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「高経年化(技術)評価報告書」の詳細な批判的検討



グループ名 原発老朽化問題研究会
代表者氏名 湯浅 欽史 さん
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助成金額 100万円

研究の概要


中間報告

中間報告から
(1)定例的な研究会の開催  毎回十名余りの参加者を得て、以下のように、定例的な会合を6回開いてきました。  (4/12、5/17、6/21、7/26、8/22、10/3)  熱心な議論が続くので、2時間の予定が3時間をこえることもしばしばでした。  計画的に進められている課題(下記参照)を中心にして、時に発生する事故・故障の時事的報道についても、その発生経過や原因など技術的な問題点を検討してきました。後者に属することでは、例えば、再循環系配管の渦電流探傷試験の精度問題(試験データから亀裂が読み取れなかった)や浜岡5号炉におけるタービン動翼の破損問題(乱流による高サイクル振動を避ける設計となっていなかった)などが上げられます。 (2)古い原発が準拠した基準類  老朽化した原発の諸症状を吟味するにあたって、古い原発がどのような技術基準に従って製作されてきたのかを知っておく必要があります。とくに、告示501号(1980)決定以前の約25機の原発については、原発毎に様々であろうと思われます。  そこで、技術基準に係る法体系、技術基準の変遷/ASMEとの対比、機器構造別の規格基準体系、を時系列に並べて比較検討しました。次に、各原発機器のメーカー・適用法規等一覧表を作るためのフォーマットを検討しました。このデータ資料は「高経年化評価報告書を批判的に検討するためのベースとなります。将来的には全ての原発を対象にするとしても、当面、古い原発である福島第1原発1号炉と敦賀原発1号炉を例に、作業を進めることにしました。 (3)金属学会での発表  沸騰水型原子炉圧力容器材の異常照射脆化に関する研究内容を、新潟大学で開催される金属学会において発表するために、当研究会でその内容を検討しました。(発表は井野博満・上澤千尋・伊東良徳の3名で、9月18日に行なわれました)。 (4)浜岡裁判への寄与  当研究会会員である田中三彦、井野博満が浜岡原発の運転差し止め訴訟で証言することの要請を原告側および代理人から受けましたので、証言内容を討議し、各証人の陳述書の準備作業に協力しました。二人が証人として陳述した公判は静岡地裁で9月8日に行なわれました。

結果・成果

完了報告から
【1】06年度の活動 (1)活動  当研究会は原子力資料情報室の企画により、そのスタッフに加えて、原発関連の設計技術者や原発訴訟に携わる弁護士の参加を得て、“現場”の緊迫感溢れる議論を03年から毎月続けてきている。高木基金から第2回/第3回の助成を得て、シュラウドの応力腐食割れ、圧力容器のアンダークラッドクラッキング(UCC)、加圧熱衝撃、炉心材料の中性子照射脆化、配管のエロージョン・コロージョンと減肉管理、などについて研究を重ねてきた。  それらの活動を基盤として他方では、柏崎刈羽原発・設置許可取消し訴訟と浜岡原発・運点差止訴訟への協力や、技術雑誌『金属』への原稿掲載、技術者集団である現代技術史研究会での発表、といった社会的貢献を果してきた。その成果をまとめてB5版115頁の冊子『老朽化する原発?技術を問う?』を05.3に刊行し、原子力長計策定委員全員に配布して、その席上で批判的意見を展開する根拠として役立てた。  一方、国はシュラウドや配管系でのひび割れ発覚を逆手にとって、基準に則った安全対策をとるのではなく、老朽化の実態を容認すべく維持基準を導入した(2003年に施行)。電力各社は原発の新規立地の困難に加え、電力自由化に直面して、老朽原発の寿命を延長して運転し続けなければ原発が経営を圧迫する事態になっている。国は、老朽原発の寿命を延長したい場合は、30年までおよびその後10年まで毎に「技術評価報告書」を提出することとした。  技術評価書を入手するとともに、そのための準備作業として建設時に依拠した技術基準について調査を開始した。これを一覧表にするべく、新たなソフトを購入、フォーマットを検討して作成した。内容の書き込みは今後の課題となっている。  他方、老朽化研究会で検討してきな内容を金属学会で発表した。また、裁判に対しては研究会活動を通しての協力に加えて、メンバーの井野博満、田中三彦の両氏が原告側証人として証言した。金属学会での発表内容を原子力資料情報室通信で公表するとともに、公開研究会を開催して発表した。 (2)老朽化問題の例示  これまでの研究および06年度の研究会活動を通じて浮かび上がってきた老朽化問題を例示すると以下のようになる。  応力腐食割れ(SCC):沸騰水型原発で懸念される炉内構造材料ステンレスのSCCは、三つの要因が重なって起ると言われてきた。すなわち、?腐食されやすい組成(材料因子)、?引張り応力の発生(応力因子)、?酸素イオンなどの存在(環境因子)、である。根本的解決を目指して70年代に低炭素鋼ステンレスが開発され(炭素0.08→0.02%)、SCCは克服されたかのようにみえた。それが再び90年代半ば以降、低炭素の新材料でもひび割れが頻発し始め、GE子会社のエンジニアの内部告発でシュラウドのひび割れ隠しが明るみに出た。新タイプのひび割れはグラインダーなどによる表面加工層を起点としている。国は、そのメカニズムが不明なままに、恣意的に作成された「SCC進展速度線図」でひび割れを見守りながら、運転を継続してよいとした。  福島第二3号炉・再循環系配管のひび割れ:東京電力は定検中にSCC対策実施予定の60個の継手について、05.3.9より超音波探傷検査を実施し、1個の継手の1個所に長さ17ミリ、深さ7.8ミリのひびを確認し、外径600ミリの当該配管を取り替えたという。現行の健全性評価制度ではそのひび割れがあっても5年間は継続使用してよいとされる配管だったのに、そこから切り出した試験片を06.1.23より断面調査したところ、1.30になって当初発見されたひび割れ以外に、溶接部裏波に沿って試験片の全長100ミリ(配管板厚38ミリ)にわたって断続する深さ5.4ミリのひび割れを確認した。老朽化の進行を検査で把握するのがいかに困難か、「ひび割れを発見できないことはひび割れが無いことを意味しない」ことの良き実例である。  加圧熱衝撃(PTS):不純物含有量が高く中性子照射を受けて靱性低下が進んだ原子炉圧力容器が、加圧状態で急激に冷却される過渡事象、例えば主蒸気配管の破断事故で1次冷却材の温度低下と安全注入系による再加圧などの事象を受けると、容器内面が低温で高引張り応力の状態にさらされることになり、そこに欠陥があれば、脆性亀裂が進展する(参照:「原子力プラントの経年変化と熱流動」、1999、原子力学会)。万一発生すれば環境にとって壊滅的な大事故となる。PTSは、加圧水型(PWR、315℃-150気圧)にとってきわめて厳しい事象であり、早急な対応が迫られていると思われる。  中性子照射脆化:金属は一般に低温では硬くなり、すべり変形が起りにくくなるが、ある温度以下では延性から脆性の破壊モードに移る。その温度を延性脆性遷移温度と呼ぶ。金属組織は中性子照射による損傷を受けると組織が不均質になり、材料として脆くなり、延性脆性遷移温度は上昇する。現行の脆化予測式では照射速度の影響を無視しており、実験室における急速照射速度(1012 n/cm2sオーダー)での試験結果を、炉心に設置しておいた低速照射速度(108 n/cm2sオーダー)のサーベイランス試験片に適用している。また、当初計画よりも寿命を延長すると、ある期間毎(柏崎刈羽では、1、4、12、32年と4回)に炉心から取出して試験し、照射脆化の進行を30年間監視する予定であった試験片の個数が足りなくなる、という困難を抱えている。 (3)今後の検討内容  準拠規準の整理:米国の技術基準ASMEは、SEC.?(1915)、SEC.?(1925)、SEC.?ドラフト(1961)、SEC.?(1963)、SEC.?大改定(1971)、その後は3年毎の改訂を経て今日に至っている。それを後追いする日本国の構造技術基準は、敦賀1号のMITI告示272号(1965)から始って、告示501号(1970)、新告示501号(1980)と変遷し、維持基準の導入によって告示501号は昨年末に廃止された。新告示に至るまでの老朽化する原発の設計が準拠してきた規準を詳細に特定し、老朽化する原発の技術検討に関するデータベースとする。なお、導入された維持基準は、SEC.XI(1971)に対応するものである。  ケーススタディー等:国の言う“高経年化”対策に関する報告書が、99年から04年にかけて、9炉の技術評価を終えていて、現在3炉が申請中である。その中からBWRとPWR各1炉を選び出して、詳細な批判的技術検討を加える。その結果をふまえ、評価済み12炉の報告書を共通のフォーマットに記載して相互比較し、問題点を抽出する。  世界的な原発老朽化とそれへの対応策について、USAへの現地調査を計画していたが、残念ながら実現できず、2007年度の当研究会の課題とした。 (4)検討結果の活用  経済性向上“3点セット”批判:電力業界は原発の経済性向上のために、米国の後を追い、定検期間短縮(3ヶ月→1ヶ月)、定検間隔延長(13ヶ月→18?24ヶ月)、出力増強(5?20%)を目論んでいる。事業者作成の報告書と経産省の技術評価の問題点を摘出し、経済性のために老朽化する原発の危険性が増えることを指摘する。  耐震指針見直しとの関連:老朽化した原発が大地震に遭遇する可能性がある。指針改訂の取りまとめが近いと思われるので、新耐震指針の適用に当って、既設の老朽化する原発の実態を反映させる運動に役立つように努める。  外部への発信:折にふれ「原子力資料情報室通信」に寄稿して原発老朽化の中身を広く読者に訴え、さらに研究成果を公刊して世に問う。また、原発訴訟や国会の委員会審議等にも反映させる。原発が危険な存在であることの根拠を技術的内容に踏み込んで明示していくことは、各地での脱原発運動の要請に当研究会が応えることになると確信する。 【2】研究会の活動経過  [#:データベース(高木基金)  *:時事的テーマ §:裁判等] 4/12 *ハフニウム制御棒の損傷 *F2-3再循環配管、UTで確認できず *志賀原発訴訟勝訴判決について  5/17 #原発設計の技術基準に係る法体系 #構造技術基準(告示)の変遷、ASMEとの対比 #機器構造関係規格基準体系の整理表フォーマット #告示とASMEにおける材料強度許容値の変遷 6/21 *BWR圧力容器材の異常脆化(金属学会、講演申し込み) #材料・基準・指針・経年劣化・事故歴、の記入シート案 *ハフニウム制御棒の損傷など 7/26 *浜岡・志賀のタービンブレード折損 *KK-1・3・4、再循環系配管のヒビ割れと交換計画 *PD(非破壊検査能力資格)制度、既従事者に“狭き門” §浜岡・証人尋問(9/8、田中+井野)の準備 8/22 §浜岡・証人尋問の準備・続 §新潟・金属学会発表(井野+伊東+上澤)準備:BWRの中性子脆化の速度依存 10/3 §新潟・金属学会発表の報告 §浜岡・証人尋問(9/8、田中+井野)の報告 *大間の火山問題 11/6 *釜山シンポ(10/24、田中)の報告 12/20 #原子炉各部位毎の経歴一覧表の作成について #原子炉毎の基本データ一覧表について §浜岡・証人尋問(新井・伯野+石橋)の報告 1/24 #“一覧表”のその後 *KK-5の継手ひび割れ発見と東電交渉 3/8 §浜岡裁判の反対尋問総括 *捏造・改竄・隠蔽、をめぐって *東洋町役場訪問の報告 4/18 *制御棒脱落_臨界事故について §入倉証人尋問の状況分析 #出版物の作成方針(続) 【3】研究会の活動成果  老朽化問題研究会での追及内容を金属学会で発表して議論を巻き起こした。学会発表内容を資料として添付する。  浜岡裁判への寄与については(活動経過の§印項を参照)、協同研究者である田中三彦、井野博満の証言を準備した。それと並行して、被告側証人・中沢博文(中電・スタッフ課長)と鈴木純也(中電・耐震設計担当)への反対尋問準備も課題とし、一定の成果を挙げることができた。井野氏の内容については、通信で取り上げるとともに公開研究会を開催して発表した。また、田中氏の内容は公開研究会を開催して発表した。  データベースの構築について、原発毎の基本データのおよびバウンダリー機器毎に準拠した技術基準類と大規模修理・事故の履歴などの一覧表を作成するためのフォーマットを試作した。

その他/備考


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