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市民防災の立場にもとづく奈良県大滝ダムのダム地すべり災害の研究



グループ名 国土問題研究会 大滝ダム地すべり問題自主調査団 完了報告書[pdf590]
完了報告書[pdf590]
完了報告書[pdf590]
代表者氏名 奥西 一夫 さん
URL http://ha2.seikyou.ne.jp/home/kokudo/
助成金額 60万円

調査結果は、2006年4月に報告書「大滝ダム地すべり災害の検証」(『国土問題』誌第68号)として発表した。

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
【背景】  大滝ダムは紀の川上流に位置する多目的ダムで、紀ノ川の治水計画の中で大きな位置を占めている。  このダムの完成直後の試験湛水中に起こった地すべりは、わが国での史上最大規模のダム地すべりであり、ダム管理者である国交省は一時ダム湛水を中止して対策に追われた。  しかし本質的な問題を置き去りにしたまま、限定的な対策だけでダムの運用を再開しようとしている。  我々はこのような対応ではダム周辺および下流の市民の安全を守れないという立場から調査活動を開始した。  本調査は国土問題研究会の自主調査として約3年の期間を設定しているが、最初の1年を主として高木基金の助成金によって実施した。 【経過】  2004年2月以降、現地での地質調査、被災状況調査、ダム管理事務所・国交省近畿整備局などへの取材等を実施し、分析を進めるとともに、シンポジウムの開催、現地での地元住民を交えた討論会の開催などに取り組んだ。 【成果】  現地調査と国交省のホームページなどで公開されているデータの解析を通じて、国交省とは独立した立場から、地すべりのメカニズムを検討した。  国交省の検討委員会は、現地に「地すべり域」と「緩み域」を認定し、緩み域では地すべり運動は顕著でないとしているが、我々は、緩み域でも地すべり変異が大きく、地すべり面が明瞭に認識できる地点がいくつかあることから、緩み域をあわせて地すべり域と認定すべきと考える。 【今後の展望】  今後とも、国交省の検討委員会と並行して、地すべりのメカニズム解明と斜面安定化対策の調査を独自に実施し、斜面安定化対策後の安全性評価をおこなう。  その結果、紀ノ川水系の治水計画を見直す必要が生じた場合には、これについても検討をおこなう。  また、被災者の生活再建の立場から、集団移転等の対策に批判を加えてゆく。  さらにダム湛水域に中心部を有する川上村の発展計画についても検討を行う。  これまでの調査結果からも、国交省の大型プロジェクトに対して、市民科学の立場から批判をくわえて行くことの重要性が明らかになっており、責任を痛感しつつ調査活動を推進して行きたい。

中間報告

中間報告から
 紀の川上流に位置する奈良県川上村の大滝ダム湛水域の一角で起こった白屋地すべりは,わが国ダム史上最大規模のダム地すべりであり,被災者はもちろん,川上村および下流域の住民の安全を脅かしている。ダム管理者である国交省は問題を矮小化し,限定的な対策だけでダムの運用を再開しようとして来た。それに対し我々は市民生活の安全を守るという立場から看過できないとして,高木基金の助成を受けて調査活動を開始した。現在までに問題のすべてを解明するところまで行っていないが,解明すべき問題点として掲げた事項はいずれも極めて深刻であることが分かった。  潜在的に地すべり危険度のある斜面については詳細な調査がされ,対策工事に巨費を投じたにもかかわらず地すべり発生を防止できなかった原因は完全には解明できていないが,地すべりの専門家が集まって検討したとは思えないような初歩的ミスに起因している。国交省は被災者に対しては「生活再建を目的にした補償」をおこなうと約束しているが,地すべり発生から1年以上不便極まりない仮設住宅に押し込んだままである。国交省による地すべりメカニズムの解明は,あくまでも対策工事を早期におこなうことを目的とし,地すべり区域を極めて狭く取り,周辺区域を「ゆるみ域」として対策工事の範囲外としているため,現在計画されている対策工事の効果は大変疑わしい。また白屋地区以外の斜面で同様の判断ミスをしている疑いのあるものが2個所ある。そのためダムの運用が強行されると,地すべり発生時にダム洪水が起こるおそれがあり,下流域を危険に陥れる。逆にダムが予定通り運用されないと,わずかに残っていた平地のほとんどが水没し,観光に将来の活路を見出そうとしている地域経済に大きなダメージを与えることになる。 調査研究・研修の進捗状況・計画の変更などについての特記事項  調査・研究はほぼ順調に進捗している。ただし,計画では地すべり発生の原因を解明し,それを通じて対策のあり方を検討し,さらにそれを通じて国交省の地すべり対策と被災者救援対策を批判するという,積み上げ方式を考えていたが,国交省に被災住民の生活再建を重視する姿勢が不十分であることと,地すべり発生の徹底的な原因究明を抜きに,取りあえずダム運用を急ぐという危険な方針をとっている。これらの状況を批判的に調査することに力を注ぐ必要が生じたため,原因究明のための基礎的な調査はまだ十分にはできていない。  経理は研究代表者が担当しているが,調査研究に追われて支出の執行が大変遅れており,調査団会議やシンポジウムの開催事務を国土研の事務局に依存し,必要な経費の多くを国土研の経常経理から支出,または調査団員が一時立て替えすることになってしまった。そして調査団員が立て替えて支払った交通費,宿泊費,コピー代の一部を立て替え払いとして請求してもらい,事後に支払うという形を取らざるを得なかった。  本調査は高木基金からの60万円の助成の他に,国土研の募金を充てることを見込んでいるが,現在の所募金目標を大きく下回っており,今年度はおおむね高木基金からの助成金のみで運営し,来年度以降は専ら募金によって,緊縮財政で調査を継続する予定である。しかし,今年度末の研究報告書の発行は予定通りおこなえる見込みである。

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の経過 2004年2月18日 現地調査:東京在住の専門家を交えて調査団有志が地質調査をおこなった。メランジュ構造と呼ばれる地質構造の地すべりへの影響を検討した。    4月18日 現地調査:地すべり発生前後の国交省の地質調査データにおける相違点の意味を検証。仮設住宅に被災者を訪ね,精神的ストレスを含む生活不便を調査    4月25日 調査団会議:それまでの調査成果や新たに入手した資料について検討。    6月7日 大滝ダム管理事務所への取材:地すべり対策とダム運用方針,および被災住民への補償の方針を中心に質問。    6月13日 国土問題研究会(国土研)主催の大滝ダムシンポジウム:72名が参加し,特に住民主義と総合主義の原則を調査の中で以下に発揮して行くべきかを討議。    7月16日 紀の川ダム統合管理事務所への取材:同事務所がインターネットで公開しているデータに関する不明点,公開されていないデータの入手方法などについて,かねて提出の質問書に対する回答をもらい,若干の意見交換。    8月21日 地質資料検討会:収集した地質データにもとづき,白屋地区の過去の地すべり活動およびダム湛水で惹起された地すべりのメカニズムを検討。    8月27日〜29日 国土研の現地調査・討論会:紀伊半島の諸河川が抱える問題をテーマに川上村,古座川町,田辺市で開催し,18名の会員が参加。調査団は大滝ダム地すべりに起因する諸問題について現地で説明。古座川・日置川については各調査団が現地で説明・講演。田辺市では一般市民も参加して総合討論。     8月30日 国交省近畿整備局への取材:白屋地区以外の地すべり調査,ダムサイトの調査について資料を閲覧。    11月15日  国交省に情報公開請求をしていた資料を入手。ホームページから得たデータと共に本格的なデータ解析を開始。    12月1日〜2日 川上村役場への取材と白屋地区背後斜面の地形・地質調査。 2005年4月3日 白屋地区背後斜面の地形・地質調査,集団移転候補地の地盤調査。 調査研究・研修の成果  本調査は国土問題研究会の自主調査として約3年の期間を設定しているが,最初の1年は主として高木基金の助成金によって実施した。以下では自主調査の全体計画で掲げている個別課題についての成果の概要を述べるが,多くの課題について最終的な調査成果は得られていない。ただし,(2),(3),(4)の項目についてはほぼ調査目的を達成している。 (1)大滝ダムの概要と地すべり発生の経緯  大滝ダムは紀の川上流に位置する多目的ダムで,紀ノ川の治水計画の中で大きな位置を占めている。このダムの完成直後の試験湛水中に白屋地区で起こった地すべりは,わが国ダム史上最大規模のダム地すべりであり,ダム管理者である国交省は一時ダム湛水を中止して対策に追われた。しかし本質的な問題を置き去りにしたまま,限定的な対策だけでダムの運用を再開しようとしている。我々はこのような対応ではダム周辺および下流の市民の安全を守れないという立場から調査活動を開始し,高木基金から助成金をうけることになった。  白屋地区を含むいくつかの斜面は,ダム計画の段階から地すべり危険度があるとされ,有識者による委員会(貯水池斜面対策検討分科会)の検討を受けて,ダムの完工までに大規模な対策工事が行われている。それにもかかわらず,白屋地区で地すべりが発生がした。住民は直ちに集団移転のための補償と仮設住宅の建設を求めたが,国交省は同年7月にようやく仮設住宅を建設し,12月に集団移転を前提とした補償交渉を開始する旨を表明した。そして応急対策工事を行って,2004年10月末から2005年6月までの非洪水期には,発電に必要な水位を確保し,その限度で利水を行うという暫定運用を始めた。そして,本格的な対策工事後の2010年から当初予定されていた通りの運用を行うとしている。しかし2005年4月現在,被災住民は未だに仮設住宅で暮らすことを余儀なくされており,集団移転のための補償については,ようやく国交省から補償額の提示が行われ始めたに過ぎず,いつ仮設住宅暮らしから解放されるかは全く不明である。 (2)白屋地区斜面の地形と地質  四国から紀伊半島にかけての急峻な山地では,しばしば山腹斜面に緩傾斜部があり,そこに集落や耕地が立地している。白屋の集落が載る斜面はまさにそういう,いわゆる地すべり地形であり大滝ダムを計画の中で,地すべり地形を呈する斜面でかなり綿密な調査がおこなわれた。  本地域の地質は付加帯の特徴が顕著である。すなわち海洋底に堆積した物質がプレート運動によって日本列島に運ばれ,押しつけられて山地を形成している。中央構造線の南側に位置する山地では一般に中央構造線から離れるに従って地質年代が若くなるような帯状の地質構造を示すことが多いが,その中で本地域では,中生代の四万十帯の上に秩父古生層が浮かんでいるような特殊な地質構造を示す。この断層による二次的な派生断層の伏在など地すべり構造と有機的な関連も考えられる。さらにその秩父古生層の部分はメランジュ構造(塊状の構造が優勢で,いろいろな岩質の塊がかき混ぜ状態になっている)を呈している。また高原断層が白屋地区の背後をほぼ東西方向に走っており,断層運動によって破砕されることによって地質的に脆弱化し,クリープ変形の結果,上記の「地すべり地形」を呈するのではないかとも考えられるが,まだはっきりしない点も多い。 (3)地すべりのメカニズムについて  我々は現地踏査と国交省のホームページ等で公開されているデータの解析を通じて,国交省とは独立した立場から地すべりのメカニズムを検討した。国交省の検討はダムを当初計画通りに運用することを目的にしたものであり,地すべりの基本的なメカニズムを解明し,事前調査の誤りをきちんと指摘するという観点が明らかに脱落しているためである。本地すべりは,自然的原因によって岩盤クリープが起こり,長年にわたって極めて小さい速度で斜面変位が起こっていたものが,ダム湛水による地下水位上昇のために力学的安定が崩れ,クリープが加速され,地すべり発生に至ったものと考えられる。  国交省が組織した亀裂現象対策検討委員会は,地すべり発生後の白屋地区に地すべり域と緩み域を認定している。そのうち,地すべり域は地すべり変位が顕著で,明瞭なすべり面が存在する。緩み域では地盤変位がわずかに見られるが,地すべり運動としては顕著なものではなく,すべり面も不明瞭だとしている。しかし,われわれのデータ解析によると,国交省が緩み域と認定している区域でも地すべり変位が顕著ですべり面が明瞭に認識できる地点がいくつかあり,むしろ国交省の言う地すべり域と緩み域をあわせて地すべり域と認定するのが適切である。さらに,そのように定義する緩み域の上部には背後から押されているような動きが見られる。背後斜面には高原断層が存在することもあり,必ずしも不動域とは考えられない。このことは,今後の斜面安定対策を考える上で極めて重要である。 (4)地すべりの発生を防止できなかった原因について  ダム建設工事に先立って開始された地質調査の結果,白屋地区の斜面には20m級と50m級の2深度に地質的な弱線があり,ダムに湛水したこれらがすべり面となって地すべりを引き起こす可能性があることが指摘されていた。その後,詳細な調査をした上で,20m級の深度のものを対象に,アンカー工や杭工が施工された。一方,50m級のものについては,過去にすべり面が形成された形跡がないことを主な理由として,地すべり防止対策は必要でないと判断された。過去にダム湛水時に相当する地下水位の上昇があって,それでも地すべりが起こっていないのであれば,この判断は正当であるが,これは明らかに事実に反する。我々の概算ではダム湛水によって安全率は1を割る。  技術レベルが低かった,あるいは偶発的なミスでこのような初等的なミスが起こったとは考えられない。ダム湛水によって地すべりが発生するという結論が出ていた場合には,ダム計画を放棄せざるを得なくなる可能性があったが,一方,その時点でダム建設工事は既に始まっており、そのために,もはやダム建設を中止すべきだという調査結果は出せないという雰囲気ないし圧力が国交省の担当者や委員会メンバーを支配したのではないかと考えられる。 (5)事後対策施工後の斜面の安定度  前述のように国交省は白屋地区の斜面変動域を地すべり域と緩み域に分けて,地すべり域を安定化させれば地すべりは抑止されるとの見解に立っている。これに基づいてダムの暫定運用のための応急対策工事をおこない,本格運用のための対策工事を計画中である。しかし,地すべりのメカニズムに関する認識が曖昧なままであるため,上記の見解は疑わしく,それに基づいて計画・施工される対策工事の効果にも疑問がある。現に暫定運用開始後は,いったんおさまりかけていた地すべり活動が再び活発化する傾向が見られる。地すべりに対して十分な安全性を確保するためには,問題を矮小化するのではなく,白屋地区斜面の全体を見た斜面安定の検討に基づいて対策を立てる必要がある。国交省では亀裂現象対策検討委員会に代わり,貯水池斜面再評価検討委員会を組織して諸問題の再検討をおこなっているが,今後ともその動向を見守って行く必要がある。 (6)紀ノ川の治水計画への影響  大滝ダムは多目的ダムであるが,紀ノ川の5,400m3/sの洪水流量を2,700m3/sに調節するために建設されたもので,紀ノ川の治水計画の中で重要な位置を占めている。そのため,大滝ダム地すべりは紀ノ川の治水に大きな打撃を与えている。国交省は地すべり対策を施した上で大滝ダムを当初予定通りの形で運用するというシナリオに固執しているが,地すべりを完全に防止できなければダム計画そのものを見直さなければならない。そのため,大滝ダムに頼らない紀ノ川治水についても検討する必要がある。  紀ノ川下流部は沖積河川であり,平野部はもともと低地で,水害常襲地である。さらにその周辺部での都市化の進展により流出率が高まり,浸水被害は拡大かつ深刻化した。このように紀ノ川下流部の水害の主要な形態は内水災害であり,これを考慮した治水計画が必要である。例えばダム建設よりも河道掘削が緊急に必要とされる。  紀ノ川中流部の地形は,「狭窄部+盆地部」の連続である。そのため,紀ノ川中流部の過去の水害は,狭窄部による水位せき上げ,溢水氾濫という形態を取ってきた。狭窄部上流側の盆地河川では,河道幅を減少させる方式で改修がなされてきた結果,河道貯留能力が減少している。狭窄部では堰が設けられ,流下能力が減少している。近年,土地開発のために遊水地は事実上無くなっている。ダムに頼らない治水計画では,紀ノ川の地形を生かして,洪水流量を分散させる方式を採る必要がある。 (7)被災住民の生活再建  大滝ダム地すべりは国交省の判断ミスによって起こった人災であり,国交省は加害者として,被害者の生活再建の支援をおこなう義務を持っている。自然災害によって被災し,生活再建に必要な経済力を失った人に対する公的補償については最近かなりの進歩が見られるが,今回の地すべり災害においては,このことも踏まえ,さらに加害者責任も加味した補償が必要である。白屋は歴史の古い集落で,住民の愛着心や地域的連帯感が強いことから,住民はそれぞれの所帯の生活を再建することはもちろん,地域コミュニティを何らかの形で維持することを強く望んでいる。それに対し,国交省紀の川ダム統合管理事務所が発行したパンフレットには白屋地区用地補償として,「生活再建を目的とした移転補償」と明記されている。しかし,事務的に進められる補償交渉の中で,上記の観点が十分に生かされない可能性が大である。  現在までに集団移転地として,ダムサイト近くの尾根の骨材プラント跡が宅地造成されているが,バス道路からの距離と標高差が大きく,高齢所帯には受け入れがたいため,住民の約半数だけがここに移転し,残りは村外に集団移転する見込みになっている。これは住民要求からかけ離れたものであるが,現在入居している仮設住宅があまりにもひどい状態であるため,やむを得ない選択として住民が受け入れようとしているものである。今後,移転地の安全性,利便性,地域コミュニティの再建方法などについて,当事者である国交省と川上村が最大限の努力をして行く必要があるし,我々調査団としても,それを支援していくための諸々の検討を急ぐ必要がある。

その他/備考

<storong>対外的な発表実績</strong>
2004年6月13日:国土問題研究会(国土研)主催の大滝ダム公開シンポジウム。72名が参加し,特に住民主義と総合主義の原則を調査の中で以下に発揮して行くべきかを討議した。プログラムは次の通り。 1.趣旨説明 2.大滝ダム白屋地区の地すべり活動について 3.白屋地区地すべり地帯の地質について 4.白屋地区の地すべり災害と地質 5.大滝ダム地すべりと紀ノ川の治水 6.被災住民の生活再建と地域経済振興・村づくりの問題 7.総合討論 2004年8月27日?29日:国土研の現地調査・討論会。紀伊半島の諸河川が抱える問題をテーマに川上村,古座川町,田辺市で開催し,18名の国土研会員が参加(川上村では現地住民も参加)。その中で調査団は大滝ダム地すべりに起因する諸問題について現地で説明し,参加者全員で討議した。 2005年5月:国土研の機関誌「国土問題」67号にこれまでの調査成果を詳細にわたって報告する。予定ページ数は80ページ程度。予定している目次は次の通り。 (1)地すべり発生とそれ以後の経過 (2)白屋地区の地形と地質 (3)地すべりのメカニズム (4)地すべり危険度と対策に関する事前調査の誤り (5)事後対策施工後の斜面の安定度 (6)紀ノ川の治水計画への影響 (7)被災住民の生活再建 【今後の展望】  大滝ダム地すべりをめぐる諸情勢は刻々動いており,それに対応した調査活動を,今後は国土研の自主調査として実施する。これまでの調査結果からも,国交省の大型プロジェクトに対して,市民科学の立場から批判をくわえて行くことの重要性が明らかになっており,責任を痛感しつつ調査活動を推進して行きたい。  理工学的な側面では,国交省が設置した貯水池斜面再評価検討委員会の活動と並行して斜面安定化対策とその基礎になる地すべりのメカニズム解明のための調査を独自の立場から実施する。さらに斜面安定化対策後の白屋地区斜面および大滝ダムの安全性評価をおこなう。その結果,紀ノ川水系の治水計画を見直す必要が生じた場合には,これについても検討をおこなう。  社会科学的な側面では,被災者の生活再建という立場から,計画または実行される集団移転等の事業について批判を加えてゆく。さらにダム湛水域に中心部を有する川上村の発展計画についても検討をおこなう。  本調査団も国土研も,研究団体であって運動団体ではないので,自ら社会的活動をおこなうわけではないが,市民科学の目的に沿い,調査研究の成果が市民的利益にかなうように利用されるべきだとの立場から,調査研究成果を刊行物,シンポジウム,ホームページ等を通じて広く伝達し,関係者の間での話し合いや各種の計画に良い形で反映されるよう,努力してゆく。  脱ダムの動きが世界的にも全国的にも広がっているが,ダム建設が,市民の安全に正当な注意を払うことなく推進されるという傾向は,現在もあまり変わっていない。ただ,それに対して市民が意見を述べる場が広がっており,そういう意見が尊重される機運は次第に高まっている。従って,大滝ダム地すべりに関する調査研究成果は決してローカルな知見に留まるべきではない。本調査団としても,この調査研究成果の一般的意義を整理し,より広い範囲で活用されるよう,努力してゆきたい。

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