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砂浜の消失が何をもたらすか?ウミガメが教える砂浜の自然の役割



グループ名 研究成果発表会配布資料[pdf]
研究成果発表会配布資料[pdf]
代表者氏名 田中 雄二 さん
URL http://www.omotehama.net/content/
助成金額 40万円

タートルトラック(ウミガメの足跡)を計測する様子

ブロックの隙間をぬって何とか切り抜けて砂浜の奥まで上陸したが、帰海の際にブロックに行く手を阻まれたタートルトラック

タートル・トラックを追跡することで、海岸での人工構造物による障害や負荷量を視覚化し、砂浜の環境を知ることができる。

研究の概要

2013年12月の助成申込書から
 私たちは、本州中部、愛知県の渥美半島に位置する開放的な砂浜海岸の表浜で、アカウミガメの産卵生態に関する調査を続けている。調査内容は、本種の産卵すべてに関わる事で、上陸地点や産卵場所のポジショニング、胚発生、そして、GPSを用いたタートルトラックの追跡である。調査の過程で、ウミガメの産卵が、浜に設置されたブロック消波堤によってしばしば妨げられている様子を確認した。そこで、私たちは、調査結果を基に、海岸行政に対して改善案を積極的に提案してきた。  北太平洋に分布するアカウミガメにとって日本の砂浜は唯一の産卵地なので、表浜は同種の生存にとってとりわけ重要な場所である。私たちは、良好な砂浜環境を後世に残して行くにはどうしたら良いか模索してきたが、もっとも良い方法は、ウミガメを環境指標種として利用することだということを考えた。  海岸構造物は、しばしば沿岸漂砂の様相を変え、それによって浜と浅海域の間の自然の連続性を損なうことがある。これまで、沿岸開発によって砂浜生態系がダメージを被ってきたが、今、私たちがすべきことは、他の砂浜生物と同様、ウミガメの生息地の自然について深く考えることである。そこで、本研究では、表浜の広域にわたってタートルトラックを取得し、併せて、砂中温度、地形、上陸地点の水質、生物分布などを調べ、ウミガメの産卵生態と砂浜環境との関連性を検討するための基本的なデータを収集することを目的とする。

中間報告

2014年10月の中間報告から
 遠州灘海岸の豊橋市エリアでは、2014年には、5月25日からアカウミガメの産卵上陸が始まり、8月25日を最後に67カ所の上陸を記録しました。この数は通年の3分の1程度です。  しかし、今年度の産卵成功率は高く、今年の砂浜環境が多少良好であったことが要因と考えられます。今期の砂浜は、調査エリア約11kmのうちの西側約9kmは、比較的砂が堆積傾向にあり(消波ブロックが剥き出した状況ではなかった)、ブロック障害が抑制されました。しかし、東部の海岸線は、前浜の消失(消波ブロックの位置までほとんど砂浜がない状況)により、アカウミガメが上陸することさえ困難な場所も目立ちました。  今期の上陸産卵の特徴は、例年とは異なる地点で上陸が集中したことです。砂浜が50〜60m奥まで続き、植生帯がしっかりした健全な砂浜への上陸が減少し、やや砂浜が狭く、人気の多い場所への上陸が増加しました。2013年まで集中していた自然再生事業のエコ・コースト事業地への上陸が著しく減少したため、この点においては、調査の必要性を感じます。  アカウミガメの上陸地点の変化は、明確な理由があるわけではありません。陸側の何らかの環境変化、海流、沖合いの環境変化など、様々な要因によるものと思われます。今後の海岸環境における自然共生社会を確立するためにも、さらに調査を拡げ進めたいと考えています。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
私たちが調査をしている表浜海岸のような開放型の広域な砂浜の場合、ウミガメの上陸場所には、年度ごとに傾向や偏りが生じています。詳細は不明ですが、さまざまな要因によってアカウミガメが産卵場を選択しているように見受けられます。この選択行動を記録することは、アカウミガメの生態を知る情報として重要であるとともに、砂浜環境の状況と変化を研究する上でも貴重なデータです。2014 年度の上陸数は昨年よりも減少傾向となりました。最近の研究では、アカウミガメは2〜3年ほどの間隔で、産卵へ向けての体力などを整えると考えられています。今期の減少は2012年の増加に対しての減少とも思われ、周期の範疇である可能性が高いです。  また、アカウミガメが産卵のために砂浜に上陸してから海に戻るまでの行動をGPS 機器で記録したデータを蓄積し、分析しています。具体的には、アカウミガメが重い身体を引きずって動くことで砂浜に残された軌跡(タートル・トラック)に沿って、調査者がGPS 機器を使用しながら一定の速度でゆっくり追跡することでGPSデータとして記録します。ウミガメの行動を指標化するには移動距離は重要となります。そのため、タートル・トラックを大まかに上陸・横移動・海に戻る帰海の3つに分類します。正常ならば海岸線に垂直に行き来する距離だけです。しかし、何らかの障害をウミガメが受けた場合、その障害を避ける為に横の移動が生じます。2014年度はこの移動距離が比較的に小さく、砂浜が堆積傾向で障害物となる波消しブロックを砂が覆っていた結果でもあると考えられます。  砂浜の砂中温度は、アカウミガメのふ化にもっとも顕著に影響を与えると考えられます。そのため、発生環境の指標として現在は砂中温度の計測を行っています。2014年度は、日照時間が短く、降雨による砂浜の水分過多から、全体的に低温傾向となりました。本来は孵化率を孵化調査から求め、砂中温度との検証をすべきですが、今期は産卵巣の移植が多発したことと、食害の多発のために、検証するまでのサンプル数が確保できなかったことは残念でした。  調査環境として、昨今は保護活動としての産卵巣の移植が盛んに行われるようになり、調査の障害となっています。長年の取り組みとして、無闇な移植は保護を逸脱することにも成り得るとして注意を喚起しています。移植の弊害として食害を誘発している可能性もあり、今後の課題でもあります。

その他/備考


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