高木基金について助成応募の方法これまでの助成研究・研修高木基金の取り組みご支援のお願い

これまでの助成研究・研修

トップページ  > これまでの助成研究・研修 > 助成事例の詳細


個人の被曝量を特定できるストロンチウム90の測定法の確立および乳歯保存・測定のためのラボ建設



グループ名 乳歯保存ネットワーク 研究成果発表会配布資料[pdf]
代表者氏名 松井 英介 さん
URL http://pdn311.town-web.net/
助成金額 80万円

乳歯の保存を呼びかけるチラシと記録カード。測定には0.5gの乳歯が必要。前歯ならば4 本程度、奥歯ならば1〜2本程度

測定器LB4200。16検体同時計測が可能なため、年間500名ほどの乳歯が測定できる予定

研究の概要

2016年12月の助成申込書から

・ 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故は、莫大な量の人工核分裂生成物を環境中に放出した。ストロンチウム90もその一つであり、カルシウムと類似の挙動をとり、骨や歯牙組織に入るため長期間体内から排出されずに白血病等の発症のリスクを高める可能性がある。

・ ストロンチウム90は、1950年代から大気圏内核実験やチェルノブイリ原発事故の際には国内でも観測体制がとられていた。しかし、残念なことに日本政府や福島県「県民健康調査」検討委員会では、今回の事故が国内の至近で発生した重大な事故にもかかわらず、系統的なモニタリングは一切行っていない。

・ このような現状のもと、私たちは、比較的容易に手に入る乳歯に着目して、ストロンチウム90の測定を「当面」の目標に活動を計画している。

・ この目標を遂行するため、(1)福島県を中心に乳歯収集のネットワークを確立する。(2)スイスで行われている比較的簡便なシュウ酸塩法によるストロンチウム90測定法に改良を加え、個人の被曝量の特定ができる程度まで高度な測定法を確立する。(3)その上で測定所を開設する。

・ 私たちの活動成果は、ベータ線の被ばくの実態を明らかにし、生体影響について科学的に言及できる第一歩として期待できる。

日本における放射性降下物90Sr量と日本人乳歯の90Sr量(1957-1967年)。第19回放射能調査研究抄録集(文部科学省)10(環境放射能データベース25)を改編。南太平洋での核実験で放出された放射性物質の降下量に比例して、乳歯中のSr90の蓄積量が高くなっていた

中間報告

2017年10月の中間報告から
 2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故は、莫大な量の人工核分裂生成物を環境中に放出しました。ストロンチウム90もその一つであり、カルシウムと類似の挙動をとり、骨や歯牙組織に入るため長期間体内から排出されずに白血病等の発症のリスクを高める可能性があります。  ストロンチウム90は、1950年代から大気圏内核実験やチェルノブイリ原発事故の際には国内でも観測体制がとられていました。しかし、残念なことに日本政府や福島県「県民健康調査」検討委員会では、今回の事故が国内の至近で発生した重大な事故にもかかわらず、ストロンチウム90の系統的なモニタリングは一切行っていません。  このような現状のもと、私たちは、比較的容易に手に入る乳歯に着目して、ストロンチウム90の測定を当面の目標に活動を計画しています。  この一年、乳歯保存ネットワークの目的を実現するために、乳歯の保存を呼びかける活動や、測定方法の確立、ラボ実現へ向けての資金の確立に取り組んできました。放射線の基礎知識連続講座や内部被ばくをテーマとしたドキュメンタリー映画「太陽が落ちた日」(ドメーニグ・アヤ監督)上映会を市民グループと一緒に企画して行い、乳歯保存ネットワークの主旨や目的を訴えてきました。  測定方法では、バーゼル州立研究所の測定法を基に、私たちの測定法を確立するため、同研究所での研修内容に基づき測定実習を行っています。測定の信頼性を高めるために、測定時の誤差を知り、前処理からβ核種の測定まで一通り出来るように整備していきたいと考えています。なお、測定手順は下記としています。 ・全国の全脱落乳歯を対象とする。 ・収集する乳歯は、提供者(本人および保護者)から、脱落乳歯本人の名前、年齢、住所( 生誕・生育地・3.11当時)、抜歯部位などを記入した記録カードとともに提供を受ける。 ・提供者へは預かり証を渡す。 ・提供を受けた乳歯は、暗号化、厳重に保管し、個人情報を守る。 ・測定結果などを分析・研究に用いるときは、承諾を受ける。 ラボ実現へ向けての資金の確立に向けては、約一年近く議論を続け、非営利未来型の「株式会社はは」を設立しました。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
 乳歯保存ネットワークは設立以来、全国から乳歯を数百本収集してきました。乳歯のストロンチウム(Sr)90 を測定することにより、体内被曝の程度が確認できます。2017年度の主な成果は以下の2点です。 1.測定所の開設  岐阜市茜部本郷に測定所を設立できることとなりました。この測定所では乳歯からの微弱なβ線を測定できる低バックグラウンドβ線測定器だけでなく、Sr90の測定に必要な化学処理もできる設備を整えることとしました。2017年12月に、重量のあるβ線測定器用の床補強をはじめとする建物の改装を終了し、2018年2月に米国ミリオンテクノロジーズ・キャンベラ社製LB4200型低バックグラウンドα/β線測定器の据え付けが完了しました。現在、特性試験を行っています。化学処理設備も入手が完了しました。 2.シュウ酸塩法の検証と改良  乳歯中のSr90はきわめて微量であるため、バックグラウンドに比べて有意な測定を行うためには、測定器のバックグラウンドが低いことと、乳歯中のSr90をいかに無駄なく測定試料にできるかがともに重要です。  第1の条件は、市販の装置で最もバックグラウンドの低い(0.45cpm以下)前記の測定器を選択することでクリアできます。第2の条件について、シュウ酸塩法の是非とさらにそれを改良する方法を検討しました。  Sr90 は2 回のβ崩壊をしてジルコニウム90となって安定しますが、セシウム137 などと異なりその間、一切、γ線を放出しません。β線放出核種はエネルギースペクトルで核種を分別することができないため、化学的に同位体を分離した上で測定試料を作成する必要があります。Sr90は半減期約29年ですが、1度目の崩壊後のイットリウム(Y)90 が半減期64日であるため、放射平衡状態になります。したがって、Sr90、Y90のいずれかに分けた上でβ線測定試料を作成しますが、通常β線最大エネルギーの高い(2.28 MeV)Y90を使って測定します。  従来は、王水や発煙硝酸などを使う方法が主に用いられてきましたが、私たちはより安全性の高い塩酸とシュウ酸を使うスイスバーゼル州立研究所が乳歯を測定するのに用いる方法を基本にしました。ただ、若干ではありますが放射性のバックグラウンド核種が混じりこむ可能性があるため、さらに最終沈殿の純度を高めるための試行中です。  あわせて、上記の一連の方法でY の回収率の確認の実験をくりかえし行っているところです。現在のところ最初に添加したYのうち50%強が最終沈殿の中に含まれる程度です。Sr90の測定精度を上げるためには、この数値はできるだけ高いことが望ましいため、沈殿生成時のpHや温度などを調整して70%以上にまで高めたいと考えています。

その他/備考


HOME助成応募の方法これまでの助成研究・研修高木基金の取り組みご支援のお願い高木基金について
ENGLISHサイトマップお問い合わせ 個人情報の取り扱い