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これまでの助成研究・研修

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環境的正義の視点からみた環境法・行政立法過程・住民運動−米国サンフランシスコ市ハンターズポイントにおける環境汚染を事例として【研修先:アメリカ】



グループ名 完了報告書[pdf313kb]
完了報告書[pdf313kb]
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代表者氏名 奥田 美紀 さん
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助成金額 20万円

研究の概要

2003年12月の助成申込書から
【背景】  米国カリフォルニア州サンフランシスコ市/郡の1地区、BayviewHunter'sPoint(BVHP)にある化石燃料による発電所が、住民の要望に反して閉鎖されず、稼動しつづけている現状と、BVHPのように、有色人種の居住地域に環境負荷が集中している社会的構造を明からにすることを目的として研究に取り組んだ。  BVHPの住民の9割は有色人種で(アフリカ系米国人が大部分)、この地区にサンフランシスコ市の2/3の環境負荷施設が集中している。  この結果、BVHPの胎児死亡率は途上国なみに高い。  乳がんやぜんそくを患う人の割合も高いことで知られている。 【経過】  国内での文献調査などの後、2004年7−8月に現地調査を行い、2005年3月までに修士論文としてまとめた。 【成果】  環境負荷施設の立地に際しては、「近くに病院や学校といった施設がないこと」、「地価が安いこと」などの"人種とは関係のない基準"を使って場所を選ぶというが、実際には、有色人種が住む地域の特徴と一致しており、"人種と関係している基準"であることがわかった。  発電所の運用は「合法」であるが社会的に公正ではないこと、BVHPに環境負荷が集中するようになった背景には、環境レイシズム(環境人種差別)があることが明らかになった。 【今後の展望】  ジャーナルや団体機関紙に研究結果を日本語・英語で投稿していく。  現在勤務している新聞社では、企業の社会的責任(CSR)、消費者問題、環境問題などを中心に取材している。  本研究で学んだ調査の経験、行政・企業・市民・市民団体の関係、社会的公正と法令遵守のねじれの関係など、日本国内の問題を分析する際に、クリティカルな視点から記事を書いていきたい。

中間報告

中間報告から
 SF市の一部であるにもかかわらず、SFに住むほとんどの人々が一度も行ったことがないという地域が私の調査先、Bayview Hunter’s Point(以下BVHP)である。市の人口の4%にあたる約34000人が暮らすBVHPには、驚くなかれ、市の2/3の迷惑施設が集中している。そして、このような環境汚染が集中している地域で生活する人々の9割以上は有色人種なのである。  2004年7月、私はBVHPの電力発電所の閉鎖を求める環境正義運動を調査するために現地へ一ヶ月ほど行ってきた。良好な環境を享受する権利を人々が平等に有すると考える「環境正義」の視点から、BVHPの発電所の閉鎖を求める運動の実態や、市の「予防原則条例」の施行状況について調査してきた。その結果、多くの情報収集が出来たのだが、同時に、発電所に関する複雑な政治的関係を理解するのに一ヶ月の滞在は短すぎることを痛感した。また、発電所の問題に対する草の根の運動体は一枚岩ではなく、人によって意見が異なり、インタビューから事実を探ることには非常に苦労させられた。それでも私なりに現地調査を振り返ってみると以下のことが言える。  発電所の閉鎖や代替エネルギー開発が実現しない背景には、政治的な理由があり、技術的な理由はそれほど重要ではないようである。BVHPの投票率が市内で最も低いことや、地域を代表する市議のリコール署名が無効にされたことなどを考慮すると、より一層政治力の弱い地域に公害施設は集中するのではないかと思わざるを得ない。政治力に関係がある指標として経済力、学歴などが挙げられるが、米国の犯罪取締法がアフリカ系アメリカ人に不均衡に施行され、その結果、参政権を剥奪されているアフリカ系アメリカ人が多い事実を指摘したい。今回の調査結果をいかに発電所の閉鎖に役立てるかだけでなく、その背後にある差別的社会構造の解明にも役立てたいと思う。 調査研究・研修の進捗状況・計画の変更などについての特記事項 助成金の使い道について  Japan-United States Friendship Commissionの“Research-Travel Grant program for American Studies M.A. Students”から米国における現地調査代として20万円の助成金をいただくことが出来ましたので、7月に行った現地調査に関しましては、こちらを使いました。この20万円を超えた分のみ、高木基金の助成金を使わせていただきました。    大学院の修士論文とは  最近、「少しでも私の論文によって社会にインパクトが与えられたらいいのですが…」と大学関係者に言ったところ、「論文を世に送り出すということは、紙くずが増えるだけだ。」と言われました。このような回答が返ってくることを予想していなかったわけではありませんが、この後少々落ち込みました。「紙くずを増やす」という表現は極端すぎるかもしれませんが、自分が学位を取るためだけに論文を執筆するのはとても無意味だと思います。高木基金の精神をいつも頭に思い浮かべながら(高木久仁子さんの「第3回助成選考を終えて」のメッセージを目のつくところに貼って)、社会にポジティブなインパクトが与えられる研究を目指して努力しております。このような思いを共有できる人々が(学生だけでなく教員も含めて)私の通う大学院にはあまりいないのが残念です。ガンジーの有名な言葉に “Be the change you want to see in the world.”というのがありますが、今の私は、この「Change」になれるよう努力しております。

結果・成果

完了報告から
調査研究・研修の経過   ?2003年12月 足尾銅山視察  ?2004年1月 世界社会フォーラムへ参加  ?2004年1月?2005年1月 文献調査  ?2004年4月 水俣フォーラム参加  ?2004年6月 来日中の環境問題に従事する活動家へインタビュー         シンポジウム「環境リスクと予防原則」へ参加        「明日のコミュニティを創る協働というアプローチ」へ参加        予防原則についての講演会へ参加  ?2004年7月?8月 現地調査(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)  ?2004年11月?2005年3月 修士論文執筆  ?2005年4月?論文の校正、製本  ?2005年5月?ジャーナルや団体機関紙に研究結果を投稿 (日本語・英語で)   調査研究・研修の成果  本研究は米国カリフォルニア州(以下加州)サンフランシスコ(以下SF)市/郡の1地区、Bayview Hunter’s Point(以下BVHP)にある化石燃料による発電所が、住民の要望に反して閉鎖されず、稼動しつづけている現状と、BVHPのように、有色人種の居住地域に環境負荷が集中している社会的構造を明からにすることが目的である。  BVHPの住民の9割は有色人種で(アフリカ系米国人が大部分)、この地区にSF市の2/3の環境負荷施設が集中している。この結果、BVHPの胎児死亡率は途上国なみに高い。乳がんやぜんそくを患う人の割合も高いことで知られている。  本研究から明らかになったことは、第一に、発電所の運用は「合法」であるが、社会的に公正ではないこと、第二に、BVHPに環境負荷が集中するようになった背景には、環境レイシズム(環境人種差別)があることだ。  発電所の閉鎖に関しては、?州の発電所や電力の管理をしている団体(ISO)?発電所の所有企業(PG&E)?サンフランシスコ市/郡の行政?発電所からの排出物をモニタリングする団体(BAAQDM)?地域住民や環境NGO?の5つのアクターが関与している。これらのうち、???は「Reliability Must Run Agreement」という協定を結んでいて、SFを含む“広範な”地域に十分な電力が供給されるまでは、BVHPの発電所は閉鎖しない姿勢をとっている。この結果、SFの人々がいくら節電に努めBVHPの発電所は不要だと訴えても、広範な範囲を対象にしている協定の下では、発電所の閉鎖は認められない。また、「十分な電力供給」は、加州でおきた電力供給企業の価格操作による停電が多発した2000年を基準にしていて、住民からは信頼できない基準だと批判されている。住民が納得できない内容を盛り込んだ協定は、その協定内容から最も影響を受ける周辺住民の声を反映せずに採択されていた。住民からのいかなる閉鎖理由も、「協定」という合法化されたしくみのもとで却下されている。発電所の稼動は合法であるが、その結果、ISO、SF行政、PG&Eは、BVHPの住民の健康被害を黙認していることになる。これは社会的に公正ではない。 BVHPには発電所だけでなく、市の8割の下水が流れ組む下水処理場、核廃棄物などが埋め立てられている危険性の高い旧軍港跡地、高速道路が位置している。このように有色人種の居住地域に環境負荷の高い施設が集中している背景にはレイシズムがある。しかし、この差別構造は巧妙に操作されていて、差別だとはわかりにくい。環境負荷の恐れのある施設の立地先を探す際、立地する側(立地を許可する側)は、“人種とは関係のない基準”を使って場所を選ぶという。これらの基準は、近くに病院や学校といった施設がないこと、地価が安いことなどである。確かに、これらの基準は人種を基準にしていないように見える。しかし、「病院や学校がない地域」は、社会的な資源(サービスなど)が欠如した地域のことであり、一般的に地価が安い貧困層が住む傾向の強い地域を指す。BVHPには病院も高校もなく、貧困層や有色人種の人々が多く住んでいる。このように、“人種とは関係のない基準”は、実は、“人種と関係している基準”であり、有色人種が住む地域の特徴と一致していることがわかった。

その他/備考

対外的な発表実績
東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻国際環境協力コース図書館に修士論文(改定版)を寄贈 (2005年4月) AGS(Alliance for Global Sustainability) UT SC (University of Tokyo Student Community) 環境系研究発表会 (2005年3月26日) 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻国際環境協力コース 修士論文最終発表会 (2005年2月4日) 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻国際環境協力コース 修士論文中間発表会 (2004年9月28日) 東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻国際環境協力コース 修士論文プロポーサル発表会 (2004年6月4日) 今後の展望 本研究の継続の予定 環境と正義(日本環境法律家連盟の機関紙)に投稿予定。 英語のジャーナルに投稿予定。掲載されたものを取材協力者に送付予定。 現在勤務している新聞社では、企業の社会的責任(CSR)、消費者問題、環境問題などを中心に取材している。本研究で学んだ調査の経験、行政・企業・市民・市民団体の関係、社会的公正と法令遵守のねじれの関係など、日本国内の問題を分析する際に、クリティカルな視点から記事を書いていきたい。

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