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潮受け堤防開門による諫早湾調整池への塩水再導入がアオコの発生および底生生物群集に及ぼす影響



グループ名 諫早湾アオコ研究チーム 研究成果発表会配布資料[pdf]
研究成果発表会配布資料[pdf]
代表者氏名 梅原 亮 さん
URL
助成金額 70万円

(写真1)夏季の調整池内の様子

(写真2)北部排水門における観測

(写真3)調整池における生物採集

調整池における調査風景。透明度板を用いた透明度の測定。

調整池から諫早湾へのポンプを用いた排水。アオコを含む排水により、 海面が緑色に染まっている。

研究の概要

2012年12月の助成申込書から
 有明海西岸に位置する諫早湾は、約3,000haの広大な泥質干潟を有し、多様な生物が豊富に棲息する生物生産性に富んだ場所であった。しかしながら、1997年4月の国営諫早湾干拓事業に伴う潮受堤防の締切り後、その干潟およびすぐ沖合の浅場は、農地(約640ha)および淡水化した調整池(約2,600ha)となった。近年、調整池では、春から秋にかけて有毒性のアオコが大発生している。このアオコは有毒物質(ミクロシスチン:肝臓に対してきわめて高い毒性を有する。)を生産する種であり、世界各地でこの毒による事故の報告が繰り返されてきた。これまでの研究成果より、有毒アオコによって産生されたミクロシスチンが調整池の堆積物や魚類(ボラ)へ高濃度に蓄積され、調整池からの排水と共に諫早湾へ流出し、諫早湾および有明海奥部の海底の堆積物に堆積し、潮受け堤防近傍の海岸の二枚貝(カキ)には人体に危険なレベルにまで高濃度に蓄積していることがわかっている。  2010年12月6日、諫早湾干拓事業をめぐる裁判で、福岡高裁は国側に、判決から3年以内に排水門を常時開放することを命じた。そのため、2013年12月までに、潮受け堤防に建設された排水門が開門され、調整池内に海水が再導入されるため、池の塩分上昇による有毒アオコの消失が期待される。開門による環境および生態系の回復過程をモニタリングすることで、潮受け堤防の建設が、湾の環境、生態系、および人間社会に与える深刻な影響ついて社会に訴える。

中間報告

2013年10月の中間報告から
 九州有明海西岸に位置する諫早湾は、1997年4月の国営諫早湾干拓事業に伴う潮受堤防の建設によって閉め切られ、近年、堤防内側の調整池では、水質悪化や有毒アオコの発生が報告されてきました。しかしながら、2010年12月6日の福岡高裁の判決により、2013年12月20日から5年間の排水門の常時開放が決定しているため、海水の再導入に伴う池内の水質の回復、塩分上昇に伴う有毒アオコの消失、および本来あるべき汽水域の生物相に近づくことが期待されています。  2013年度においても、夏季に有毒アオコの大発生(写真1)が確認され、5日間隔の北部排水門における水質観測(写真2)の結果から、8月8日に有毒アオコの細胞数が最も増加したことがわかりました(約1.6×106個/mL)。この有毒アオコを含む調整池の水は、現在も頻繁に諫早湾へ排出されています。また、2011年度から調整池内4地点において毎月実施している底生生物の定量調査(写真3)の結果から、調整池の底には、ユスリカの幼虫、イトミミズ、およびドロクダムシだけがわずかに棲息していることがわかっています(約3g/m²)。  12月の開門に向けて、開門前のデータを着実に得ており、開門後は、これらのデータを用いて環境の回復過程をいち早く公表することで、再び門が閉まることがないよう、有毒アオコ発生の危険性および諫早湾の本来あるべき生態系を保つことの重要性について社会に訴えていきたいと思います。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
 諫早湾干拓調整池では、近年、水質悪化に伴う有毒アオコの発生が繰り返されています。池内で発生した有毒アオコは、ミクロシスチンという非常に毒性の強い物質を産生する種類を含んでいます。また、これらの有毒アオコは、調整池からの排水門を通した排水とともに諫早湾へ流出しています。  2008〜2014年の約6年間にわたる観測により、調整池の水質および底質環境が明らかとなりました。調整池の水質は、年間を通して極めて透明度が低く、低塩分であり、流入する一級河川の本明川から供給される豊富な栄養塩を利用して、有毒アオコが毎年春季〜秋季に大発生しており、2010年8月25日には、WHOの飲料水基準の約15倍高いミクロシスチン濃度を検出しました(14.8μg/L)。また、諫早湾への流出により、有明海奥部にまで広域に拡散し、堆積物に蓄積していました。ミクロシスチンは、調整池および諫早湾に棲息する水生生物にも蓄積しており、調整池のボラの肝臓(2.4μg/gWW)(*)や諫早湾の潮受け堤防付近のマガキ(0.45μg/gWW)からは非常に高い含量が検出されました。  今後、排水門の常時開門に伴い調整池内へ海水が再導入されれば、池内では塩分の上昇により有毒アオコの発生がなくなり、環境中に蓄積した毒素は、徐々に希釈または分解され、危険性から解放されると考えられます。池内では、淡水性のアオコではなく、汽水性の植物プランクトンが増え、諫早湾から移入してくる貝、ゴカイ、エビ・カニなどの底生生物がそれらを利用することで、本来諫早湾の干潟が持つ、高い生物生産能力および水質浄化作用が回復するにつれ、湾全体が豊かな漁場に再生することが期待されます。 (*) gWW:湿重量。

その他/備考


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