高木基金について助成応募の方法これまでの助成研究・研修高木基金の取り組みご支援のお願い

高木基金の取り組み

トップページ > 高木基金の取り組み > インタビュー > 渡辺 直子さん

「モザンビークの小農から
     日本の私たちが学ぶべきこと」

  渡辺 直子さん(「モザンビーク開発を考える市民グループ」日本国際ボランティア
  センター 南アフリカ事業担当/地域開発グループマネージャー)

日本の官民が関わるモザンビークでの農業開発問題で、2015〜2017年度に高木基金の助成を受けた「モザンビーク開発を考える市民グループ」の渡辺直子さんにお話を伺いました。
(インタビュー実施日:2020年9月/聞き手:高木基金事務局長 菅波 完)



― 問題となった「プロサバンナ事業」とは、そもそもどのようなプロジェクトだったのでしょうか。

渡辺 モザンビーク、ブラジル、日本の「三角協力」による大規模農業開発事業として2009年に合意されたもので、モザンビーク北部の広大な地域で大豆を栽培して、それを日本の商社が買い付けるというものです。事業としては、@大豆の改良品種開発のための調査研究、A長期間にわたる農業開発のマスタープランづくり、B小規模な農業支援と、その手法のモデル化という3つの柱がありました。
 この事業を主導してきたJICAは、2010年のニュースレターで、途上国での農業開発を支援し、生産された大豆を日本に輸入することが、日本の食料安全保障にも寄与するという考え方を示していました。
 もともと1970年代にブラジルの熱帯サバンナを一大穀倉地帯に変えたという「セラード開発」がモデルとなっていますが、モザンビークでも、従来からの小規模農家(小農)の農業は低生産であり、海外の市場と結びついた大規模農業こそが「持続可能」であるという考え方です。


2018年7月の成果発表会の当日配布資料から。
この資料は、以下のリンクからダウンロードできます。
http://www.takagifund.org/admin/img/sup/rpt_file10390.pdf

― この問題に取り組んだきっかけを教えてください。

渡辺 2012年10月に、現地最大の小農組織であるモザンビーク全国農民連合(UNAC)が、プロサバンナに関する声明を出しました。UNACは、この開発で土地が奪われ、環境が損なわれる懸念があるが、事業のすすめ方が不透明である。本来、モザンビークは、自分たち小農の主体的生産によって農業の発展を目指すべきだと訴えました。
 この事業を日本の官民がすすめていることから、日本でアフリカ問題に関わるNGOや研究者に協力要請があり、それから私たちがこの問題に取り組むことになりました。
 当時、JICAは、盛んに企業向けの投資セミナーを開催していました。これから「未開」のモザンビークで、大規模な農業開発を行います。日本はこんなに大豆を食べていて、特に遺伝子組み換え(GM)ではない大豆が好まれますが、世界の大豆の90%はすでにGMであり、モザンビークでは、新たに大豆生産を行うので、GMではない大豆が育てられます、とアピールしていました。
 実はその前年頃から、モザンビークでは海外の企業などによる土地収奪が発生しつつありました。

― この事業の問題はどこにあったのでしょうか。

渡辺 実はそれが簡単ではありません。
 当初、地元の小農たちが問題にしたのは土地収奪でした。
 これは二つのかたちがあり、一つはポルトガルやブラジル、ノルウェー、南アフリカの企業等がいきなりモザンビークに入ってきて、農民から土地を奪い、大豆栽培を始めるもの。もう一つは、それ以前からユーカリの植林などで土地収奪が問題になっていたところを、ユーカリから大豆栽培に切り替えるものでした。
 現地からの協力要請を受けて、2012年12月に、私たち日本の市民団体とJICA、外務省との協議が始まりました。そこでのJICA側の説明は、プロサバンナは小農のための事業であり、対話をしながらすすめる、というものでしたが、その後の事業は全く違うかたちですすめられ、実際には嘘の上塗りの8年間でした。
 2013年3月には、JICA側が「ない」と説明していた、マスタープランのドラフトがリークされました。そこでは、小農主体の農業ではなく、小農の移転を伴う大規模農業開発の構想が示されていました。これはおかしいと小農たちが声を上げたことで、その後、マスタープランには、家族農業が大切であり、環境保全にも貢献するということが書かれ、大規模農業開発の構想は消えました。
 しかし、事業者側は一貫して小農とその農業を見下しており、事業によって小農を豊かにする、小農こそが「変わるべき存在である」という姿勢でした。小農にとって、この問題は、自分たちがモザンビーク発展の主体であるはずだという「尊厳」と「主権」を勝ち取る戦いでした。

― 今年7月に、突然、事業が「完了した」と発表されました。実際には何が起こったのでしょうか。

渡辺 私も本当に驚きました。事業の3つめの柱であったモデル事業が今年5月に終わっていましたが、これをもって事業全体が「完了」したと政府が公表しました。しかし、本来2013年に終わる予定で、事業の根幹であるマスタープランが完成していません。実際には事業の断念であり、頓挫なのです。
 これまでJICAや外務省とは何度も協議を行ってきましたが、この段階で終わる話は全くありませんでした。実は「完了」が公表される一週間ほど前に、国会議員とともに、外務省・JICAから、今年度の予算の詳細についてヒアリングをしていたばかりでした。
 今回の事業中止の背景には、モザンビーク国内でこの事業に違法という司法判断が下されていたことがあります。現地の弁護士会が、プロサバンナ調整室を所管する農業省を相手取り、この事業は小農たちの「知る権利」を侵害していると訴え、現地の行政裁判所がこれを全面的に認め、10日以内に関連資料を全面開示するよう命じました。
 私たちは、現地で「違法」とされた事業に、日本側から資金を出し続けて良いのかと追及してきましたが、JICAと外務省は、これは現地の問題だと逃げていました。問題となった、「プロサバンナ調整室」は、現地農業省内にありこそすれ、実態はJICAが創設、雇用スタッフを派遣し、運営資金を拠出してきており(2014〜2018年で約1億3000万円)、「JICAそのもの」です。また、そもそも現地で違法判決が出た事業に正当性はありません。実際には事業撤退の機会をうかがっていたのかも知れません。

― 渡辺さんたちのグループが取り組んだ調査研究の内容はどのようなものだったのでしょうか。

渡辺 私たちの調査研究では、グループ内で分担をしながら、@現地調査、A文献調査(情報公開)、BJICAや外務省との協議、政策変更の提言、C日本側での理解を広げるための情報発信の4つに取り組みました。
 私は主にA以外を担当しました。情報公開請求では、JICA、外務省から開示される文書は黒塗りばかりでした。それでも、JICAが現地のコンサルタントを雇い、地元の市民団体などを、事業に好意的か、敵対的かで4色に色分けしていることが明らかになりました。事業者側は、好意的な住民だけを囲い込んで、「市民社会対話メカニズム」と称していましたが、これはまさに市民社会の分断です。

― 日本のダム開発や原発立地で行われてきた悪しきノウハウが輸出されたのは、実に恥ずかしいことですね。

渡辺 本当にそう思います。

― 渡辺さんは、これまでモザンビーク現地での調査を行ってきたわけですが、2017年には、現地でのアフリカ開発会議(TICAD)に参加するために申請したビザが発給されず、モザンビークに入国できないという事態になりましたね。

渡辺 これは本当に不本意なことでした。外務省を通じた申し入れ、Change.orgでの署名活動等、多くの方からの応援もいただきましたが、結局、ビザは発給されず、TICADに参加して農民たちの声を会議に参加した各国の閣僚などに届けることはできませんでした。しかし、日本のNGOスタッフの一人である私が会議に参加することすら認めないモザンビーク政府の姿勢が明らかになり、結果として、この事業の問題性が浮き彫りになったと思います。

― プロサバンナの問題は、これで「終わる」のでしょうか。

渡辺 そうではないと思います。プロサバンナの終了後、現地の小農運動のリーダーであるコスタ・エステバンさんは、「A luta continua por sempre.(戦いは永遠に続く)」と訴えています。「戦いは続く」は以前からのスローガンですが、「永遠に」は今回付け加えられたものです。
 さらに私たちが心配しているのは、モザンビーク北東部で三井物産などがすすめている天然ガス開発です。現地では土地収奪、環境破壊、水産業などの生業破壊が生じています。さらにISを標榜する武装勢力が台頭して政情不安が深刻化し、20万人以上の国内避難民が発生しています。この事業も日本の官民協力によるモザンビーク開発の一環であり、日本の私たちが注視していくべき問題です。

― 要警戒ですね。それとともに、日本の社会のあり方を考え直さなければならないように思います。

渡辺 モザンビークの小農たちは、自分たちが求めているのは利益ではなく、自分たちの尊厳であり、主権なのだと訴えました。今の日本社会の「主権意識」の希薄さを思うと、モザンビークの人たちの方がずっと進んでいて、私たちが学ぶべきことがたくさんあると思います。
 国連で家族農業の重要性が認められるようになったのも、世界的な小農運動であるビア・カンペシーナが国連に提起して、他のNGOも加わって議論して、国際的な規範にしてくれたわけです。自分たちの運動を一つのことに終わらせず、世界的に連帯して政策に反映させました。私たちが市民として、日本の立場で、これをどう受けとめるかが問われていると思います。

― まさにその取りですね。とても重要なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


HOME | 助成応募の方法 | これまでの助成研究・研修 | 高木基金の取り組み | ご支援のお願い | 高木基金について
ENGLISH  | サイトマップ | お問い合わせ 個人情報の取り扱い