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我が国に於けるダムの堆砂進行速度を決定する要因と法則性の調査・研究



グループ名 完了報告書[pdf348]
完了報告書[pdf348]
完了報告書[pdf348]
完了報告書[pdf348]
代表者氏名 岡本 尚 さん
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助成金額 35万円

静岡市中田島砂丘の崩壊 浜北市議、ネットワーク「安全な水を子どもたちに」会員 内山賢治氏撮影

水窪ダム

堆砂サンプル

広渡ダム崩壊地

アオコ

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
【背景】  我が国では、ほとんどの主要河川にダムが建設されているが、当初予想もされなかった大量の堆砂のために、本来期待されていたダム機能が損なわれたり、河川の自然環境などに大きな影響を与えている。  従来、ダムの堆砂量は、類似地域の堆砂実績に、流入河川の流域面積を掛け合わせることで見積もられてきたが、ダム湖内で、どれだけの土砂が沈降し、ダム内に堆積するかは、ダムの容量と水の滞留の具合が無視できないと考え、独自に研究を行ってきた。 【経過】  特に堆砂の著しい50ダムについては既に分析していたが、今回の助成を受け、全国874のダムの中から、分析対象とする70ダムを改めて抽出し、これまで入手できていなかった実際の流入量のデータ(過去10年分)を国交省などから入手して、より精度の高い分析を行った。  また、特徴的なダム、12カ所の現地視察を行い、これまでの分析方法と結果の妥当性を検証した。 【成果】  ダムの容量と実際の流入量から算出した「水滞留率」(総貯水容量÷平均流量=ダムの総貯水量の水が入れ替わるのに要する日数)と、ダムの堆砂量(流域面積あたり)が比例することを予想したが、実際にはバラツキが大きかったので、さらに内容を分析した結果、ダムを次のような三つのグループに分けると、水滞留率と堆砂量に比例関係があることが確認できた。  1.流域面積あたりの流量が特に少なく、実際の堆砂速度が遅いダムのグループ  2.1と3の中間的なグループ  3.流域あたりの流量は普通だが、実際の堆砂速度が速いダムのグループ 【今後の展望】  国に対しては、どうしてもダム建設を行う場合には、ダムの総貯水容量や水滞留率を考慮して、今まで以上に正確な堆砂の見積もりを行うことを求めていく。  また、静岡県に対しては、太田川ダムの堆砂見積もりが大きく間違っている危険性を指摘し、計画の見直しを求めるとともに、利水の必要性がなく、治水の効果が乏しいこととあわせてダム建設中止を求めていく。  今後の調査研究としては、上記の1.(流域面積や年間降水量に比べて流量の少ない事例)について地域的降雨量と伏流水の両面から検討を行うなどして、ダム堆砂についてさらに深く追及したい。

中間報告

中間報告から
 筆者らは既に94年度に辛うじて入手できた堆砂率20%以上のTOP50ダムについて理論的解析を行い、ダムの堆砂速度が集水域の土砂生産量だけでなく、各ダム固有の水滞留率にも規定されることを明らかにし、学会誌に報告した(応用生態工学、4(2)185-192, 2001)。  この研究にあたって編み出した方法論を、昨年4月我が国ではじめて情報開示された全国874ダムの堆砂データに適用して解析を行い、より広範囲な、堆砂率についても10%以上のダム群について堆砂速度とそれぞれのダムの水滞留率との関係を求める作業を開始した。前記論文の段階では、ダムの年間水総流量のデータが入手できなかったので、集水域面積で近似していた。本研究でも予備調査として、堆砂率10%以上の全国256ダムに前記論文での選択基準と近似を適用し、前記論文と基本的に同じ結論を得た。すなわち総貯水容量100万トン以上で, 貯水をその目的の一つに含む70のダムについては、年堆砂量は流域面積だけでなく、そのダム固有の水滞留率(この段階ではまだ近似的)の両方に支配され、比堆砂量は水滞留率に正比例する。  次いで国土交通省河川環境課その他に請求していた上記70ダムについての過去10年間の流量データが8月下旬に入手できたので、現在月報から年報への変換、10年間平均流量の算出、コンピュータへの入力作業にとりかかっている。  別途入手出来た一部のダム(13箇所、2年間)については、年間総流出入量と流域面積との間の相関が非常に高いことがわかり、前記の近似の確度は高そうである。  ダムの本格的な現地視察は理論的解析が終了してから行う計画であるが、天竜水系の主要ダムについては既に予備的視察を行った。

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の成果  理論的解析  以前の研究では電力ダムを含む全堆砂率20%以上の50ダムを解析の対象としたが、今回の予備調査で解析した、電力ダムを除く堆砂率10%以上の70ダムについても、年堆砂量は上流で土砂を生産する流域面積だけでなく、流れ込む土砂のダム湖内での沈降、捕捉にかかわるそのダム固有の総貯水容量と高い相関があり、比堆砂量(単位流域面積辺りの年堆砂量)は近似的水滞留率に概ね比例する事が明らかになった。  次いで開示資料から計算された各ダムの平均流量と、その近似として使って来た流域面積の関係を調べてみると、これも予想した通りほぼ正比例の関係が認められた。  そこで近似的方法ではなく、平均の水流量に基づく水滞留率(=総貯水容量/水流量)と比堆砂量との関係を調べたところ、意外に分散が大きいことがわかった。その原因を知るために、平均の直線関係から大きくずれているダムの持つ特性をひとつひとつ丹念に精査してみた。その結果水滞留率に対する関係において、一見大きな分散を示している70ダムが、次の3群に分類でき、各群の内部では比堆砂量はやはり水滞留率に比例することが明らかになった。 1.流域面積の割合に流量が低く、土砂生産量が平均よりかなり低いダム群。 定量的には流量/流域面積=0.03以下、年堆砂率1%以下。これは関東地方のダムに多い。 2.流量と流域面積の比が普通で、地質との関係で土砂生産量が非常に多いダム群   定量的には流量/流域面積=0.03以上、年堆砂率1%以上。 3.上記2群の中間に位するダム群  定量的には流量/流域面積=0.03以上、年堆砂率1%以下。 1.のようなダム群が存在する理由の一つとして考えられるのは、地域的な気候の差によって流域の降雨量がかなり低いこと、第二には地層の特性から降雨の相当部分が伏流水になって地下を流れることが考えられる(実際には両者が複合し手いると考えられるばあいもある)。 2.のように同じ水滞留率に対して異常に比堆砂量の多いダム群は上流の地質が崩れやすく、土砂生産量が異常に大きいのではないかと考えられる。 実地調査  地域的にも手近にあり、かつ大井川水系と並んで全国的にもずば抜けて堆砂の多い天竜川水系の主要ダムについて実地調査を行った。ここでは本流に泰阜、平岡、佐久間、秋葉、船明の5ダムが直列に並んでおり、其のことが各ダムの堆砂の量と質にどのような影響をもつかを中心に考察した。  理論的には各ダムの堆砂速度を規定する上流での土砂生産は、上流のダムの流域面積を差し引いた各ダムの固有の流域面積内だけでおこっているのか、上流ダムの存在と関係無く全上流面積で起こっていると考えて良いのかと言う問題があった。これについては未発表であるが前者は正しくないことを明らかに示すデータがある。泰阜から秋葉に至る4ダムの年堆砂量を、一つ上流のダムから上の流域面積を差し引いた狭い意味の流域面積に対して図表化すると、流域面積に対して見事に逆比例の関係が現れてしまうのである。つまり上流で生産された土砂は全部が最上流のダムで食い止められるのではなく、相当部分はダムを越流しては次々と各ダムで沈降、捕捉されて行くものと考えざるを得ない。専門家によっても、川を流れる土砂の約60%は沈降しにくい微粒成分であるという。この考察を裏付けるために、天竜川本流の4ダム、及び支流で上流にダムのない水窪ダムの堆砂状況と堆砂のサンプリングを行い比較してみた。  其の結果明らかになったのは、水窪ダムでも上流から堰堤より約2.6kmのbackwater point付近までは比較的粗い土砂の堆積がみられ、3.2km地点には砂利の採取場も設けられているが、堰堤より1.6km辺りから下では堆積する粒子が非常に細かくなり、粘土状の堆積がはじまっていた。このような傾向は本流で複数のダムが直列に並んでいる場合でもスケールの違いはあっても質的には同様である。すなわち平岡ダムより流路にして15km上流の泰阜ダム直下で採取した砂利は平均直径が1mmとかなり粗いが、そこから7km下流の南宮大橋下で採取した平岡ダム湖の堆砂は0.5mmとより細かい。それが更に平岡ダムを越流して佐久間ダム湖にはいると、既に二つのダムによって粗い粒子が取り去られているため、佐久間堰堤から16kmも上流の富山村、飯田線大嵐駅付近で大量に溜まった「堆砂」はもはや砂ではなく、水窪ダム堰堤の1.6kmあたりからみられたと同じ粘土状の堆積である。この粒子は非常にに細かく、手でこねて団子状にすると表面に光沢が生じる。コンクリート工事の骨材等には逆立ちしても使えない。なお佐久間ダムの堆砂量はH11年現在既に1.1億トンをこえ、天竜水系の全ダムの総堆砂量2億400万トンの過半を占める。上流で生産される土砂のかなりの部分はダムを越流できる微粒子からなっていることが分かる。従って天竜水系のように本流にダムが直列に並んでいるばあいでも、各ダムの堆砂量を規定する上流の土砂生産は、其のダムより上流の全流域面積で起こっているものと考えて良いと思われる。 第2群に属するなかでも、比堆砂量が異常に大きなダムとして注目されたのは宮崎県の広渡ダムである。年堆砂率が2.38%(70ダムの平均は0.71%)と群を抜いて高く、建設後僅か5年で総貯水容量(640万m3)の12%が埋まっている。所が隣接する支流の日南ダム(600万m3)は年堆砂率が0.31%に過ぎない。実地調査を行った結果次の事がわかった。 (1)両者の流域の地質は全体としては砂岩、泥岩、玄武岩及び礫岩で1部に石灰岩を挟む崩れ易い性質であるが、唯一の違いは日南ダムの集水域は川沿いにかなりの部分に流紋岩地帯があり、いわば自然の護岸が存在する(一部柱状節理の露頭もみられた)。 (2)広渡ダムの集水域は一面のオビスギの単一林で、過疎化して手入れが行き届かない上流の川沿いには多くの崩壊地が見られた。また水源の頭上の稜線には大規模な林道開発が行われている。  これに対して日南ダムの集水域は比較的人家が多く、川沿いには竹やぶや雑木のしげる里山がかなりの程度保存されていた。  このような条件のちがいが、単位面積あたり降水量も殆ど同じ、集水面積は日南ダムの約半分の広渡ダムの異常に高い堆砂速度となって現れていると思われる。新しいダムを建設しようとする場合、建設省の指針では近隣のダムのデータを参考にすることにかなりの比重がおかれているが、この実例は上記指針に安易に依存せず、近隣のダム間でも肌理の細かい立地条件の比較を綿密に行う必要があることを警告している。  現地での聞き取り調査によると、ダムが出来て以後環境の変化のため上流部でも下流部でも、異口同音に生物相の貧弱化を訴える声がきかれた。遡上して来る魚類の減少だけでなく、在来の甲殻類やホタル、鳥までがいなくなってしまったと言う訴えもあった。電力ダムも含めて、透明度は冬期でも1m前後と極めて少なくなっている場合があり、ダムの宿命として貯水に伴う富栄養化がうかがわれる。

その他/備考

対外的な発表実績
1. 太田川治水対策に関する公開質問状 II と提言 04年11月15日 静岡県土木部宛 (太田川ダムはいらない住民協議会、グル−プ太田川水未来          太田川ダム研究会) 2. 太田川ダムの利水機能はいつまでもつか?    04年11月28日           水郷水都全国会議浜松大会 第5分科会 (太田川ダム研究会)           静岡県土木部の太田川ダムの堆砂見積もりは近隣の原野谷川ダムの実績に依存して行われた   が、総貯水容量が9倍違うこと、防災ダムであるため年間の半分程度しか水を貯留しない  ことを全く無視しているため、比堆砂量にして14倍の間違いがあり、50年間に総貯水用量 の35%が埋まるであろうことを論証した。 今後の展望  国に対しては一昨年環境省に提案したように、どうしても新たにダム建設を行おうとする場合は、本研究で明かにされたように建設しようとするダムの総貯水容量、水滞留率を考慮にいれて今までより正確な堆砂の見積もりを行い、建設の当否を判断することを求めて行く。 静岡県については、太田川ダムの堆砂見積もりが大きく間違っている危険性を考慮し、計画の見直しを求めると共に、利水にとっては必要性がなく、治水には役立たない(計画高水流量の7%しか制御できない)こととあわせてダム建設の中止を求めて行く。かりに建設が強行され、ダムが完成しても、堆砂の進行と水質の悪化の監視をいつまでも続け、納税者の前に公表してゆく。 今後の調査研究としては、本研究で明らかになった流域面積や年間全降水量と対照して異常に流量の少ないダム群の存在する理由について、地域的降雨量と伏流水の両面から検討を行いたい。 また広渡(ひろと)川ダムと日南ダムのように、同じ水系に隣接して存在しながら極端に堆砂速度の違うダムについて其の原因を更に深く追求したい。

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