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放射線照射による不妊化の科学社会史的研究



グループ名 完了報告書[pdf359]
完了報告書[pdf359]
完了報告書[pdf359]
代表者氏名 真野 京子 さん
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助成金額 30万円

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
 1996年に、放射線照射による不妊化を受けた佐々木千津子さんの話を聞き、2002年からこの問題を調べてきた。  佐々木さんは生まれてすぐに脳性マヒになり、体が不自由だが、37年前、施設に入る前にコバルト60による放射線照射を受けるように言われ、不妊にされた。  放射線照射は、検査や診断、悪性腫瘍の治療等にも用いられているが、放射線障害を起こすおそれがあり、十分な注意が求められている。  しかし、1910年代から30年代にかけては、その有用性のみを求めて様々な部位への照射が行われていた。  中でも放射線照射による生殖器の不妊化が実施されていたことは、放射線防護の視点からは驚きであるが、その事実は忘れられ、現在の教科書では全く触れられていない。 【経過】  1910年代以降の雑誌論文、書籍等の資料を収集し、放射線照射による不妊化について書かれた論文を36本、生殖器への放射線照射(治療目的のものを除く)に関する論文79本を確認した。  また、3人の医師(産婦人科と内科、内科医師は放射線被曝の専門家)にインタビューした。 【成果】  1970年代までは、放射線照射による不妊化が続けられていた可能性が高まった。  また、調査の過程で次の事実が明らかになった。  生殖医療において、戦前、放射線照射は中心課題の一つであったが、1950年代以降、急速に関心が薄れ、変わって不妊治療に関心が集まっていく。  二つの技術に共通するのは、/卦に開発された技術であること、△修留用に際して、患者や社会の十分な理解や安全性の確認が得られていないこと、0綮佞隆愎瓦蓮△修寮果に置かれ、患者側の事情や影響には向けられていないこと、づ面の成果に関心が集まり、将来的な影響があまり考慮されていないこと、チ犧遒梁仂櫃論譴藹性であること、νダ源彖曚留洞舛鮗けていること、である。 【今後の展望】  江戸時代以降の日本の生殖医療の社会史的研究を続けてきたが、,らイ稜惴紊砲篭畭絏衆聞澆瞭本の生殖医療の持つ構造的な問題があると考える。  本研究と並行して不妊治療の調査にも携わっており、今後とも、障害者や女性のグループと交流を続けながら、「障害や病気(少数者)を排除しない」科学・「全体とともにある」科学、「権力差のない」科学を求めていきたい。

中間報告

中間報告から
 放射線照射による不妊化について、一昨年から調査を続けてきました。今年は基金を戴き、医学の文献収集にも余裕ができて助かっております。4月から7月までは、主に昨年できなかった年代の文献調査をし、当時使用されていた装置の見学などをしました。放射線照射に関する文献は1910年代から発表されており、かなり早い年代からX線やラジウムなどを使った放射線照射が行われていたことを確認しました。8月以降、1910年代から1930年代までの医学論文を整理し、分類表を作りました。また科学、医学、国家、社会、それぞれの観点で日本の近代化以降の年表を作成しました。現在、これらを使って歴史的背景に重点を置いた論文を執筆中です。  また、私自身は周辺的な役目しか果たしておりませんが、1968年に放射線照射によって不妊にされたSさんの広島市民病院との交渉に参加し、Sさんが受けた照射の背景を調査しました。7月にはSさんの体験と思いをビデオ化した『忘れてほしゅうない』が完成し、その発表会に参加しました。大学でも授業の中で学生さんに見てもらい、感想をSさんに送るなど、当事者との交流や一般への情報の周知に努めております。今後、当事者や医療関係者へのインタビューに取り組み、過去と現在をつなぐ視点から研究をまとめる予定です。 調査研究・研修の具体的な経過・成果 2004年4月 放射線照射により不妊にされたSさんと広島市民病院との交渉に参加、地域情報を収集した。 2004年4月 開発当初からのX線照射装置を見学、調査した。 2004年4-8月 医学論文を中心に文献調査を続行中。 2004年5月15日 東洋大学で開催された第30回日本保健医療社会学会で以下の題で報告した。 「放射線照射による不妊化―ジェンダーの視点から―」 2004年5月23日 仏教大学で開催された第55回関西社会学会で以下の題で報告した。 「放射線照射とその時代」 2004年7月4日 放射線照射によって不妊にされたSさんを主人公にし、優生思想を問うネットワークによって作成されたビデオ、『わすれてほしゅうない』の発表会に参加、感想が同ネットワークのニュース(2004年7月号)に掲載された。 2004年7月15日 『わすれてほしゅうない』を大学の講義のなかで視聴し、感想をSさんとビデオ製作者に送付した。 2004年8月〜 放射線照射関係の年表と論文の分類表作成 「放射線照射による不妊化とその時代」のタイトルで、論文執筆中

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の経過 1996年11月 放射線照射による不妊化を受けた佐々木千津子さんの話を聞く 2002年5月 11月に佐々木さんの講演会が開かれることを聞き、「放射線照射による不妊化」について調べ始める。 2002年11月 大阪人権博物館(リバティ大阪)で「強制不妊手術にみる優生思想と日本の社会」が開かれ、佐々木さんと市野川容孝氏の講演を聞く。 2003年1月 医学図書館で「レントゲン去勢」について書かれた論文を発見し、1960年代以前の文献を調べはじめ、現在に至る。 2003年12月 高木仁三郎基金に応募する。 2004年4月 佐々木さんと放射線照射による不妊化を実施した広島市民病院の交渉に参加する。その後、佐々木さんが放射線照射を受けた1968年前後の広島県内の産婦人科医療の状況を調査する。 2004年4月 高木仁三郎基金より資金の提供を受ける。 2004年4月 島津創業記念資料館や京都大学総合博物館などの、開発当時のレントゲン器械を見学、調査する。 2004年5月 放射線科のA医師より、聞き取り調査をする。 2004年5月 関西社会学会及び日本保健医療社会学会で、調査内容を発表する。 2004年8月 種智院大学紀要第5号に論文「放射線照射とその時代」を執筆し、歴史的背景を考察する。 2004年12月 「放射線照射による不妊化」について、毎日新聞の取材を受ける(掲載されず)。 2005年3月 産婦人科のB医師より聞き取り調査をする。 2005年5月 関西社会学会及び日本保健医療社会学会において、再び発表の予定。 調査研究・研修の成果 1.実施状況  *この研究において、放射線による「不妊化」とは、〔去勢(一時的、永久とも)及び流産〕を含む。 2005年3月までの調査で、放射線照射による不妊化について書かれた論文を36本、生殖器への放射線照射(癌治療のためのものは除く)に関する論文を79本確認した。実際の施術件数は明らかではない。 1910年代から1950年代までに多く実施されたと考えられる。生殖器への放射線照射(ガン及び腫瘍等の治療を目的とするものを除く)は、当初は治療のために、1930年代には避妊や堕胎のために、1950年代以降は不妊化のために行われたことが確認された。最終的に実施が確認されているのは1968年で、1970に発行された『現在産婦人科学体系 9』「不妊症 避妊」には「レ線照射による不妊法はもはや施行すべき方法ではないといわねばならぬ」と記されていることから、70年代初頭までは実施されていたと推測できる(1)。聞き取り調査により、80年代にも実施されたことが窺える証言を得たが、文書は残されていない。 実施場所と目的 1)1910年代?1920年代まで、主に大学病院で治療及び実験を目的として実施された。 2)1930年代以降、一般の医院でも実施され、避妊や人工流産の目的でも実施された。  一般書でも宣伝され、多くの人がX線やラジウムによる放射線照射を受けた。 2.問題点 1) 被曝に関する問題 1-線量が不確かであった(電力・電圧等)こと、また単位の不統一により評価が不可能だったこと。 2-放射線防護の不備 2) 医学上の問題 1-被曝影響への認識の欠如(急性障害<特に皮膚障害>への注目) 2-不備を抱えた技術のまま、性急な実験及び応用がなされた。 3-その結果、レントゲン癌が発生したり、避妊の失敗によって胎児に奇形が生じたりするなど、多くの影響が見られた。 4-当時は急性障害にのみ注意が払われていたため、長期に渡る晩発障害や精神面への影響などは観察されていない。 5-放射線による不妊化の研究及び応用はほぼ女性が対象とされたこと。 3) 倫理上の問題 1-人体実験的使用(実験という段階ですらなかったこと) 2-被験者に十分に説明をし、同意を取らなかったこと(説明のための資料も十分でなかったこと) 3-医師と患者に情報量や権力の差があったなかで、行われたこと。 4) 優生思想との関係 1-1920年代頃からの優生思想の拡がりのなかで、「安全な」避妊法の一つとして推奨された。 2-放射線照射による不妊化の失敗の結果、誕生した奇形を有する子どもが排除の対象となった。 3-原水爆投下後、ヒバクの影響が明らかになった後においても、障害者を対象に放射線照射による不妊化が実施されたこと。 5) まとめ  この技術に関しては、長期に渡り、大学の講座を中心に多くの研究・応用がなされた。医学雑誌には多くの成果が掲載されたが、医師による評価は自画自賛のものが非常に多い。照射を受けた人々自身、晩発障害が表れても、それと自覚できなかっただろう。実際に放射線照射が長期に渡ってどのような影響を及ぼしたのかは明らかではない。当初から欠点が指摘されながらも、少なくとも40年以上に渡り、実施され、その限界が明らかになり、法的に禁止された後にも使用された。過去には外科的な手法の危険性が高かったとはいえ、早期に廃止されず、廃止された後にもそのことへの言明や反省が見られない。そこに、科学技術・医療・優生思想をつらぬく問題が重なっている。 (1)小島秋 1970『不妊症 避妊』『現在産婦人科学体系 9』小林隆監修,中山書店, p.396-397. 対外的な発表実績  この問題は高木仁三郎基金を戴く以前から取り組んでおりますので、その時期のものも含めます。 学会発表 2003年5月18日 日本保健医療社会学会 発表  産婦人科における放射線照射  ―1930年代の不妊化への応用について― 2003年5月25日 関西社会学会 発表  不妊手術―1930年代を中心に― 2004年5月15日 日本保健医療社会学会 発表  放射線照射による不妊化―ジェンダーの視点から― 2004年5月23日 関西社会学会 発表  放射線照射による不妊化とその時代 2005年5月15日 日本保健医療社会学会  発表予定  放射線照射による不妊化―生殖医療の歴史を踏まえて― 2005年5月28日 関西社会学会 発表予定  放射線照射と生殖医療 ―過剰と冷徹の間で―  ニュース掲載 『忘れてほしゅうない』  優生思想を問うネットワーク 会報 2004年11月号 №62 日々快々悶々  「レントゲン去勢―『実験台』になった少女からの宿題」 講演予定 2005年6月  優生思想を問うネットワーク主催の講座で講演を予定しております(学会発表のため、実施を遅らせて戴きました)。 今後の展望   一年間の調査により、1970年代まで「放射線照射による不妊化」が続けられていた可能性は高まった。今後とも、調査を続け、実際にその対象となった方を捜したい。また、医療関係者からは、障害者を対象にした「放射線照射による不妊化」の実施を示唆する証言は得られたとは言え、具体的事実の証言は得られていない。2005年度においては、インタビューの対象者を広げて、引続き聞き取り調査を実施する予定である。上記、二つの視点からの具体的証言が得られた時点で、新聞紙上で発表し、新たな証言を呼びかける予定である(掲載紙確定済)。  また、調査の過程で、以下の事実が明らかになった。 生殖医療において、戦前、放射線照射は中心課題の一つであった。しかし、1950年代以降、急速に放射線照射による不妊化への関心が薄れ、変わって不妊治療に関心が集まっていく。二つの技術に共通するのは、?新規に開発された技術であること。?その応用に際して、患者や社会の十分な理解や安全性の確認が得られていないこと。?医師の関心は、その成果に置かれ、患者側の事情や影響には向けられていないこと。?当面の成果に関心が集まり、将来的な影響があまり考慮されていないこと。?操作の対象は専ら女性であること。?優生思想の影響を受けていること。 私は江戸時代以降の日本の生殖医療の社会史的研究を続けており、?から?の背後には近代化以降の日本の生殖医療の持つ構造的な問題があると考える。本研究と並行して不妊治療の調査にも携わっている(その成果は『先端医療の社会学』の一部「不妊治療」(仮題)として、2006年に出版される予定)。今後とも、障害者や女性のグループと交流を続けながら、「障害や病気(少数者)を排除しない」科学・「全体とともにある」科学、「権力差のない」科学を求めていきたい。  また、放射線により精子が減少するということから、その利用が進んだという事実は、科学技術の応用が優先され、その影響の防護に力点が置かれなかったということを意味する。核を巡る技術全般にいえることで、軍事への応用・いわゆる平和利用をはじめ、他の医療などへの応用についても共通して見られることである。20世紀は核の世紀であったと言われるが、被害者の声を聞かずに進められる施策に医療のあり方が大きな影響を及ぼしている。その角度からも研究を進め、ヒバク影響評価の研究を続けていきたい。  今後とも、よろしくお願いいたします。最後に基金を下さった皆さまに感謝を捧げます。

その他/備考

参考
DVD、上映会情報等 『忘れてほしゅうない〜隠されてきた強制不妊手術〜』(制作:優生思想を問うネットワーク 2004年) 『ここにおるんじゃけえ』(監督:下之坊修子 2010年)

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