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杉並病を始めとした環境汚染による健康被害の病像パターン分析



グループ名 調査研究の概況[pdf327kb]
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代表者氏名 水野 玲子 さん
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助成金額 50万円

研究の概要

2002年12月の助成申込書から
 化学物質による健康被害には多様な慢性症状が現れるため極めて捉えにくく、これまで、代表的な公害の水俣病やカネミ油症などでも、数少ない特異的な身体症状のみ"認定"の対象となり、さまざまな非特異的症状に重度に悩まされている人が未認定として切り捨てられてきました。  申請者は、これまでの"病像論"から離れて、新たに"環境汚染病"として、全身症状を総合的に捉える方法を探しています。  この研究では、杉並病の例をアンケート調査などの健康データから、健康被害をいくつかの特徴的症状の集合として捉え、パターン分析と症状のグレード化を試みます。 【 この助成先は、2002年度にも同様のテーマで助成を受けています → 2002年度の助成事例 】

中間報告

中間報告から
 地域の異なった環境汚染源による健康被害に悩んでいる人達が大勢います。しかし、その病像はきわめてまちまちであり、多くの場合、これまでの病気の概念にあてはまらず、健康被害として認められていません。テーマ「杉並病を始めとする環境汚染病の病像パターン分析」は、それらの病像を少しでもわかりやすい形で整理することを目的としています。地域の環境汚染の影響としては、ごくありふれた頭痛、吐き気、咳などの不定愁訴といわれる症状が多いが、化学物質の発生源により特異的な症状がみられることもあります。それら症状をまとめて捉え、さらに特定の病像シンドロームとして捉える方法はないだろうかと考えています。新しい試みで難しいが、その方法を模索しています。この数ヶ月の分析から、杉並病の病像がインド・ボパールでシアンやメチルイソシアネートが原因といわれている農薬工場爆発事故による健康被害と類似しているとの感触を得ています。  なお、今年度のテーマと並行して昨年度に個人助成を受けたテーマ「人口動態統計による胎児の死産調査などの分析」に関して引き続き研究をしています。6月にYomiuri Weeklyに掲載された後にいくつか反響があり、死産の原因などについて調査を継続中です。  同時に、今年度団体で助成を受けているカネミ油症被害者支援センターの活動の一端としての女性生殖影響調査を担当しています。その結果を米国ボストンにおけるダイオキシン国際会議で8月末に発表して最近帰国しました。(その内容についてはORGANOHALOGEN COMPOUNDS Vol.63 P 437-440(2003)を参照のこと)。

結果・成果

完了報告から
 “環境病”の定義はまだ定かではないが、化学物質による健康被害が社会問題化しています。その一例として、東京のど真ん中で現在進行中の杉並病をみても、未知の化学物質被害の実態を捉えることは容易ではありません。それは、環境病を理解するための認識がまだ広く共有されておらず、それゆえに個々のケースの特殊性を捉えることがいっそう難しくなっているからです。本研究では、まず、既存の医学では説明できない“環境病”とは何か、ということから出発して検討しました。その結果は1.「環境病への新しい研究視角―医学的に説明できない症候群の環境要因の解明に向けて」雑誌、公衆衛生(7月号)に寄稿しました。次に、これまで各地でおきた化学物質による健康被害事例、その他に特定の化学物質による健康被害の症状などを比較検討しました。有機リン系農薬による健康被害、化学物質過敏症、三西農薬被害事件(有機塩素系、有機リン系、カーバメート系農薬の被害)、ボパールガス中毒事件、杉並病、シックハウス症候群、湾岸戦争症候群、ベトナム帰還兵症候群、カネミ油症、ダイオキシン被害、その他、ガス中毒例などです。  また、昨今、これら化学物質による被害との類似点が指摘されていますが、医学界において原因不明とされているいくつかの症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症候群などと化学物質との接点について考察しました。後者の作業のもつ意味は、医学界では原因不明の症候群ではあるが、化学物質との関連が疑われはじめた症候群を考察することにより、それによって得られた視点は、これら以外にも埋もれている多くの健康被害と化学物質との接点を探るために役立つのではないかと考えました。この考察の結果は、2.「原因不明の症候群の環境要因の解明にむけてー慢性疲労症候群と線維筋痛症候群―」(雑誌、公衆衛生8月号予定)としてまとめました。  また、これら作業の結果、個々の事例は異なった原因による健康被害ではあるものの、そこには化学物質によりもたらされるきわめて類似した症状や症状群があることが明らかになりました。それについて、3.「環境病をよりよく理解するための症状分類考」で現在執筆中(発表先未定)です。それは、既存の医学における症状、症状群の捉え方では環境病を理解するのには適さず、環境病をよりよく理解するために新しい症状分類を用いればよいのではないか、という症状群組み替えの提案です。また、その内容を、各地で過去におきた化学物質被害の事例も含めて、図解中心でわかりやすい環境病の冊子としてまとめたい。  以上の経過をたどり、他の健康被害との比較の中で未知の環境病“杉並病”の特異性が次第にみえてきました。それは、杉並病の健康被害がインド、ボパールでおきたガス中毒による健康被害ときわめて類似していることです。他の幾つかの環境病の事例、湾岸戦争症候群、化学物質過敏症、化学物質暴露の影響を疑われる慢性疲労症候群、線維筋痛症候群などには症状群に共通点が多くみられます。それらを個々に検討した結果、化学物質被害のひとつ症候群パターン、環境汚染病シンドローム1としてまとめることができるのではないだろうかと考えています。そのように特徴的症候群をまとめてシンドロームとして捉えることにより、環境病がより理解しやすくなるように思います。  これらの作業を積み重ねることによって、杉並病やボパールガス中毒事件が、シンドローム1とは異質の健康被害であることが次第に浮き上がってきました。ボパールガス中毒被害は、その原因物質としてメチルイソシアネートやシアン説がこれまでだされています。一方、杉並病は市民グループの調査からトルエンジイソシアネート説がだされていますが、その説はまだ多くの人に認められているとはいえません。この両者の健康被害が類似していることを説明するためには、以上のような環境病シンドロームのパターンを分けてみることが有益であり、より説得力をもつのではないかと考えています。4.「杉並病とボパールガス中毒―環境病シンドロームからの考察―」を執筆予定。 前年度助成テーマ継続 “なぜ日本で近年、男の子の胎児死が増加しているのか”  前回度助成を受けたテーマを継続研究している。なぜわが国で1970年代後半より男児の胎児死のみが増加しているのかという問題は、環境中に女性ホルモン作用をもつ物質が増加していることと関連しているのではないか、また、それはわが国で起きている重要な環境ホルモン問題なのでないか、と以前から疑問に思っています。今回、人口動態統計より死産原因のみならず、乳児死亡原因として目立った変化が近年おきていないかと調査した結果を環境ホルモン学会に発表しました。  「乳児死亡原因、死産原因中の尿路系疾患、尿路系先天奇形の増加」(2003年環境ホルモン学会要旨集)。環境ホルモンの男性生殖系への影響は動物実験だけでなく、ヒトにおいても尿道下裂の増加、デンマークなどで尿細管の発生異常の増加などが問題になっていますが、ヒトの発生時には生殖器官の発生の前に尿路系の発生がおこります。この尿路系の先天奇形や疾患の増加が原因での死産、乳児死亡が近年日本で増加していることが明らかになりました。この調査から性別は明確にはできませんでしたが、男児の尿路系の発生は女児に比べてきわめて複雑で問題が生じやすいといわれており、胎児の死で男児が増加している事実と、死産原因としての尿路系の発生異常が増加している事実とを並べて考えると、男児の胎児死増加の原因として、このような生殖器の発生に先行する段階で何かしらの変化がおきている可能性は指摘できます。

その他/備考

対外的な発表実績
今年度助成テーマ  環境病について 1.「環境病への新しい研究視角」 ―医学的に説明できない症候群の環境要因の解明に向けてー 雑誌 公衆衛生(医学書院) 2004.7月号 掲載     2.「原因不明の症候群に環境病の疑いを」 ―慢性疲労症候群と線維筋痛症候群と化学物質との接点― 雑誌 公衆衛生(医学書院) 2004.8月号 掲載予定 前年度助成テーマの継続研究 “なぜ日本で男の子の胎児死がふえているのか”  1.環境ホルモン学会発表(2003.12) 「乳児死亡、死産原因中の尿路系疾患、尿路系先天奇形の増加」 人口動態統計の分析より  研究発表会要旨集(仙台) その他 1.ダイオキシン国際会議発表(2003. 8)Organohalogen Compounds 63  R. Mizuno, R.Sato, H,Isizawa, S.Sakashita et al. “Reproductive Effects on 65 Yusho Women -35 Years After PCBs/PCDFs Exposures- 2.カネミ油症の女たち  ―35年後のダイオキシン、PCB被害者調査からー  雑誌 環境ホルモンVol.4(藤原書店)“環境病” 2004.1

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