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これまでの助成研究・研修

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江戸期からの慣行的水利用の実態調査・研究をすすめ、新時代の河川管理、環境保全の資料として提供する。



グループ名 ナギの会 完了報告書[pdf429]
完了報告書[pdf429]
代表者氏名 渡辺 寛 さん
URL http://nagi.popolo.org/
助成金額 25万円

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
【背景】  「日本の水収支」に関する資料によれば、2001年度における我が国の水使用量(取水量ベース)は、総降雨量の12%強、約859億m3で、使用目的は、生活用水19%、工業用水15%、農業用水66%と、圧倒的に灌漑用に使われたことになっている。  各地の河川は、上流で作られたダム群のため、中流域から水がなくなる姿が見られ、渇水期は水道の節水・断水が頻発し、これを口実に新たな水源開発としてダム建設が進められている。  しかしこうした水不足という時期でも、農業用水には水が豊かに流れるという奇妙な現象がある。  一方、潅漑面積は各地で激減し、金沢市ではこの50年間で潅漑面積は80%も減少しており、地区によっては10%を切るところも出てくる。  しかし農業用水には当時のままの流量が水利権として保障され、実際には水利権以上の流量が入り込んでいる。 【経過】  石川県内23市町535団体の慣行水利権届出書を入手し分析を行った。  県内の犀川水系流域委員会を傍聴し、委員会に対して、農業用水の適正利用と水利権についての申し入れを行った。  また、犀川主要7用水の流量調査、辰巳用水の水路実態調査などを行なった。 【成果】  「慣行水利権」で守れられた農業用水の問題が、次のように明らかになった。  ●各用水への流入状況は、江戸時代の慣行のままで、河川管理者も放置している。  ●洪水期以外、取水口は開放されたままで、水利権以上の流量が入りこんでいる。  ●ダムで開発された河川維持流量は既存農業用水に入り込み、費用負担もなく利益を生じさせている。  ●農業用水の取水堰は水防上危険箇所が多く、見直しが必要である。  ●「慣行水利権」の中身は灌漑用だけでなく、様々な水利権の複合体であり、新しい慣行水利権の管理主体は、農業団体だけでは不十分で、実際の「慣行」にみあう新しい管理主体形成が必要である。 【今後の展望】  本会はこうした現状を改善するため、事実と道理に基づいて批判し、日々刻々、金沢市内で続いている河川整備事業と都市計画事業に対して、問題提起を続けていく必要を強く感じている。  そのために、法的な検証作業と農業用水の実態調査をさらに継続したい。  これまで全国でも、全く取り組まれなかった農業用水の実態解明や、慣行水利権の検討が進めば、利水面での「水不足」は解決するし、河川維持流量の確保によって河川の環境保全にも有効であろうと思う。  こうした問題は全国共通であるため、基本高水と慣行水利権の二つを解明することによって、日本の水問題を解決できるかもしれないと感じている。

中間報告

中間報告から
 国交省調査によると、河川水の使用状況(2000年)は、農業用水が約66%を占め、長年変動がない。残りの33%を他の用途(上水、工業用水、河川維持流量)として使われている。  金沢市では戦後、都市化が急激に進み潅漑面積が減少し、現在総面積は県の調査でも30%台、本会の調査では20%台になっているが、農業用水への取水量は全く変動がない。これは灌漑水が慣行水利権という既得権に守られている為である。  犀川でも新河川法によって、河川整備基本方針策定が進められ、農業用水など利水への河川水配分につき、河川管理者たる県に、様々な問題提起をおこなってきた。  つまり、既設ダムにある遊休水利権の放棄と目的転用、潅漑面積激減による取水量の見直し、農業用水に含まれているはずの潅漑以外の要素(親水、環境、景観、融雪等)の顕在化すべきで、慣行水利権を既得権として「放置」するのではなく、農業関係者や市民、行政を当事者とする新しい慣行秩序を創造し、町づくりや河川管理に生かすべきである。  水利権は取得者の私的財産であり、この見直しに触れるには、法律面の検討や利用の実態調査が欠かせない。そのため江戸期の古文書、明治期の裁判資料、土地改良区資料、水利権許認可資料、水利権や農業用水についての専門書の検討が必要となる。  こうした研究方針のもとに、用水の実態調査(取水量、潅漑面積、利用実態調査)を実施するとともに、資料収集とその精査と検討・研究を進めている。 調査研究・研修の進捗状況・計画の変更などについての特記事項  某研究所から携帯式電磁流速計を借りることが出来、犀川七箇用水の流入量を正確に計測することができた。  2年前、本会の申し入れで、県が農業用水の実態調査をしていることがわかり、全資料を入手。この報告書を検討。本会の調査とかなり違いがある。また県は農業用水への取水削減を検討会へ提案したが、農業団体への説明には「適正な取水」と表現。用水関係者は用水量が増えると誤解している。また慣行水利権本体の見直しをしない(出来ない)ため、取水量削減は不可能。この資料を前提とした河川整備計画は誤っていることが明らかになった。 《予定外追加調査》  7月に発生した新潟・福井水害が農業用水と関係があるとの情報を得て、急きょ関連を調査した。  三条市五十嵐川の中流域から取水する3つの発達した農業用水が本流の流水を減少させ、下流の三条市内の市街化を促進、河川断面が極端に小さくなり、河川の流下能力を減少させている。地元の方にも協力いただき、現在、資料収集をすすめている。  福井市の堤防決壊箇所も元は氾濫原を締め切った堤防。周辺は水田だったが現在は100%住宅地と変わっている。金沢市の都市化と同様の現象で、関連して調査を続けたい。

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の経過 2004年5月 県内の慣行水利権届出書入手(23市町535団体800枚) 2004年5月 犀川水系流域委員会傍聴、資料入手、検討 2004年6月 県作成の農業用水調査結果資料(500枚)を入手・検討 2004年6月 基礎文献のコピー(書籍、判決文等) 2004年6月 県と犀川水系河川整備検討委員会へ申し入れ      「農業用水の適正取水と水利権について」       (各界、河川周辺住民に資料提供) 2004年6月 犀川水系流域委員会傍聴、資料入手、検討 2004年7月 犀川七箇用水(主要7用水)の流量調査 2004年7月 犀川水系流域委員会傍聴、資料入手、検討 2004年8月 辰巳用水の水路実態調査(中間吐き口や漏れ水、余水等) 2004年8月 「行政裁判所水利判決集 第一巻、第二巻」入手(1,000枚) 2004年8月 鞍月用水と取水堰調査 2004年9月 新潟・福井水害の現地視察 2004年10月 犀川水系流域委員会傍聴、資料入手、検討 2004年10月 犀川水系河川整備計画説明会出席 2004年10月〜11月 2用水の潅漑面積調査 2004年12月 鞍月用水堰周辺住民の会へ用水問題報告 調査研究・研修の成果  「日本の水収支」に関する資料によれば、平成13年度(2001)における我が国の水使用量(取水量ベース)は、総降雨量の12%強、約859億m3/年で、使用目的は、生活用水18.97%、工業用水15.0%、農業用水66.1%と、圧倒的に灌漑用に使われたことになっている。(国土交通省土地水資源局水資源部)  各地の河川は、上流で作られたダム群のため、中流域から水がなくなる姿が見られ、渇水期は水道の節水・断水が頻発し、これを口実に新たな水源開発などダム建設が進められている。しかしこうした水不足という時期でも、農業用水には水が豊かに流れるという奇妙な現象を見ることができる。  一方、潅漑面積は各地で激減し、金沢市では前河川法成立(1965)から50年間で潅漑面積は80%も減少しており、地区によっては10%を切るところも出てくる。しかし農業用水には当時のままの流量が水利権として保障され、実際には水利権以上の流量が入り込んでいる。  新しい時代の水問題解決のため、国交省河川審議会は提言を行った(1999年)。  河川審議会はこの中で、「水利使用をめぐる社会経済情勢の変化」への対応として、農業用水について潅漑面積の大幅な減少に見合う「慣行水利権を含めた既存の水利使用を見直すべき」ことを盛り込んだが、慣行水利権者が許可水利への切り替えに難色を示す状況も示した。 この「慣行水利権」で保障された農業用水の姿が、金沢市内主要用水調査を通して次の点が明らかになった。 1.各用水への流入状況は、江戸時代の慣行のままである。 資料で確認できるのは、明治期に作られた「犀川七カ用水取決め」で、各取水口の幅を決め、これで取水量を決めている。潅漑面積激減でも、取水口の幅は見直されず、変わらず続いている。 2.許可水利権に切り換えられた用水も「慣行」のまま運営、取水されている。  前河川法(1965年)で、農業団体の支持をうける全国知事会の反対もあって、慣行的水使用は水利権として保障され、届出書の提出で確定するが、未提出でも慣行水利権としての権利は保障されている。許可に切り換えられたのはわずかである。石川県内では、535の慣行水利権が届出書で確定している。 3.各用水は、洪水期以外、取水口は開放されたままで、水利権以上の流量が入りこんでいる。 用水の取水口は通常は開放され、管理者は土地改良区であり、もっぱら農作業のために開閉されるが、水利権以上に過大な流入でも規制されることはない。河川によっては全量の取水も権利として許されている。 4.「慣行水利権」には河川管理者といえども手を出せず、放置状態である。   河川管理者(行政担当者)にも土地改良区にも水利権の知識がなく、混乱のある水利権行政が続いてきている。しかも農業団体は自治体首長の強い支持団体でもあり、農業水利権についてはタブー扱いになっている。 5.ダムで開発された河川維持流量は既存農業用水に入り込み、本川には流れない。   過去建設された治水、利水(上水)、河川維持水確保目的のダムで開発された水は、実際には農業用水に入り、費用を払うことなく利益を受けている。 6.農業用水の取水堰は水防上危険箇所が多く、新しい発想で見直すことが必要である。   昭和36年(1961)の第二室戸台風時に、犀川で洪水が発生したが、県の調査で、原因は農業用水堰がコンクリート化され、堰上流部河床の嵩上げが進行したためだった。しかし県は、本来の用水堰改良をせず、上流にダム建設を進めたことで、真の洪水発生の原因と対策を解明する技術とノウハウを失い、ダム安全神話が増長され、現在新しいダム建設が予定されている。 7.用水は市内を網の目のように広がり、都市景観、市民の親水、融雪など様々に利用されてきた。   慣行水利権は「一定の者が一定の流水使用を反復継続し、その慣行が社会的に承認されることによって成立する権利」とされるが、この慣行は、過去のものではなく、現在進行形のものである。現実に用水は、金沢市内を縦横無尽に広がり景観を形成してきたが、近年、主に行政によって景観は破壊され、都市用水は行政の都合によって切り刻まれている。 8.「慣行水利権」の中身は灌漑用だけでなく、様々な水利権の複合体である。   水利権は水使用に関する権利である。これまで慣行水利権は潅漑面だけから考察されてきたが、「慣行」という中には、既に熟成されている各種の権利が複合的に含まれている。 9.新しい慣行水利権の管理主体は、農業団体だけでは不十分で、利用者全体で負うべきである。   用水の実際の姿にその権利の源がある。農業従事者も少ない中、今や農業関係者だけに用水の維持管理をゆだねることは不可能で、「慣行」に見合った新しい用水の管理主体を形成する必要がある。 10.新しい管理主体形成の展望 自治体の本旨は、住民自治である。自立した市民が住民自治の担い手である。用水についての農業従事者と共に新しい「用水管理主体」へ発展的に引き継がれる必要がある。こうした中で行政が果たす役割は、住民自治原則の元に、情報の共有に基づいた調整に徹するべきである。

その他/備考

対外的な発表実績
2004年6月 県と犀川水系河川整備検討委員会へ申し入れ  「農業用水の適正取水と水利権について」   1 農業用水の適正取水と水利権について   2 鞍月用水堰上流の河道整備について   各界、河川周辺住民にも資料提供、新聞、テレビで話題になった。 2004年9月 金沢市漁協(有志)と農業用水と河川整備について懇談 2004年12月 用水取水堰周辺住民の会が発足。以後何度も講師を担当。現地調査の講師にも。 2005年2月 第47回自治体学校(7月開催:金沢市)で「用水とまちづくり」講師を依頼される。 2005年4月 自治体学校地元実行委員会で用水問題の講師。  近々中、最終まとめを行政(県や金沢市)、議会関係者、農業団体、漁協、市民団体、市民へ配布予定。 【今後の展望】  既に一昨年、本会が指摘した既設犀川ダムで、金沢市保有の工業用水の遊休水利権化問題は、県議会、市議会でも問題になり、犀川水系河川整備検討委員会や流域委員会の議論を受けて、県は金沢市に権利の返上を要請した。金沢市は学識者による検討委員会を設置、数回の会議を経て、石川県に返上の意志を表明した。  また、県は、農業用水の見直し(=減量)を発表し、河川整備計画の中にも盛り込んだものの、先述のとおり、「慣行水利権」のまま農業用水が管理されており、実質的には全く見直されず、放置され続けていくことになる。  本会はこうした現状を改善するため、事実と道理に基づいて批判し、日々刻々、金沢市内で続いている河川整備事業と都市計画事業に対して、問題提起を続けていく必要を強く感じている。  そのために、法的な検証作業と農業用水の実態調査をさらに継続したい。  また、既得権とされている「慣行水利権」を実際に運用し管理に生かすためには、単に河川管理という面だけでなく、都市計画、公園整備、環境保全など関係部局、行政の縦割りの仕組みを改めさせる必要がある。法的にも実効の面でも、現在の関係者の納得を得るため、調査資料をわかりやすくまとめて提供し、問題の所在と解決の道を広く関係者、一般市民に知らせる努力が必要である。  最近まで県の河川整備基本方針等策定の委員会が開催されていたため、河川管理者たる県を主な対象として問題提起、提言などを行ってきたが、今後は都市再開発事業、土地区画整理事業の事業主体となっている金沢市へ問題提起を行っていく必要がある。  金沢市の担当部局は河川法や河川法、中でも水利権、慣行水利権などを文字通り理解しない事業計画がいくつも進められているため、必要な批判と共に、住民自治、市民参加の視点から厳しく問題提起をしていきたい。  なお、これまで全国でも、全く取り組まれなかった農業用水の実態解明や、慣行水利権の検討が進めば、利水面での「水不足」は解決するし、河川維持流量の確保によって河川の環境保全にも有効であろうと思う。  残された治水対策については、犀川上流で計画されている辰巳ダム計画資料の検証から、基本高水を適正に設定し、既往最大洪水との比較検討を行うことで、妥当な基本高水が導き出されるはずで、犀川の場合、これによって基本高水は、900t/秒前後と計算され、既往最大洪水量に匹敵する。しかし、県の基本高水は1,750t/秒という「有史以来発生したことがない過大な洪水」になっている。これの基本高水を犀川で採用することによって、支川や他の河川との整合性がとれず、金沢市内全体の河川整備計画は混乱を極めている。  過大な洪水を前提とした誤ったハードな対策よりも、土地利用の見直し、堤防補強、遊水池確保、ハザードマップの作成と市民への公表、住民・市民参加による河川管理など、文字通りの総合治水対策を進めることで、時代遅れのダム建設に頼る必要のない河川整備が実現できることが明らかにされている。  こうした問題は全国共通であるため、基本高水と慣行水利権の二つを解明することによって、日本の水問題を解決するかもしれないと感じています。

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