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現代カンボジアにおける農村開発と稲作の変容─「食糧の安全保障」に着目して─



グループ名 2009年度完了報告[pdf18kb]
2009年度完了報告[pdf18kb]
代表者氏名 秋保 さやか さん
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助成金額 30万円

研究の概要

2008年12月の助成申込書から
 近年、洪水や旱魃などの自然的状況、また内戦や社会的混乱等の農業を取り巻く危機的状況から、国際機関を中心に「食糧の安全保障」に関する議論が活発に行われている。自然環境の変化に左右されない安定した食糧確保のため、政府や援助機関は、1960年代の「緑の革命」に代表されるような「改良された」農業科学技術の導入を試みている。本研究でとり上げる「SRI農法(System of Rice Intensification)」も「第2の緑の革命」と呼ばれ、現在世界15カ国で広く普及されている農法である。  これらの農業開発計画は、収穫高の向上により、人々の食糧維持に関する危機的状況(飢え)を解決する一方、「緑の革命」のように、「化学農薬の投入や灌漑設備費が必要であること」、「労働形態の変容」等、負の側面が明らかになることがある。それは、これらの計画が、主に科学者や役人、NGOによって作り出されるものであり、そこに住む人々の「生活の場」から乖離していることが由来している。「実際その技術を農民がどのように使うのか」、「その技術がどのように社会を変革するのか」という点について、開発援助の場の詳細な研究が必要なのである。そして、このような現地調査に基づく詳細な研究によってのみ、「科学者や役人らの食糧の安全保障」ではなく、「現地の人々にとっての食糧の安全保障」を理解することが可能となり、それが市民の生存のための農業技術の理解につながると考える。  そこで、近年水不足によるコメの収穫高減少と化学肥料による環境汚染が問題視されるカンボジアにおいて、急速に普及している有機農法を中心とした「SRI農法」の事例を取り上げる。そしてそれが市民の生活に及ぼす社会・経済的影響を、NGOプロジェクトと農民組合活動の長期調査により、明らかにしたいと考えた。

中間報告


(下記の完了報告にまとめて記載されています)

結果・成果

2010年6月の完了報告から
 近年カンボジアでは水不足によるコメの収穫高減少と化学肥料による環境汚染が問題視されるようになり、有機農法を中心としたSRI農法(System of Rice Intensification)が急速に普及した。このNGOを中心に盛り上がりを見せたSRI農法普及の動きが、「緑の革命」のような村落内の格差を生み出したり、負の要素をもたらす可能性はあるのか、社会に暮らす人々の生活レベルからその影響を分析したいと考えた。  王立プノンペン大学や地方行政機関の協力のもと、タカエウ州トラムコック郡ジェントン地区の農村に住みこみながら、研修ならびに調査を行った。具体的にはNGO団体や農民組織が催す集会や勉強会に参加し農法のメリット、デメリットを農民と学ぶと共に、農家をまわりSRI農法を採用しているかどうか、採用してから生活がどのように変化したかなどをインタビューを行った。  調査を通し分かってきたことは、SRI農法を採用し実践する農家がこの1、2年で減少しているということである。その背景には、SRI農法が慣行農法と違う点が多く実践するのが困難であるということ、また最も大きな要因として手間がかかるにも関わらず、NGOによるコメの買取価格が1kgあたり100R(1$=4200R 2010年5月時点)と言うごくわずかな額差しかないという買取に関する問題点があった。「化学肥料の怖さや環境を守る大切さは理解しているが、手間がかかるし割に合わない」という声を農家から多く聞くことができた。またNGOによる買取の際、支払いが遅れたり買取日の約束を守らないこともSRI農法離れの原因となっていた。このSRI農法離れが、これまでの化学肥料を大量に使う農業に逆戻りすることを意味するかというと、そうではない。SRI農法を学ぶことが「化学肥料使用の健康被害や環境への悪影響」を考える機会となり、「化学肥料を使う量を減らし、有機肥料を多く使うようになった」という声も聞かれた。 研修、調査からタカエウ州の村社会において2001年からはじまったSRI農法の普及が盛り上がりを見せていたが、現在それが変化の局面にあることがわかった。「コメの増産」が達成されたという点だけに着目すれば、SRI農法の普及は「成功」と言えるだろう。しかし、農民にとってコメを生産すること、それを家庭で食し、コメを売り収入を得る、といったことは相互に結びついているという点を普及の時点であまり考慮されていなかったといえる。生産の問題のみならず、それを市場に乗せ収入を得る、という農業を実践する彼らの「生活」への理解があれば、SRI農法が現地社会に適応し、有機米生産の持続につながっただろう。 またSRI農法普及に関連し、その中心にあった農民組織がNGOに対し抵抗の運動を起こし、新たな農協を設立した。この動きは、内戦後の援助漬けの状況にあったカンボジア農民が、SRI農法普及ならびに農民組織活動を通じ村や州を越えたネットワークを築き、開発の主体としての地位を確立したことの現われと解釈できる。

その他/備考


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