バン・トクシックス!(Ban Toxics!)【フィリピン】 |
高木基金助成報告集Vol.7掲載 完了報告(概要)[PDF1.25MB] 高木基金助成報告集Vol.7掲載 完了報告(概要)[PDF1.25MB] |
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リチャード・グティエレス さん | ||
30万円 |
金採掘の現場
不純物を取り除く作業
フィリピンでもっとも水銀を使用・排出しているのは小規模金採掘(ASGM: artisanal and small-scale gold mining)の現場です。環境天然資源省によるとASGMからの排出量は年間70トンといいますが、実際には200〜500トンと見積もる専門家もいます。一方で、ASGMで生計を立てている家族は10万〜30万戸あり、その多くが貧困層のため、単に水銀の使用を規制するだけでは問題解決になりません。
本調査研究では、3カ所のASGMコミュニティにおいて、労働者およびその家族が参加する形で水・土壌サンプルの取得を実施し、水銀による環境・健康影響の分析を行います。その調査結果に基づいて対象コミュニティにおける水銀汚染の現状把握を行います。
将来的には、コミュニティの住民自身が科学的なモニタリング調査を行うことによって、水銀汚染への理解を深めることを目指すほか、貧困問題が根底にあるASGMにおける水銀問題の解決に向けて国レベルでの働きかけを実施する予定です。調査実施期間は、2009年10月〜2010年4月。
途上国などで行われている小規模な金採鉱(ASGM)は、開発がもたらす複雑な問題を示している。ASGMは、多くの貧困層の人々の生計手段となっており、その年間生産量も大きい。その一方で、特に鉱石から金を取り出す際に水銀を使うことから、水銀の最大排出源として知られており、環境・社会・人々の健康に深刻な影響をもたらしている。
現在UNEP(国連環境計画)は、水銀のリスクを国際的に削減するための「水銀条約」を2013年の採択を目指して策定中であるが、この条約の中でもASGMにおける水銀使用の将来的な廃止を目指して、削減方法などが議論されている。
フィリピンのASGM からの水銀排出量は年間70トンとされ、2006年の国連報告では、フィリピンのASGM 労働者からWHO(世界保健機関)の基準値の50 倍の水銀が検出されている。現在、フィリピン政府はUNEP の支援のもと、ASGM に関する国家戦略計画を策定しており、この取り組みを補完するため、バン・トクシックスは、高木仁三郎市民科学基金などから支援を得て、ASGM における貿易や水銀使用・排出の現状、金の採掘・生産方法、水銀汚染が人の健康や環境に与える影響に焦点を当てて、実態調査(魚、土壌、水質、大気のサンプル調査)を行った。さらに本調査では、ASGM の労働者やその家族などに水銀汚染調査への参加を促し、ASGM コミュニティの人々の水銀汚染に対する認識を深めるとともに、金採鉱の現場で人々が水銀を使用せざるを得ない社会的背景の理解を試みた。
ASGM で使用される水銀のほとんどは先進国から輸出されるものである。EU および米国はすでに水銀輸出の禁止に踏み切ったが、日本はいまだに水銀含有製品などから回収された余剰水銀を年間約100トン輸出している。水銀条約では、水銀供給を絶つための輸出禁止も大きなテーマのひとつとなっている。
本調査では、以下の結論が得られた。
・フィリピンの水銀汚染は拡大しており、水銀の環境への排出を食い止めるためには、緊急かつ抜本的な取り組みが必須。近年では、水銀を使用しないASGM 技術として、シアン化合物の使用が増加していることも懸案事項である。
・フィリピンのASGM を取り巻く複雑な問題解決に決定打はない。効果的な介入を行うには、ASGM コミュニティのニーズや発展のための目標に対する理解を深める必要がある。
・様々な制約がある中で、ASGM を適正化し、管理体制を築くためには、以下のような戦略やメカニズムあるいは潜在的な解決手段を考慮する必要がある。
1.水銀の採掘を停止し、国際的な水銀供給の流れを絶つ
2.全てのセクターでの水銀および水銀化合物の貿易及び使用の禁止
3.ASGM に対する以下の技術支援の実施
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∈侶,里燭瓩両規模な鉱物インベントリーの作成
州や市の鉱業管理当局による「民衆の小規模金採鉱地域」の特定
た絛笋鮖藩僂靴覆ざ眞蟒亠蚕僂魍領するための金鉱石の特性研究
4.ASGM に対する運転資本や信用供与、適切な採鉱装備の提供
5.ASGM の労働者に対する搾取をなくすためのASGM の正式団体の組織化および強化
6.ASGM を適法化するため、鉱業に関する一貫性のある国家政策の策定と規制や事務手続きの緩和化
7.地域レベルの鉱業規制局の強化
8.鉱山労働者や家族、コミュニティに対する水銀の毒性に対する意識向上
*当団体は昨年度「廃棄水銀の最終保管をフィリピンで行う場合:最終保管施設運用リスクと国や自治体に求める政策の把握」というテーマで高木基金から40万円の調査研究助成を受けています。