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タイにおけるバイオマス発電の住民生活への影響調査



グループ名 メコン・ウォッチ 研究成果発表会配布資料[pdf]
代表者氏名 木口 由香 さん
URL http://www.mekongwatch.org/
助成金額 30万円

用水路を遮断する形で製糖工場の建設が行われている

サトウキビ運搬のトラック。交通量と事故の増加が懸念されている

発電所煤煙。大気汚染が懸念されている。タイ公共放送 Thai PBSの報道(2015年)より

研究の概要

2017年12月の助成申込書から
 タイは世界第2位の砂糖輸出国である。近年同国では、化石燃料の代替として、サトウキビの搾りかすであるバガスなど、未利用バイオマスの有効活用をうたう事業が複数実施・計画されている。その一部は日本の政府助成金の対象となり、日本企業が事業に参画する例も見られる。  タイ政府は2011年に、砂糖生産の中心地であり、大規模サトウキビ・プランテーションの多い中部から、それらが少ない東北部でも製糖工場と併設するバイオマス発電所の建設を認める政策転換を行った。だが、東北部では集落至近でのプラント建設と、プランテーションの増加による生業への打撃が懸念され、一部の事業は地元住民の強い反対にあっている。今後、代替エネルギー分野においてもタイで日本企業の投資が増えることが予想されるが、関連情報のほぼ全てが現在タイ語で発信されているため、日本国内では地域住民の懸念や事業の環境影響が知られていないのが現状である。  本調査では、タイでのバガス利用のバイオマス発電所建設を事例に、事業が内在する地域の環境と住民生活への影響を明らかとする。また、事例から導き出された争点を整理し、原因となる政策等の背景状況を分析する。それらの情報をプランテーションの環境社会影響を監視する日本のNGOのネットワークや、企業の人権配慮を高める活動を行うグループと共有、情報発信を行い、企業への注意喚起につなげていく。

中間報告

2018年10月の中間報告から
 東南アジアのタイは世界第2位の砂糖の輸出国です。タイ政府は2011年から、これまでサトウキビのプランテーションの多い地域に限っていた製糖工場の建設要件を緩和しました。そこには、サトウキビ残滓のバガスを燃料とするバイオマス発電所が併設されます。これらの新規事業に対し、各地で住民から強い反対が起きています。  タイと日本の経済的な関係は深く、特に電源開発には官民が深く関与をしてきました。独立系発電事業者(IPP)の中で、日本企業は大きな割合を占めています。またタイ政府は、サトウキビ由来のエタノール増産を推奨し、廃棄物のバガスを利用する発電も増加するとみられ、日本企業のこの分野への関与も増えることが予想されます。しかし、環境保全のためのバイオマス発電が、地域住民の生活に負の影響を与えることは日本にほとんど伝わっていません。  これまで、現地での聞き取りやタイでの報道から、地域生活への影響を明らかにする調査を進めてきました。調査対象事例の影響住民は、発電所の規模が40メガワット以上と大規模なため、サトウキビ運搬による交通量の増大、発電所からの大気汚染を強く懸念しています。また工場周辺地域でのプランテーションの増加に伴う地域の有機農業への悪影響、農業・生活用水の枯渇への不安の声もあります。更に、事業に反対する住民は環境アセスメントの内容にも不備があると考えており、行政訴訟も起きています。現在、聞き取りのまとめの他、事業推進の背景となるタイのバイオマス発電政策等を分析中で、今後、論点を整理し、日本で伝えていく予定です。

結果・成果

完了報告・研究成果発表会資料より
 タイ東北部では、バイオマス発電を巡り企業と住民の対立が深刻となっています。しかし、その情報の多くはタイ語で発信され、日本では知られていません。タイの電力産業は日本の企業活動や投資と関係が深く、現場で起きている問題を日本に向けて紹介することで、特に企業に対し注意喚起ができないかと考えています。  本調査では、砂糖生産により発生するバガスを燃料とするバイオマス発電事業に注目し、事業に反対意見を持つ人たちを中心に聞き取りを行いました。また、現地の報道からバイオマス発電の既存の問題を集めるとともに、発電事業を推進する関連政策の文献調査も行いました。  タイ政府は、石油使用抑制のためサトウキビを原料にするバイオエタノール生産に加え、バイオ産業育成のための国家戦略等でサトウキビ増産を奨励しています。そこには、再生可能エネルギー振興策として、バガスを燃料とするバイオマス発電も増やす、という方向性も打ち出されていました。  農業廃棄物の有効利用と考えられているバイオマス発電ですが、タイでは発電所由来の健康被害が増えていることが多数報道されています。また、聞き取り調査によると住民は、(1)製糖工場による水質汚染、(2)発電所煤煙による大気汚染、(3)製糖工場と発電所の操業による水不足、(4)工場建設とサトウキビ農園増加による森の減少と土地利用の変化、(5)サトウキビ農園増加による農薬や除草剤の使用増、(6)サトウキビ運搬による交通量増加と事故の増加、といった点を強く懸念していました。  バガスによる発電は、未利用廃棄物の有効利用という面だけで単純に評価はできず、事業者・投資家は環境・社会面のリスクを十分確認し、事業実施を検討すべきだと考えられます。また、タイの製糖大手がミャンマーやカンボジアといった近隣国に進出し、現地住民との間で土地紛争や人権問題を引き起こしているという状況もあります。  サプライチェーンに問題のある砂糖が日本に輸入されている可能性もありますが、日本では生産地の実態はあまり知られていません。日本との繋がりが深いタイの砂糖生産の現場について、更に現状を知る必要があると考えています。  なお、本調査研究についてのレポートは、「東北タイにおけるバガス燃料バイオマス発電所建設事業の環境社会影響」(2019年3月28日) として、ウェブサイト に掲載しています。

その他/備考


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