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韓国・新コリ5,6号機公論化委員会をめぐる脱原発団体の対応に関する研究



グループ名
代表者氏名 高野 聡 さん
URL
助成金額 50万円

2017年9月9日、新コリ原発5、6号機建設予定地のウルサンで開催された脱原発集会の様子(高野撮影)

2018年2月20日にFFTV「韓国における原発「公論化」プロセスとは?熟議民主主義を求めて」ゲスト講師として出演(https://www.youtube.com/watch?v=AB0RZ7QVE4Eより視聴可能)

ソウルで開かれた新コリ公論化に関する書籍出版記念討論会の様子(2019年3月5日)

ソウルで開かれた「脱原発運動シーズン2ワークショップ」の様子(2019年1月23日)

研究の概要

2017年12月の助成申込書から
 本研究で「韓国・新コリ5、6号機公論化委員会をめぐる脱原発団体の対応に関する研究」と題した報告書を作成する。研究対象は2017年7月から10月まで3ヶ月間運営された新コリ5、6号機公論化委員会と、その委員会の審議に参加した脱原発団体の対応と戦略についてだ。ムン・ジェイン政権は、建設中だった新コリ5、6号機の建設続行の是非をめぐり、公論化委員会を結成した。公論化委員会は、 選抜された一般市民が建設賛成・反対相互の専門家の意見を聞き、熟慮した上で、その是非を判断するという公論調査を実施した。これは、公共政策に関して、幅広い利害関係者の参画の下、深く議論を積み重ねた上で、政策決定を行ういわゆる熟議民主主義の実践だったといえる。  その間、 脱原発団体は建設反対の専門家として公論調査の審議過程に深く関与する立場を取った。脱原発団体は、委員会の公正さや審議進行の条件をめぐり、 内部で激しく議論しつつ、公論化委員会へ意見の提示も行った。また 公論化委員会終了後も、公論化委員会参加の是非、対応や戦略の妥当性、熟議民主主義の可能性と限界などに関する内部評価が継続中だ。当研究の目的は、公論化委員会をめぐる脱原発団体の対応と戦略を分析し、課題や示唆点を導出することだ。研究は文献調査や脱原発団体への深層インタビュー、参与観察を通じて行う予定だ。  当研究は日本の脱原発団体に与える示唆が大きいと考える。2012年8月に、日本でもエネルギーミックスに関する討論型世論調査が行われたが、脱原発団体はそれにあまり関与しなかったこともあり、熟議民主主義的な政策手法に対する理解や政策提言が不足している状態だといえる。韓国の脱原発団体が原発に関する熟議民主主義的な政策過程にどのような戦略をもって参加したのかについて深く理解することは、今後日本の脱原発団体が同様の立場に置かれた時の対応やあるべき戦略を考察する上で、大きな助けとなると考える。

中間報告

2018年10月の中間報告から
 本研究の対象は、韓国で2017年7月から10月まで3ヶ月間運営された新コリ原発5、6号機公論化委員会と、その委員会の審議に参加した脱原発団体の対応と戦略についてです。ムン・ジェイン(文在寅)政権は、建設中だった新コリ原発5、6号機の建設続行の是非をめぐり、「公論化委員会」を結成し、3ヶ月間の「市民参与型調査」を実施しました。市民参与型調査は、2012 年に日本の民主党政権で行われた討論型世論調査のように、情報提供を行い、十分に討論を重ねた上で市民の意見の推移を調査し、その結果を政策に反映するものです。これは、公共政策に関して、幅広い利害関係者の参画の下、深く議論を積み重ねた上で、政策決定を行ういわゆる熟議民主主義の実践だったといえます。  韓国の脱原発団体が資料集作成や討論過程に綿密に関与したこともこの調査の特徴です。公論化委員会開催中、建設中の新コリ原発5、6 号機の建設の中断・続行を巡り、激しい討論が行われました。約500 人の市民が選択した結論は建設続行でしたが、これまでの閉鎖的な政策決定過程に比べると、はるかに透明なものでした。  この市民参与型世論調査を体系的かつ学問的に分析し、日本に紹介するのがこの研究の目的です。アメリカの政治学者で熟議民主主義を専門とするジェイムズ・フィシュキン教授が提示した5 つの評価基準に基づいて、熟議がどれほど達成されたのかを評価します。現在は公論化委員会の報告書や脱原発団体の討論資料、学術論文を中心に文献調査を行っています。その成果の一部をまとめ、雑誌『現代思想』2018 年8 月号に「文在寅政権の脱原発政策の成果と課題」という寄稿文を発表しました。今後は脱原発活動家のインタビューを行う予定です。また韓国の学会での発表も検討中です。  韓国内でも評価が分かれ、脱原発団体内部の意見対立も激しい難しい問題ですが、韓国の脱原発団体が原発に関する熟議民主主義的な政策過程にどのような戦略をもって参加したのかについて深く理解することは、今後日本の脱原発団体が同様の立場に置かれた時の対応や、あるべき戦略を考察する上で、大きな助けとなると考えます。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
 文在寅政権は、建設中の新コリ原発5、6号機の中断の是非を巡り、社会的合意を形成する手段として、2017年7月?10月の3ヶ月間にわたり新コリ5、6号機公論化委員会による市民参与型調査を行いました。市民参与型調査とは2012年に日本で実施された討論型世論調査に韓国独自の要素を加味したものです。脱原発団体もネットワーク組織を結成し、建設反対の専門家としてこの調査に深く関わりました。調査の結果は6:4で建設再開が多数となり、これを受けて文政権は建設再開を決定しました。一方、将来の方向性については過半数が原発縮小と答え、また、学習度に比例して原発縮小の意見が増えていくという結果も出ました。熟議民主主義の実践と評価されるこの政策が、実際、熟議の質が高かったのかを検証するのが本研究の目的です。研究の手法として、文献調査、関連イベントや討論会への参与観察、調査に参加した脱原発活動家へのインタビューから構成される定性研究を行いました。  インタビューでは、熟議民主主義に対する委員の理解不足、合宿討論において専門家によるディベートを採用するなど討論型世論調査とは違った過度な専門家の関与による混乱、原発推進派と反対派の間の資本やマンパワーの差、原発推進に偏ったメディアなどの問題が明らかになりました。また新コリ公論化に関する書籍出版記念討論会では、脱原発団体が倫理性や原発立地地域の苦悩ではなく経済中心に議論したことや、ネットワーク内部の意思決定に民主性を欠いていたことが問題視されました。また原発推進、反対双方の専門家の情報だけが提供され、政府が情報の信頼性を担保しなかった構造的問題も指摘されました。  結局、委員の能力不足、熟議の制度設計の不備、メディアの偏向報道、経済論理偏重の議論、信頼性のある情報提供の不足、それに脱原発団体の経験不足や戦略の失敗などにより熟議の質はあまり高くなかったと私は結論付けました。  それらの問題を提起した寄稿文を執筆し、日本の雑誌『現代思想』(青土社、2018 年8 月号)と『世界』(岩波書店、2019年1月号)に掲載されました。  今後の展望としては日本の討論型世論調査と比較することで、よりよい公論化のための制度設計を研究したいと考えています。また韓国の脱原発団体は、対応の問題点はあったとはいえ、どのように公論化プロセスに関与すればよいのか経験を深めました。その経験や教訓を日本の市民団体も共有し、学べるような連帯プログラムもできればと考えています。

その他/備考


・高野聡「文在寅政権の脱原発政策の成果と課題」『現代思想』青土社、2018年8月号 ・高野聡「熟議民主主義めぐる韓国の実験??文在寅政権の脱原発公論化政策とメディア報道」『世界』岩波書店、2019年1月号

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