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中山間地域における生活用水の変遷─水道未普及地域における飲料水供給施設の持続的な管理・運営手法の検討



グループ名
代表者氏名 境 翔悟 さん
URL
助成金額 25万円

水俣市の水道普及率の推移(熊本県の水道より筆者作成)。1963 〜 1970 年、1982 年はデータなし

研究の概要

2019年12月の助成申込書から
 日本の水道普及率は約98%と非常に高い水準に達している。一方、山間部の農村には水道未普及地区が未だ多く残っており、人々は小規模水道である飲料水供給施設及び井戸などの自己水を利用することにより生活している。  飲料水供給施設とは、給水人口100人以下の小規模な水道で、集落や個人単位で管理運営されている。飲料水供給施設は水道法上の水道事業ではないため、法の適用外となっている。集落レベルでの維持管理が行われているため、施設や水質の管理が問題視され、上水道や簡易水道と比較して健康被害の発生率が高いことがわかっている(山田ほか, 2008)。  水道未普及地区の解消は一つの課題とされているが、飲料水供給施設をはじめとする小規模水道は山間部に点在するため、水道の敷設(近隣水道事業との統合)は採算が取れず難しいのが現状である。そこて゛、本研究では水俣市を対象とし、市内全52の飲料水供給施設へのアンケート調査、集落水道の管理作業の参与観察と聞き取り調査を行う。収集した情報とGIS上での地形分析の結果をもとに、人々による意味づけと地形的特徴の観点から生活用水及び集落水道の変遷を分析する。

中間報告

中間報告から
 本研究では、水道法の適用外となる給水人口100人以下の小規模水道がどのように住民によって維持管理され、なぜ今も使われ続けているのかを明らかにするための調査を、熊本県水俣市を対象に進めてきました。その背景には、地方のより一層の高齢化・過疎化が進む今日において、小規模水道の運営のあり方に関する議論が進んでいない上に、維持管理の実態や使用継続の意思決定要因が明らかになっていない現状があります。  新型コロナウイルス感染拡大の影響で予定していた調査が行えなかったこともあり、4〜8月はこれまでの調査で得られた資料の整理や文献調査を中心に進めてきました。そこから明らかになったことは、水道未普及地域の問題を考える上で、この小規模水道が非常に重要な鍵になっているという点です。水俣市における上水道の給水人口は配水管の拡張、増設を経て緩やかに増加してきましたが、人口減少から1980年代を境に減少に転じます。しかしながら1970年代以降の水俣市の水道普及率はほぼ横ばいに推移しており、1割程度が水道未普及となっています。これには簡易水道の廃止(水道事業としての廃止)が影響しており、1976年に18箇所あった簡易水道は、1986年には9箇所、現在は2箇所まで減っています。上水道に統合された簡易水道がある一方、給水人口が減少したために、水道事業を廃止し、水道法適用外の水道として利用が継続され、水道事業の数字には現れない中山間地域の生活用水システム、飲料水供給施設として、今も機能していることが明らかになりました。  以上を踏まえ、9月には選定集落の水道の維持管理作業の調査と、水道組合を対象としたアンケート調査の実施を行いました。7月の記録的な豪雨の際に、断水してしまった水道を専門業者に頼ることなく翌日には通水するまで修理を完了させるといった「災害からの回復力」など、調査を通じて得られた新しい発見もありました。  なお、新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言発出のため、2020年5月に予定していた現地調査を中止しました。また、2020年9月に予定していた現地調査は、計画を変更し、対面での聞き取り調査を行わず、維持管理作業の調査も住民とは時間をずらして行いました。そのため、公共交通機関での移動ではなくレンタカーを用いることにしました。

結果・成果

2021年5月の完了報告から
日本の水道普及率は約98%と非常に高い水準に達している一方で、中山間部の水道未普及地域では住民によって管理運営されている水道法適用外の小規模水道によって生活用水を利用している地域が存在する。その小規模水道は、上水道や簡易水道と比較して健康被害の発生率が高いことや維持管理作業の負担増大、後継者不足、施設の老朽化など多くの問題が指摘されているにも関わらず、既往研究の数が限られておりその実態は明らかとなっていない。そのため本研究では、小規模水道の維持管理の現状と現在も使われ続けている要因を明らかにすることによって、持続可能な小規模水道のあり方を提示することを目的とした。 これまでの制度および政策の整理・検討の結果、水道法適用外の水道に対する国の統一的見解及び法規制が示されておらず、地域条件を加味した政策形成や社会的に持続可能な手法の検討がされてこなかったことがわかった。そこで、水道法適用外の水道である飲料水供給施設が多く残る熊本県水俣市を調査対象地として、文献資料の分析、行政へのヒアリング、住民への聞き取り調査、水道組合へのアンケート調査を行うこととした。 その結果、中山間地域では「自家取水」から「小規模水道」、そして「公営水道」と生活用水が変遷していくプロセスが明らかとなり、現在の水道未普及地域では、住民による小規模水道の維持管理を持続できている(ポジティブな)場合や、公営水道への統合または行政への管理運営の移管が困難である(ネガティブな)場合に、小規模水道が残り続けていることがわかった。小規模水道の管理運営の継続に関しては、集落への愛着や水道水の農業用水への転用の有無が影響を与えていることが示唆された。一方で、維持管理作業の負担の大きい組合で必ずしも管理運営意思が弱くなっているわけではないことが示された。生活誌の手法からは、運営主体である水道組合が、地縁組織の1つとして機能しており、トラブルに対するレジリエンスを持っていることがわかった。 小規模水道の管理運営については、維持管理作業が集落の生活や農業などと結びついた地縁組織として機能していることが重要であり、住民が自分たちで管理を継続することの重要性を認識していることが重要といえる。また、小規模水道の問題は、学際的な問題であるために、学問間および行政、教育機関が連携しながら研究を深めていく必要がある。

その他/備考


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