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ダム開発に翻弄される人々に寄り添う アジアの市民科学者を訪ねて カンボジア編 アジア助成担当プログラムオフィサー 白井聡子

 2019年6月26日〜7月9日までの日程で、今年度(第18期)助成先訪問のため、ベトナム、インドネシア、カンボジアの3カ国に出張してきました。今回は、その中からカンボジアについてご紹介します。カンボジアの助成先はMy Village LS2 Community Action Research Team(以下、MV)で、助成テーマは「地域での知識獲得:セサン下流2水力発電ダム(以下LS2ダム)の影響監視」です。
 メコン川支流のセサン川下流域のダム建設により影 響を受けた地域住民(多くは先住民族)の生活上の問題や河川生態系への影響について調査を行い、改善すべき点を、住民自らが関連当局と交渉し、政策決定につなげていけるように支援するという内容です。

ストゥントレン到着

 MViの事務所にて
 (右端が申込者のナリス・ポーさん)

 MVの活動拠点があるカンボジアのストトゥントレンは、ラオス国境に近いストゥントレン州の州都で、首都プノンペンから約300km北に位置しています。この町はカンボジア北部の交通の要衝で、3つの国際河川(セサン川、セコン川、スレポック川)がストゥントレン付近で合流した後にメコン川本流に合流する場所としても知られています。
 プノンペンから夜行バスに乗り、メコン川沿いを北上し、夜明け前のまだ暗い朝4時半頃に現地に到着しました。セコン川沿いのホテルにチェックインし、仮眠を取った後にMVの事務所に向かいました。事務所では、助成プロジェクトの申込者ナリス・ポーさんはじめ、他のスタッフの出迎えを受け、事務所で1時間ほど団体概要、事業概要の説明を受けた後、早速、支援対象地に向かいました。

 LS2ダムの建設により移転を余儀なくされた村はいくつもありますが、今回は、MVが支援している3つの村のうち、クバール・ロミア村を訪れました。実はこの村は、移転に応じた住民が暮らす新しい地区と移転を拒否して元々住んでいた場所のダム開発に翻弄される人々に寄り添うアジアの市民科学者を訪ねてカンボジア編近くで住み続けている地区に別れてしまったため、前者をNew village、後者をOld villageと呼び分けています。MVは定期的に各地区を訪問し、住民ミーティングに参加して現状(補償の進み具合や困りごとなど)をヒアリングしているそうです。今回は私の訪問に合わせてその機会を設定していただいたため、両地区を訪問することができました。


新・クバール・ロミア村

 まず最初に向かったNew villageでは、2014年にダム建設が始まった時から移転が始まり、訪問時点で72家族が暮らしているということでした。移転先として、計画的に作られた村のため、家の造りがほぼ同じで、真新しい青い屋根に高床式の住居が等間隔に並び(下写真左)、整然とした印象を受けました。ミーティング場所となる住民のお宅に到着すると、この地区の住民や、若者グループのメンバーなどが次々に集まり、コミュニティ全体の地図(下写真右)を囲みながら、補償の進捗状況や今の課題などを出しあっていました。この場で聞かれた課題は、主に以下の内容でした。
 ・乾季に飲料水の確保が難しく、行政に雨水タンクの設置を要求している。
 ・ダム建設で村が分離したため、子どもの数が少なく、小学校しか機能していない。
 ・医療機関は他の村の施設を使わないといけない。
 ・ダムができてから、短時間に急激な水位上昇が起きるようになったが、警報システムが連動していな
  いために、不安である。
 ・獲れる魚の種類や量が変化した。(MVとして調査中)

  

   新・クバール・ロミア村にて


旧・クバール・ロミア村

 昼休憩を挟み、移転先の村から1〜2時間ほど車を走らせてOld villageに到着しました。大通りから村へ続く細い道に入ると、大小さまざまの個性のある一軒家が、十分な距離を保ちながら点在し、先に訪問した移転先が大通りに面していたことを考えると、静かでゆったりした空気が流れ、「移転先は狭く窮屈だから引っ越したくない」という人が多かったというのも頷けました。
 Old villageには52家族が暮らしています。Old villageの人々は、ダム建設の当初から「移転に反対し、ダム周辺地に勝手に居座り続けている」として、補償の枠組みからも外されるどころか、基本的な公共サービスも受けさせてもらえない孤立した状態が続いたそうです。住民らはこうした問題をMVのサポートのもと、国や地方レベルの関連当局に問題を伝え、対策を講じるように交渉してきました。2017年初めに、いよいよ州から、移転を拒む人々には補償の責任を持たないとする通告文が届いたため、今度は州知事宛てに、改めて責任を持って補償に応じるよう要請文を出したところ、2018年10月、ついに州知事が住民と面会することになったということでした。
 要請の主旨は、1.土地の登記、2.道路の修理、3.学校教育、4.飲み水の整備(井戸掘削)、5.医療サービスで、いずれも、ダム建設前には享受できていたサービスであり、当然の権利として求めたものでした。
 話し合いの結果、様々な対策が約束・合意され、その土地に住むことも正式に認められるようになったそうです。それから10カ月弱が経った今回のヒアリングでは、約束されたことは道半ばで、課題は依然として山積みであることがわかりましたが、この合意をきっかけに、警察による 検問は消え、支援するNGOもこの地域に堂々と入ること ができるようになったことを考えれば、一つの転機を迎えたと言えるかもしれません。

  

   旧・クバール・ロミア村にて


終わりに

 独裁化を強めるカンボジア政府は、政府に批判的なあらゆる勢力(野党、メディア、NGOなど)を解散させる強硬な手段をとってきたため、現時点でカンボジア国内に正式に存在しているNGOは、政府に近い立場にあるか、あるいは、“賢明な”やり方で生き残っている団体と言えるかもしれません。
 LS2ダムがもたらした住民の強制移転問題については、「当初、多くの住民の目的だったダム建設中止という大目標が、いつしか、よりよい補償をもらう交渉へと変更していったのは、住民の声を代弁するはずのNGOが逆に住民を操作してしまったからではないか」と、NGOに対する厳しい論評もあるようですが、独裁政権下において、ダム開発という国策事業に反対する実質的な選択肢がない中、NGOらはやれることを模索しながらやっているというのが今回の印象でした。MVにもこの点を尋ねると、「自分たちが、(政府に目をつけられて)活動できなくなると困るのは住民。そうでなくとも、私達はコミュニティの立 場を尊重し、ファシリテーターに徹している。例えばOld villageの住民は、移転しないという選択をした。 私達はその決定に沿って、村としてどうしていきたいかという議論を見守り、 行政に要望したいことがあれば、 効果的に 伝えるためのサポートをし、自分たちの声を広く発信したいということであれば、独立系メディアを活用してその手助けをする。私達はあくまで裏方であり表に出ることはない」と話していました。
 実は、ストゥントレンの南部に河イルカの生息地として有名なクラチエという町があり、その近郊にサンボーダム(発電容量2600MW)の建設計画が持ち上がっています。LS2ダム(同400MW)よりはるかに規模が大きいため、多くのNGOがこの影響を問題視し、活動資源をサンボーダムに移しています。NGOも限られたリソースを緊急性の高い現場に向けるのは自然な流れと言えますが、LS2ダム周辺地域の影響住民にとっては、この「撤退」に取り残され感を感じる人も少なくないようでした。確かに、 LS2が完成し稼働してしまった今となっては、住民の要望 は当初の「ダム建設反対」から「補償の話や具体的な生 活の改善 」 にシフトしているため、NGO としてインパク トを生み出す仕事は残っていないのかもしれません。それ故、MVのようなローカルNGOが継続的に影響地域の人々 に寄り添い、支援していくという地道な取り組みには大きな意義があると言えます。一方で、流域からグローバルに見れば、LS2ダムよりはるかに大規模のダムが建設されるということになれば、流域生態系や住民の暮らしに相当な影響を及ぼすことは容易に想像でき、この問題に取り組むことがいかに重要であるかは言うまでもありません。
 以前よりLS2ダム問題に取り組む、国際NGOメコン・ウオッチの土井利幸氏も「LS2ダムの問題では、NGOらがなかなか戦略的に動けなかったという反省がある。それが教訓としてサンボーダムの阻止につなげられるかというのが今後の焦点になりそうだ」と話していますが、LS2ダムを含め過去のダム建設に払われた多くの犠牲を、いつ動き出してもおかしくない巨大ダム事業にどれだけ活かせるか、今後の動きを注視していきたいと思っています。

 今回のカンボジア訪問に際しては、国際NGOメコン・ウォッチの土井利幸さん、現地ではプノンペン在住のコル・リーカナさんにお世話になりました。この場を借りまして御礼申し上げます。


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