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川の傍に生きるということ -川辺川ダム建設反対運動の経験から-



グループ名 研究成果発表会配布資料[pdf]
代表者氏名 森 明香 さん
URL
助成金額 36万円

2013年4月、脱基本高水治水研究会フィールド調査。2012年度から撤去が進む球磨川の荒瀬ダムの堰堤にて。(後列左端が森さん)

研究の概要

2012年12月の助成申込書から
 本調査研究では、熊本県南部の球磨川流域を取り上げて、2つのことを行いたい。1つは、川の傍で生きる中で培われてきた自然観がいかなるものかを明らかにすることである。いま1つは、球磨川水系最大支流である川辺川に計画されたダム建設に反対する流域の人びとが、そうした自然観を共有しながら、どのような経験を通じそれらにどのような意味づけを行って、ダムによらない治水総合対策を提案するに至ったのかについて、明らかにすることである。  川辺川ダム計画は2009年政権交代選挙の民主党マニフェストで中止対象として名指しされたダム計画だが、中止への道筋は政権交代以前から流域を中心とした粘り強い反対運動によって、つけられていた。川辺川ダムはもともと多目的ダムであり、流域の大水害をきかっけに1966年に策定されたが、2012年12月現在、川辺川ダム反対運動の担い手らが独自調査に基づいてつくりあげた総合治水対策で示した案を盛り込みながら、ダムによらない河川整備計画が策定されつつある。興味深いのは、治水の専門家である河川工学者にも「検討に値する」と言わしめた総合治水対策を、専門家の手を借りずに独自の調査に基づいてつくりあげた点である。しかし、川辺川ダム反対の流域住民らが総合治水対策をつくりあげるに至ったのは、それまでの川辺川ダム反対運動の経験やそれがもたらした知見による。また、川の傍で生きてきた生活実感という素地も大きく作用しているように思われる。  冒頭の2つを明らかにすることは、想定外の自然災害には効力を発揮しない従来の防災策に替わる実現可能な防災策について、考えることでもある。現代の生活に則した川の傍で生きる思想・方法の一案を、この調査研究を通じて、提示したい。

中間報告

2013年10月の中間報告から
 3年連続の水害後、「下流のために我慢してくれ」と事業者から水没予定地住民は説得されたというが、当の下流では「ダムの放流が水害を引き起こした」と怒りの声が上がっていた─。  川辺川ダム建設計画とは1966年に計画発表された治水ダム(後に多目的ダム)で、流域住民の反対運動を背景に、2013年現在実質中止となっている計画です。川辺川ダム“最大受益地”とされる流域郡市でのダム反対運動が全国的に知られるようになったのは90年代以降ですが、ダム“最大受益地”とされる流域郡市では、元来、大規模ダムや連続堤防のような近代治水技術とは相容れないとさえいいうる、洪水に伴う水害を減じつつ川の恩恵を受け得る「災害文化」を有していました。この素地がゆえに、90年代以降反対運動を顕在化させた水害体験者から成るダム反対住民団体は、反対運動の経験を通して、独自の水害対策案を作成し、提言することができました。本調査では、私が10年近く流域に通い続けて気付いたこれらのことを、浸水想定の激甚な区域の住民とダムに反対し清流を守る流域住民団体に対する聞き取り等を通して、立証したいと考えています。  ダム治水が球磨川では相容れないと住民らが見抜いたのは、流域社会の洪水・水害経験でした。感覚的にダム治水の弊害を知っていた流域住民から成る住民団体が、ダムではない、流域の総合水害対策を政策提言するに至るのは、以下の二点に拠ります。それは、川辺川ダム反対運動の中で積み重ねた自然地理学的なフィールドと理論との学習をしたことと、事業者や学識者との討論を通して治水のための既存の概念が実態とかけ離れていることを具体的に認識したことです。  夏までの調査(2週間にわたる現地調査、複数の大学図書館所蔵史資料の訪問閲覧や取り寄せ閲覧等)でこのような見取り図が描けるのではという見通しを抱くに至りました。秋以降は、この見通しを検証しつつ史資料や聞き取りデータを渉猟し、分厚い記述を目指します。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
 本研修では、次の二つの作業に取り組みました。一つは『自然の営みを重視した総合治水対策』に至るまでの運動史の分析です。これは、2008年に、ダムサイトの相良村と“受益地”の人吉市ならびに熊本県がダムの白紙撤回を求めたことを受けて、同年度より開催されている「ダムによらない治水を検討する場」への意見書として、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」が主となって作成したものです。『総合治水対策』には、流域住民がどのような川を望みそれを実現するためにどのような水害対策が必要なのかについて、これまでの治水に対する評価と流域の水害の現状を具体的に示しながら、平易な言葉で表現されています。10年前から流域に通う私が初めて『総合治水対策』を読んだとき、その地に根差した住民運動が形成してきた、川と人との関わりに関する思想の、一つの到達点が示されているように思われました。  もう一つの作業として、球磨川の河川改修が行われる前より住み続ける古老や60 代以上の人びとに、遊びや炊事など暮らしの中の川の姿や洪水時の川の様子や浸水したときの具体的な対応等といった経験を通事的に聞くことで、流域で緩やかに共有されている川認識を把握したいと思いました。  本研修を通じて、球磨川流域の水害常襲地における川辺川ダム反対の論理が、川の傍に代々生き続けてきた人びとの生活実感に基づく認識にかなうものであること、ダム反対運動を経験して、他者にも伝達可能なかたちへと体系化させてきたことがわかりました。さらに、その思想は、明治時代に端を発し、戦後徹底されてきた川を破壊する河川管理の在り方にまで、射程を広げて進化し続けていることも理解できました。  今後は、川の傍で生き続けてきた人びとにとって、近代以降の河川管理の技術や概念は、いかなるものであり、何を変える必要があるのかについて、川という自然がもたらす災害を減じながらも恵みを享受し続けて来た人びとの経験と思想形成とに学び、提言をしていきたいと思います。

その他/備考


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