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「核をめぐる強者の論理を歴史研究から解き明かす」

  高橋 博子さん (奈良大学教授)

アメリカ史がご専門で、ビキニ水爆実験の問題など、核に関わるアメリカの議会資料などを丹念に分析しておられる橋博子さんにお話を伺いました。
(インタビュー実施日:2022年3月1日/(聞き手:高木基金事務局長 菅波 完)


――高橋さんは、高木基金の直接の助成先ということではありませんが、ビキニ水爆実験にかかわるマーシャル諸島の研究に取り組んだ竹峰誠一郎さん(高木基金の第1期:2001年度助成先)や太平洋核被災支援センターの研究とのつながりが深いということで、高木基金として、いつかお話を伺いたいと思っていました。
 まず、高橋さんが、核をめぐる問題を研究することになったきっかけを教えてください。

高橋 私は高校時代がちょうど米ソ冷戦のさなかで、いつ核戦争が起こるかわからない、第三次世界大戦が起こるかも知れないという恐怖を感じていました。
 私はもともと歴史、特に世界史が好きで、同志社大学で文化史学を専攻しました。特に、冷戦の当事国に関心を持ち、「マッカーシズムと宣伝効果」というテーマを卒業論文で取り上げました。論文執筆のために、国会図書館でアメリカ議会の公聴会の議事録を収集して分析しました。

――アメリカ議会の議事録が日本の国会図書館にあるんですか?恥ずかしながら、はじめて知りました。

高橋 あるんですよ。大学生の時、祖父母が東京にいたので、国会図書館に通って資料を集めましたし、同志社大学アメリカ研究所にも研究資料がたくさんあるので、それをもとに、1940年、50年代の政治外交の調査を始めました。
 もう一つ、貴重な経験だったのは、大学院生の時の朝日新聞大阪本社のアルバイトで、当時、まだできたばかりの新聞のデータベースに記事を登録していくために、朝日新聞大阪版の1945年から54年の記事から、核問題に関わる記事を一つひとつピックアップする仕事を担当しました。この経験も自分自身が核の問題を主な研究テーマにすることにつながりました。
 この時期の新聞を、毎日、見ていく仕事でしたので、1945年から生きているような気持ちになって、歴史学をやっていてよかったなと思いました。

――貴重な勉強になりましたね。

高橋 新聞に「サザエさん」が連載されていた時代で、それを見るのも楽しみでした。

――ところで、今年の年明け早々、核兵器を保有する米英仏中露の5 大国の首脳が共同声明を発表しました。これについては、どう考えておられますか。

高橋 「核戦争に勝者なし」という部分から、この声明を前向きに受けとめるのが大方の見方ですが、声明文を読めば読むほど、報道と原文とのギャップに驚きます。
 私は、この声明は、旧連合国軍による「核抑止体制」勝利宣言のようだと受け止めました。「核抑止体制」を存続させるためなら5カ国の思惑が一致する、ということです。核拡散防止条約(NPT)第6条を守っていないではないか、という批判に対抗して、「NPT 第6条を守っている」と反論するアリバイ宣言でもあります。
 この声明では、「核兵器の使用は広範囲にわたる結果をもたらすので、核兵器が存続する限り、自衛目的、攻撃、そして戦争阻止の任務を果たすべきであることも確認した」ということで、核兵器の積極的意味を確認しています。

  共同声明の該当部分:As nuclear use would have far-reaching consequences, we also affirm that nuclear weapons.for as long as they continue to exist.should serve defensive purposes, deter aggression, and prevent war.

――この声明は、予定されていたNPT再検討会議が、コロナで延期されたために、声明だけは発表したというものでしたね。

高橋 明らかに1月に開催が予定されていた核兵器禁止条約の第1回締約国会議を意識して出されたもので、これに対して先手を打ったものだと思います。「核戦争に勝者なし」はその通りですが、自衛のための核は必要だということをあらためて主張したものです。
 そもそも、NPT の第6 条は、「… 全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」とされていますが、約束しているのは誠実に交渉することで、軍備縮小を約束している訳ではありません。

  核拡散防止条約 第6条:各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。

――何もしていないことを正当化しようとするだけの宣言ですね。一方ロシアは、ウクライナでは核によって他国を威嚇しているわけです。時代が逆行したように感じます。

高橋 話が少し変わりますが、私がここ数年、資料を収集しているのは、アメリカがすすめてきた、特殊兵器としての放射能兵器開発の問題です。
 私は、アメリカは放射線の影響を隠したがるだけかと思っていましたが、逆に、放射能によって、人を殺したり、人が住めないようにしたりすること、つまり放射線による攻撃の研究も行われていたんですね。
 特殊兵器計画は、マンハッタン計画が終わったあと、1947年にアメリカ原子力委員会も関わるかたちで研究が進められました。

──それは今でも続いているのですか。

高橋 公には続いていないことになっているんですが、実は続いているのではないかと私は考えています。特殊兵器計画は、組織としては、1950年後半に終わっています。しかし、その後続の組織があり、現在は、「核脅威削減局」という名称です。

――核脅威削減のために、核脅威の研究を続けているという論理なんでしょうか。

高橋 放射性物質が兵器として使われる場合に備えるということで、いわゆる、NBC 兵器(核・生物・化学兵器)対策を研究する組織として続いています。いまは防御のためということになっていますが、1940年代の資料では、offensive、つまり攻撃の兵器として、放射能兵器が議論されていました。

――いまロシアはウクライナの原発を占拠して、いざとなれば放射能を拡散させるぞというかたちで、ウクライナに降伏を迫っています。まさに放射能兵器開発と同じ思想であり、アメリカもそれを研究してきたということですね。

高橋 私自身は、2016年に、今中哲二先生のプロジェクトで、はじめてウクライナを訪れました。すでにクリミアの占領があり、緊張が高まっていた時期でした。ちょうど8月26日に、ウクライナ独立記念日の軍事パレードがあり、はじめて軍事パレードというものを目にしました。人々は楽しそうに、家族連れで見に来ていたりして、ロシアからの独立を歓迎している雰囲気を感じました。もう一つ印象に残ったのは、地下鉄のエスカレーターがすごく長くて、地中深いところに地下鉄があるんです。ワシントンDCのメトロもものすごく深くにあります。これは核戦争を想定した核シェルターとしてつくられているんだと思いました。
 これらは冷戦の遺物だと思っていたのですが、いままさに、過去の遺物だったはずのものが、ウクライナの人々のシェルターになっているということに衝撃を受けています。

――一週間で避難者が50万人を越え、戦争とはこういうことかと思いました。そのような状況において、あらためて核兵器禁止条約への思いを聞かせてください。

高橋 そうですね。だからこそ、核兵器禁止条約が大切だと思います。冷戦が終結したあとに、核兵器に頼らない世界になるのではないかと期待しましたが、実際には、逆行する流れが未だに続いています。
 核兵器禁止条約の大切なことは、声を上げ、賛同している国は、植民地になっていた国や、被ばくをしても隠されていた、グローバルヒバクシャの最前線にいるような国だということです。危険にさらされている人たちは、白人ではない人たちがほとんどです。具体的には、イギリスの核実験場であったキリバス、ソ連の核実験場であったカザフスタン、被ばく兵士を多く生み出しているニュージーランド、そのような国々が賛同している。核兵器を持っている国の5カ国の声明とは全く逆です。
 地球の地図を見ればわかるように、これは南半球から北半球への異議申し立てだと思います。いままでの歴史のあり方を見直すべき時代が来ている、ということを象徴するのが核兵器禁止条約だと思います。

――まさにその通りですね。

高橋 気になるのは、ウクライナをめぐって、ドイツやアメリカ、NATOが武器援助をするという構図になっていることです。それ以外の解決がないかのように、お互いに追い詰めあっている気がします。日本の政治家も、戦術核が使えるというようなことを言っている時点で、プーチン大統領と同じ論理に乗ってしまっていることに気付かなければいけないと思います。
 安倍元首相の核認識も同じで、本気で核保有をしたがっていると思います。非常に危ない発想です。

――まさにその通りだと思います。話題が変わりますが、今回、高橋さんのお話を伺いたいと思った動機の一つは、Facebook に書かれていた、クリスマスのエピソード(次頁)です。歴史資料を調べることの醍醐味を感じましたし、この話をぜひ、若い研究者や高木基金の支援者の方などにも紹介したいと思いました。

高橋 ありがとうございます。あの頃、私は、アメリカに数年住んでいて、アメリカ国立公文書館に通い詰めて、それに基づいて博士論文を書きました。

――ここで出てくるアーキュビストというのは、いわゆる図書館の司書さんと思って良いのですか?

高橋 単なる司書ではなく、文書専門官という立場です。国立公文書館でのリサーチは、そこに行けば何かが見つかるということではありません。Facebookにも書いたように、Finding aidというのが重要です。文字通り、「資料を見つけるための助け」で、資料の名前が書かれたリストを見て、資料のボックス、ファイルを特定して、それを請求していくという手続きです。調査をしていく中で手がかりをつかんでさらなる資料につながるというのが調査なので、リサーチャーが目的の資料を探せるようにガイドをしてくれるアーキュビストの役割が重要なんです。
 アメリカ公文書館には、“Preserving the past to protect the future”という言葉があります。過去を保全することが未来を守ることなんだということです。とても大切な考え方だと思います。

――アメリカのそのようなところは学ぶべきですね。

高橋 私もアメリカに対して、かなり批判的な研究とされるものをやっていますが、それができるのは、関連の文書がきちんと残されていて、その価値を大切にする研究者、ジャーナリスト、アーキュビスト、そして市民がいるからこそ、だと思います。アメリカの民主主義はこうして守られるんだなと実感します。

――そのような研究姿勢を、教え子のみなさんにもぜひ伝えていただきたいと思いますし、高木基金への応募も呼びかけていただければと思います。

高橋 そうですね。核問題に関心を持つ学生も、最近、増えてきています。

――核問題に限らず、アカデミズムのあり方、社会政策の歪みをとらえて欲しいと思いますし、そういうことを資料に基づいて分析することは、本当に大切だと思います。

高橋 市民としての視点が大事だと思うんです。奈良大学で学んだ学生が、必ずしも研究者になるわけではなくて、みんな市民になるわけです。市民として、情報を入手する、調べる姿勢を身につけることが大切だと思っています。

――今日は、本当にいいお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。


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