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「情報公開・公文書管理問題から見えてくるもの」

  三木 由希子さん(情報公開クリアリングハウス理事長)

高木基金の助成先であり、長年にわたり公的機関の情報公開の問題に取り組んでいる「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子さんにお話を伺いました。
(インタビュー実施日:2018年10月/聞き手:高木基金事務局長 菅波 完)



― 最近の国会論戦では、PKO派遣の日報問題や、森友・加計学園問題など、公文書管理の問題が焦点になりました。三木さんは、長年、この問題に関わってこられたことから、新聞などでもコメントを求められる場面が多かったですね。

三木 この間の議論では、記録があるのかないのか、公開するかしないかが、与野党対決のクライマックスのようになっていましたが、もっと腰を据えた調査が必要だったと思います。
 この間の問題を受けて、あらためて考え、調べてみましたが、行政の実務レベルの文書や記録は、それがないと仕事が回らないので、どんなかたちであれ、必ず残ります。情報公開請求などをして、最近分かってきたことは、高いレベルの記録、例えば、首相や大臣、政務官などがどんな指示を出したのか、ということは、実際、あまり残っていないということです。

― それは現政権だからではなく?

三木 昔からのようですね。いつ誰に会ったのかといった日程表などは、実際、民主党政権時代の閣僚経験者の方に聞いても、属人的にはあるようですが、行政文書として体系的に残すというかたちにはなっていないようです。

― PKO部隊の日報など、保存していないはずはないし、現場の記録がきちんと保存されていなければ、まともな政策判断ができないと思いますが。

三木 日報は、一つの一次情報ですが、PKO派遣などについては、現場からの情報だけでなく、もっと大きなレベルの様々な情報、たとえば米軍サイド、あるいはオーストラリアやイギリスからも情報を収集したりして、それらを評価・分析し、政策判断するというプロセスが必要です。結局、一次情報から政策判断までのプロセス全体が保存されていなければ、政策判断の検証はできません。撤退や中止をしなければいけないという状況になったときに、その判断ができることが担保されていないなら、部隊を送ってはいけないわけです。
 第2次大戦の時、日本軍の戦死者が他の国に比べて非常に多いのですが、それは、負けたからということだけではなく、「ここまで戦死者が出て、人員が欠けたときは敗戦を認めて撤退する」という合理的な判断ができるような組織ではなかったという問題でもあると思います。
 PKOのことでも、適切に判断ができるように情報が集められていたのかを検証する必要があります。判断のプロセス自体に合理性が必要ですが、これが政策判断の合理性につながります。それを漠然とやっていても仕方がないので、記録や文書をベースに蓄積していくということが、行政のボトムラインのはずです。

― 状況に応じて、政策判断を変えていくことは、当然必要だと思いますが、日本の行政は、一度決めたことをなかなか変更しようとしません。

三木 それは、政権交代をしてきていないこととつながっていると思います。マイナーな政策変更はあるとしても、政権が変わることによって、ミッションと政策が異なる政権ができて、行政組織が、新しい政権のもとで仕事をするという経験は、数えるほどしかありません。また、行政の末端で政策を変えろと言っても、高いレベルで政治が変わらなければ、現場だけでは動けないという面もあります。
 最近の公文書管理の問題は、行政の末端の失態でもありますが、政治的な意思があり、それを守ろうとしてやっている面もあります。結局は政治の問題であり、議員を選んでいる私たちの問題でもあります。

― 政治の劣化が、情報管理を後退させている訳ですね。実際、NPO の活動や、「市民科学」にかかわる調査研究でも、公共事業や政策に関して、情報公開で苦労をすることがよくあります。

三木 行政の人は、上手に質問するとちゃんと説明するという面もあります。私は、情報公開問題で行政相手に裁判を起こしたりもしている割に、普通に話もしています。行政の人は、適切な質問をすると、適切に答えようとする本能があるんですよ。

― 「朝ごはん食べた?」じゃダメなんですね。

三木 行政側の言い分に賛同できるかどうかは別として、最低限、行政運営への合理的な制度理解と共通言語をもつことが大切ですね。
 行政職員は、要求や主張ばかりをするような人には、話を聞く姿勢だけは見せて、実際には、聞き流すだけということがあります。また、的の外れたところで批判されていても、実害がなさそうなら、反論もせずに言わせておく、ずるさもあります。
 やはり、コミュニケーションは、いかに情報を引き出すかが一番大切です。行政の職員を前にした時も、いかに合理的な質問をして、情報を引き出すか、ということに知恵を絞ることが重要だと思います。
 逆に、漠然と情報公開を求めると、かえって、すすまなくなってしまうようなこともあります。具体的に、これが必要だということを「焦点化」していくことが大切です。
 情報公開についても、制度をつくるまでは、「べきだ」論でいいのですが、制度ができたあと、それを活かすためには、どうしても専門的でわかりにくい世界になります。政策の全体がおかしいとか、漠然と大きなものを問題にするのは簡単ですが、それでは、実は自分たちの安全圏を出ていないんです。政策のここを変えれば、こう変わるはずだ、というところまで具体的に想定して要求していくことは簡単ではありませんが、NPO などがそれぞれの分野で、そのようなレベルアップを目指していく必要があると思っています。その上で、自分たちが取り組む課題に関して、こういう判断をするには、こういう情報が明らかにされなければならないといったことが、NPOの本来の活動に組み込まれていくようになってほしいと思います。

― そうですね。心がけていきたいと思います。ありがとうございました。

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