流域に位置する、名頃ダム、穴内川ダム、大森川ダム、大橋ダムの4集水域及びその周辺をモデル調査区とし、人工林及び自然林19ヶ所で土壌浸透能、12ヶ所で土壌孔隙率や最大容水量を調査した結果、人工林に比べ自然林の雨水浸透能が平均で2.5倍でした。 2)人工林において、間伐の程度や間伐後の年数が異なる林分における下層植生(広葉樹、草本類)の調査から、適切な間伐(間伐率40%)を行うと、1年後、林床は広葉樹や草本類でほぼ80〜100%覆われ、5〜6年で下層木層(樹高2〜3m)を形成し、針広複層林となることが判明しました。 集水域調査区 吉野川流域全体のデータベース作成 1)吉野川の上流から下流域に至る河川流量測定点のうち、選定された11ヶ所において、過去数十年間の主な洪水発生年を含む10年間分の河川流入出量を取得し、データベース化しました。  その際、それぞれの集水域の降水量も同様にデータファイル化しました。 2)河川流量測定点に対応する集水域の地形、地質を把握するとともに、過去数十年間の土地利用形態、森林植生別面積、人工林の林齢構成とその面積比率、間伐の状況などの情報を定量的に整理し、これらを集水域における河川流量に影響を及ぼす要因として集水域データとしてファイル化しました。  この結果、吉野川流域の森林植生が1960年代〜1970年代にかけて広葉樹林から針葉樹林(人工林)に転換し、1980年代に現在の比率(人工林:広葉樹林、2:1)に至っており、人工林の林齢が弱齢から壮齢に移行している事が明らかとなりました。  この事は、吉野川流域の多くの人工林が間伐時期(林齢25〜45年)を迎えている事を示唆しています。  「緑のダム」計画の経済的評価  緑のダム案と可動堰案の費用効果分析を行ないました。  評価方法としては、森林簿から吉野川流域森林について樹種ごとの面積を求め、間伐不実施面積も推定しました。  伐期60年の一般的施業の収支をスギ、ヒノキ人工林について求めました。  その際、木材価格、施業費は四国各県の平均値、その他経費は林家の聞き取りから得た値を用いました。  緑のダム案では、間伐、枝打ちを1回づつ多く行ない、立木密度を600(本/ha)程度にすると想定し同様に収支を求めました。  次に緑のダム案による減益を全流域単位で求め、可動堰コストと比較しました。  その結果として以下の事が明らかになりました。  緑のダム案に伴う減益は、1haあたりスギ172万円、ヒノキ20万円でした。  間伐不十分な森林を間伐した場合、60年間で681億円必要であった。  一方、可動堰建設費用は950億円、年間維持費は9.6億円必要であるため、可動堰コストは60年あたり1,526億円と推定され、緑のダム案の方が低かったのです。 〜2003年度計画〜 モデル調査区における流域調査と流域全体のデータベース作成 1)2002年度は、吉野川最上流域の4集水域をモデル調査区として、人工林と自然林について、【1】雨水土壌浸透能調査【2】土壌中の雨水貯留能調査【3】植生、地形、地質の調査をおこないました。  今年度は、間伐手入れがよくおこなわれている人工林と行われていない人工林について上記の各調査をおこないます。 2)2002年度には、【1】吉野川のおもな流量測定点11カ所における過去の河川流量と雨量データ【2】地形、地質、土地利用形態、森林植生状況など集水域の河川流量に影響を及ぼす要因のデータ をそれぞれ収集し集水域データ情報としてファイル化しました。  今年度はこれをタンクモデルで解析するための加工データファイルとして整備します。 混交林化による洪水ピーク流量予測と可動堰計画に替わる代替案作成 1)上記のデータに基づき、植生の変遷とタンクモデルの係数値との間の相関関係を解析し、人工林の混交林化によるタンクモデルの係数変化を予測し、全流域の複合タンクモデルを決定します。  このタンクモデルを用いて、森林整備により150年に1度の洪水に対応出来ること(緑のダム効果)を明らかにします。 2)緑のダムのもつ経済効果や地域振興効果の評価をおこない、人工林の整備に必要な施策を具体化し、可動堰計画に替わる「緑のダム」計画という代替案を作成します。

その他/備考

<strong>対外的な発表実績</strong>
2001年12月 第4回吉野川流域ビジョン21委員会吉野川上流域で行った土壌浸透能調査結果について、浸透能平均値は、広葉樹林が人工林の2.5倍。 2001年12月 毎日新聞(徳島版)他同上 2002年8月 吉野川流域ビジョン21委員会  研究中間報告書(1)発表吉野川流域における針葉樹人工林と自然林の土壌浸透能の比較  発行部数300部 2002年11月 水郷水都全国会議長野大町大会「緑のダム」分科会を担当。  洪水流量と「緑のダム」の洪水抑制機能についての調査報告、森林保全と林業経済などについて議論。 2002年10月 第6回吉野川流域ビジョン21委員会「緑のダム」計画の経済的評価(緑のダム案と可動堰案の費用効果の比較)。 2003年2月 吉野川流域ビジョン21委員会 研究中間報告書(2)作成「緑のダム計画」の経済的評価 今後の展望  徳島市民による住民投票によって可動堰計画は白紙となったが、国交省はなお事業の必要性を訴えています。  このため住民たちは、可動堰への反対運動にとどまるのではなく、みずから吉野川の将来像を考え、流域住民の立場から科学的な代替案をつくろうと、2000年当会を設立しました。  本研究は住民たちが自前で研究資金を集めながら、専門家との共同作業で、我が国の河川計画上未知のテーマに取り組む意欲的なプロジェクトです。  その成果は可動堰に代わる住民案として提案し、吉野川の河川整備計画に反映させるよう関係行政機関に働きかけます。  同時に、新たな国土保全のための森林整備事業として、その担い手である中山間地域の構造的な活性化をはかるための強力な根拠ともなります。  川辺川ダム建設計画の問題では、一斉拡大造林が最も進められた昭和40年代以前の森林の状況に戻れば、現在の河床、堤防のままでも80年に一度の洪水を流せることが、市民グループと研究者の調査でわかりました。  また、手入れのされていない人工林が、適正な間伐と針広混交林化によって20年後には当時の森林が再現できると予測しています。  本研究テーマである「緑のダム」の効果が定量的に把握できれば、全国の河川計画に豊かな森づくりという新たなテーマが導入され、営々とコンクリートで固めてきた日本の河川行政の大転換が始まるでしょう。

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