高木仁三郎市民科学基金 助成研究の概要 (2006年度実施分)


グループ名:原発老朽化問題研究会
代表者氏名:湯浅 欽史さん
研究テーマ:「高経年化(技術)評価報告書」の
詳細な批判的検討
 助成金額:100万円

研究の概要:2005年12月の助成申込書から
 途中経過:2006年10月の中間報告から
結果・成果:2007年4月の完了報告から

2007年6月の成果発表会にて
<参考>
これまでの助成研究:2008年度実施分
関連する助成研究:2003年度実施分2004年度実施分

研究の概要 : 2005年12月の助成申込書から

運転開始から30年を経た原発に対しては、10年ごとに実施されている定期安全レビューにあわせて高経年化に係わる技術評価とそれに基づく長期保全計画を策定することが事業者に義務付けられている。現在までに9つの原発の高経年化技術評価報告書が国に対して提出されている。申請する研究活動は、この事業者の評価報告の批判的検討である。

このためには、その評価の基準となっている規則(告示)に関する調査も必要となる。原子力発電所を建設(大規模改造・修理含めて)するときには、電気事業法(41,42,48条)によって国の定める技術基準(通商産業省令62号)に適合していることが求められている。この技術基準のうち構造に関する技術基準は告示501号で規定されている。この告示501号は1970年に定められ、'80年と'94年に全面的な改定が行なわれた。さらに、維持基準が導入された結果2006年1月1日に廃止される予定で、日本機械学会の「設計・建設規格」が代わりに採用さることとなった。したがって、高経年化技術評価の対象原発がどの規則に基づいて設計・建設されたかを知ることが、報告書を批判的に検討するときに必要となるのである。そこで、あらかじめ全54基の原発に関して設計・建設時に適用された技術基準を調べておくこととする。

事業者の提出した高経年化技術評価報告を、建設時に適合させていた技術基準とその後の改定を含めた新しい技術知見とを比較しながら、当該報告書の詳細な批判的検討を行なう。

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 途中経過:2006年10月の中間報告から

(1)定例的な研究会の開催

毎回十名余りの参加者を得て、以下のように、定例的な会合を6回開いてきました。

(4/12、5/17、6/21、7/26、8/22、10/3)

熱心な議論が続くので、2時間の予定が3時間をこえることもしばしばでした。

計画的に進められている課題(下記参照)を中心にして、時に発生する事故・故障の時事的報道についても、その発生経過や原因など技術的な問題点を検討してきました。後者に属することでは、例えば、再循環系配管の渦電流探傷試験の精度問題(試験データから亀裂が読み取れなかった)や浜岡5号炉におけるタービン動翼の破損問題(乱流による高サイクル振動を避ける設計となっていなかった)などが上げられます。

(2)古い原発が準拠した基準類

老朽化した原発の諸症状を吟味するにあたって、古い原発がどのような技術基準に従って製作されてきたのかを知っておく必要があります。とくに、告示501号(1980)決定以前の約25機の原発については、原発毎に様々であろうと思われます。

そこで、技術基準に係る法体系、技術基準の変遷/ASMEとの対比、機器構造別の規格基準体系、を時系列に並べて比較検討しました。次に、各原発機器のメーカー・適用法規等一覧表を作るためのフォーマットを検討しました。このデータ資料は「高経年化評価報告書を批判的に検討するためのベースとなります。将来的には全ての原発を対象にするとしても、当面、古い原発である福島第1原発1号炉と敦賀原発1号炉を例に、作業を進めることにしました。

(3)金属学会での発表

沸騰水型原子炉圧力容器材の異常照射脆化に関する研究内容を、新潟大学で開催される金属学会において発表するために、当研究会でその内容を検討しました。(発表は井野博満・上澤千尋・伊東良徳の3名で、9月18日に行なわれました)。

(4)浜岡裁判への寄与

当研究会会員である田中三彦、井野博満が浜岡原発の運転差し止め訴訟で証言することの要請を原告側および代理人から受けましたので、証言内容を討議し、各証人の陳述書の準備作業に協力しました。二人が証人として陳述した公判は静岡地裁で9月8日に行なわれました。

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結果・成果:2007年4月の完了報告から

当研究会は原子力資料情報室の企画により、そのスタッフに加えて、原発関連の設計技術者や原発訴訟に携わる弁護士の参加を得て、"現場"の緊迫感溢れる議論を03年から毎月続けてきている。高木基金から第2回/第3回の助成を得て、シュラウドの応力腐食割れ、圧力容器のアンダークラッドクラッキング(UCC)、加圧熱衝撃、炉心材料の中性子照射脆化、配管のエロージョン・コロージョンと減肉管理、などについて研究を重ねてきた。

それらの活動を基盤として他方では、柏崎刈羽原発・設置許可取消し訴訟と浜岡原発・運点差止訴訟への協力や、技術雑誌『金属』への原稿掲載、技術者集団である現代技術史研究会での発表、といった社会的貢献を果してきた。その成果をまとめてB5版115頁の冊子『老朽化する原発−技術を問う−』を05.3に刊行し、原子力長計策定委員全員に配布して、その席上で批判的意見を展開する根拠として役立てた。

一方、国はシュラウドや配管系でのひび割れ発覚を逆手にとって、基準に則った安全対策をとるのではなく、老朽化の実態を容認すべく維持基準を導入した(2003年に施行)。電力各社は原発の新規立地の困難に加え、電力自由化に直面して、老朽原発の寿命を延長して運転し続けなければ原発が経営を圧迫する事態になっている。国は、老朽原発の寿命を延長したい場合は、30年までおよびその後10年まで毎に「技術評価報告書」を提出することとした。

技術評価書を入手するとともに、そのための準備作業として建設時に依拠した技術基準について調査を開始した。これを一覧表にするべく、新たなソフトを購入、フォーマットを検討して作成した。内容の書き込みは今後の課題となっている。

他方、老朽化研究会で検討してきな内容を金属学会で発表した。また、裁判に対しては研究会活動を通しての協力に加えて、メンバーの井野博満、田中三彦の両氏が原告側証人として証言した。金属学会での発表内容を原子力資料情報室通信で公表するとともに、公開研究会を開催して発表した。


◆  助成研究の完了報告書 PDF 20KB ◆  会計報告 PDF 5KB
◆ 研究レポート
『「高経年化(技術)評価報告書」の詳細な批判的検討』 PDF 474KB
<助成報告集Vol.4,2007掲載>


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