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グアム政府による米軍基地環境汚染調査 ―沖縄県へのインプリケーション



グループ名
代表者氏名 山本 章子 さん
URL
助成金額 40万円

Ordot基地跡の位置

研究の概要

2018年12月の助成申込書から
 2018年11月、沖縄県の調査によって、在沖米軍基地周辺の河川や浄水場など計15地点で、発がん性の有機フッ素化合物が高濃度で検出された。米軍基地による環境汚染は長年認識されてきたが、沖縄県民の生活用水が汚染されている実態があらためて示された。だが、米軍は日米地位協定を理由に、「内部調査中」との回答を繰り返すだけで、沖縄県による基地内への立入調査に応じていない。沖縄県はこれまで、年一回の基地内への立入調査が認められてきたが、2015年の日米環境補足協定成立後は、協定に規定がないとして、それさえ米軍から拒否されている。  既存の政治や制度の中でしか動けない沖縄県に代わり、環境汚染調査の新たな可能性を見出すために、本調査研究は、グアム政府による米軍の枯れ葉剤汚染調査の詳細を明らかにし、沖縄県がなしうる環境調査の可能性を模索する。  グアムは州よりも権限の弱い「未編入領土」であり、かつ水道などのインフラを米軍基地に依存している。しかし、グアム政府は2018年1月以降、枯れ葉剤汚染の問題で米軍を提訴するために汚染調査を進めている。米国の中で最も弱い米領土であるグアムは、1972年まで米軍占領下にあった沖縄との共通性が多く、その汚染調査の手法は沖縄にとって示唆に富むものとなろう。  よって本調査研究では、グアム政府の環境汚染調査の全体像や特徴、独自性を解明することで、沖縄県に対して汚染調査のオルタナティブを提示する。

中間報告

2019年10月の中間報告から
 2018年11月、沖縄県の調査によって、在沖米軍基地周辺の河川や浄水場など計15地点で、発がん性の有機フッ素化合物が高濃度で検出されました。米軍基地による環境汚染は長年認識されてきましたが、沖縄県民の生活用水が汚染されている実態があらためて示されました。しかし、米軍は日米地位協定を理由に、「内部調査中」との回答を繰り返すだけで、沖縄県による基地内への立入調査に応じていません。既存の政治や制度の中でしか動けない沖縄県に代わり、環境汚染調査の新たな可能性を見出すために、本調査研究は、グアム政府による米軍の枯れ葉剤汚染調査の詳細を明らかにし、沖縄県がなしうる環境調査の可能性を模索したいと考えています。  現在は、グアム政府が米海軍および米連邦政府に対して起こした訴訟の詳細を調べています。グアムは州よりも権限の弱い「未編入領土」であり、かつ水道などのインフラを米軍基地に依存しています。この訴訟は2017年3月にグアム政府が起こしたもので、海軍を相手取り、返還された海軍基地跡地の環境汚染の責任を認めて、浄化費用を支払うように求めています。  Ordot基地は第二次世界大戦以前、グアムが米国領でありながら住民に市民権を与えられていない海軍軍政時代に建設され、廃棄物の投棄場所として使われました。基地の返還は1950 年でしたが、返還後もDDTやエージェント・オレンジなどの有害物質の投棄場所とされ、2011年の閉鎖まで土壌汚染への対策がとられないまま使用されました。  その間、Ordotの汚染物質は周辺のLonfit川に流出し、太平洋にも流れ込みました。米環境保護庁(EPA) は1980年代からOrdotの問題を把握しており、グアム政府に対して2004年、汚染浄化作業を行うので浄化費用を負担するよう命じます。グアム政府は同年、費用負担には同意しないものの、浄化作業自体には同意します。2013年に浄化作業が開始されると、浄化費用は4年間で2億ドルを超えました。EPA からあらためて費用負担を命じられたグアム政府は2017年、訴訟に踏み切ったのでした。  2018年10月、米地裁は連邦政府に対して、グアム政府が負担した基地跡地の浄化費用のうち、1億6000万ドルの支払いを命じます。グアム政府が2004年の段階で、浄化費用の負担に同意していなかったことがその理由です。

結果・成果

完了報告から
 本調査では、グアム政府が米海軍・連邦政府を相手に訴えた、米軍基地の原状回復費用に関する訴訟の詳細を調べました。同訴訟は2017年3月にグアム政府がおこしたもので、返還された海軍基地跡地の環境汚染の責任を認めて浄化費用を支払うように求めたものです。  Ordot基地は第二次世界大戦以前、グアムが米国領でありながら住民に市民権が与えられない海軍軍政時代に建設され、廃棄物の投棄場所とされました。基地の返還は1950年ですが、返還後もDDTやエージェント・オレンジなどの有害物質が投棄され、2011年の閉鎖まで土壌汚染対策がとられないまま使用されました。Ordotの汚染物質は周辺のLondit川に流出し、太平洋にも流れ込みました。  米環境保護庁(EPA)は2004年、Ordotの汚染浄化作業の費用を負担するようグアム政府に命じました。グアム政府は同年、費用負担には同意しないものの浄化作業には同意しました。2013年の作業開始後、浄化費用は4年間で2億ドル超で、EPAからあらためて費用負担を命じられたグアム政府は、2017年に訴訟にふみきりました。  2018年10月、米地裁はグアム政府が負担した基地跡地の浄化費用のうち、1億6000万ドルの支払いを連邦政府に命じました。グアム政府が2004年時に、浄化費用負担に同意しなかったことを理由としたものです。しかし、2020年2月、連邦政府の責任は2007年に失効したとして、控訴審でグアム政府の訴えが棄却されました。  これは、米国内で米軍による環境汚染の原状回復負担を自治体が負わされている事実を示しています。実はドイツでも、NATO 軍基地の環境汚染の原状回復費用は連邦政府ではなく自治体が負担し、両者の対立を生んできました。沖縄地元紙は「米国では連邦政府が環境汚染に責任を持つ」と論じていますが、事実ではないことが分かりました。  これまで、米軍基地が引き起こす環境汚染の問題は、米国と米軍駐留国との間の対立という構図から論じられてきました。そのため、他国と比べて日本の地位協定は不利だという議論になる傾向が強かったのですが、本調査では、グアム政府と連邦政府との対立に着目することで、政府と自治体との間にも深刻な対立が存在することが明らかになりました。ドイツの事例と重ね合わせると、米軍基地の環境汚染をめぐる政府vs自治体の構図は一層明確になります。軍隊やその存在を支える安全保障政策は、政府の管轄であるにもかかわらず、米国やドイツの政府は、基地による環境汚染に責任をとることに消極的であり、基地のある自治体とその住民がそのつけを払わされているのが現状だといえます。基地の環境汚染の問題を考える際には、地位協定の規定などをめぐる、米国―駐留国の対立に加えて、費用負担をめぐる政府―自治体の対立も考察しなければならないのです。

その他/備考


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